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77.過ち

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「……ごめんなさい」

 踵を返し、痛がる彼の手から逃れ、その場を離れる。

 ……が。

「待てよ」

 出入口へ向かおうと身体を向けた途端、彼の手が目の前に突き出され、行手を遮った。

 またビクッと、身体が震える。
 彼に視線を向けると、口の端に血をつけた彼の表情に、血の気がサーッと引いていくのが分かった。

 鬼の形相とはこのことだろうか?

 酔ってシンを怒鳴っていた時とはまた違う。

 怒りに加えて、とても憎悪に満ちていた。

「逃げられると思うなよ、結奈」

「っ…あ!」

 怯えている間に隙を与えてしまい、背を向けられたと思えば身体をグッと壁に押し付けられた。

 押し潰されるようだ。
 壁で肺が圧迫されて、息が苦しい。
 浅井さんの荒い吐息が耳にかかる。
 カチャカチャと、金属音が聞こえた。
 聴き覚えがある。
 それは、この部屋で以前聞いた音…

「や、やめ、て…っ!」
「うるさいよ」
 
 違和感のあるものが、下半身に擦られる。

 嫌でも、何をされるか、分かってしまった。
 必死に手を伸ばすも、いつにも増して低く、彼は唸るような声を上げる。

「……結奈が悪いんだよ」
「っ…いやっ……」

 抵抗も虚しく、簡単に彼の片手に両手を奪われ、後ろ手にされたまま身体を押し付けられた。
 手を取られ、男の人の身体ごと壁と挟められてしまえば、なす術がない。

 空いた方の手でコトを進めるのは、彼にとって造作もないことだった。

 そうして私は、自分の不甲斐なさにまた後悔する。
 あぁなんで今日はミニスカートを履いてしまったんだろう…
 
 浅井さんの片方の手が、擦り付けていたそれの狙いを正す。

「いやっ…イヤぁ‥浅井さん…やめて…お願い……っ」
「騒ぐな」

 必死に抵抗して身体を揺らすも、敵わない。
 その間にも、何度も試すように、ソレは行き来する。

「いやぁあ…!」

 ああ。恐い。

 抵抗が意味を成さない程、怖い事はないのだなと、初めて気付かされる。
 肺の圧迫で掠れた声に、恐怖で涙が溢れて。

 何が起きているのかすら、理解が出来ない。

 下着をずらした先が、荒々しく押し付けられていく。
 首をたくさん、横に振った。

 それが無駄な事だと、頭の隅では分かっているのに。

 誰か助けてと、声を上げたくても、泣きじゃくった喉はうまく声を紡げない。
 
 誰かって、誰?
 
 そう問いかけて、涙を零しながら宙を見上げ眉を顰めた。

 シンを利用しておいて、頼ろうとするなんて。

 どうして、願ってしまうのだろう?

 これはきっと、私への罰だというのに。
 
 

 ──何故、間違えてしまったんだろう?
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