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43.温もりに流されてはいけない

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「…ちょっと!?し、シンさん!?」
「勉強はもう辞めだ。このまま寝ろ」
「ぱ、パソコン!付いてますけど!」
「時間経つと勝手に消える。保存したからもう平気」

  彼の腕が、ギュッと私を包み込む。

  自分の心臓が、強く音を立てたのが分かった。

  こ、このまま寝れるもの…!?

「…あんた、ここ数日慣れない事して、気を張ってたんだろ?」
「っ……?」

「自覚無いんだろうけど。
無理してんだよ。
それに…昨日あんだけやって身体痛くないわけ無いからな」
「あっ…!」

  腰を撫で上げられ、ビクッと身体が動く。
  しかしそれに合わせて、筋肉が痛みを発した。

  これは筋肉痛だろうか…?

「筋肉が強張ってるの、分かる?」

  ウンウンと頷くと、彼は手を下ろした。

「それでいい。
じゃないとちょっと傷つく」
「え?シンさんが?」
「そ。それと」

  今の今まで顔が見えなかったが、片手で顎を摘まれ、上を見上げさせられたと思えば、ジッと黒い瞳が私を見下ろした。

「いつまで付け?
外ではともかく…昨日も言った気がするんだけど」
「え…あっ……」

  少し不満げな眉の動きに、ハッとした。

  それ、気にしてたの!?

「言って?」
「え、えっと……」

  強制発声。
  
  そんな言葉が過っても、彼を見つめるとなんだか、胸が熱くて、とても恥ずかしい事を言おうとしている気がして。

  熱い顔を見られているのが恥ずかしくて、目を少しだけ背けた。

「し、シン……」

  触れる身体が熱い。
  私の風邪のせいなのだろうか。
  それ以上に顔は熱くて。

  ポツポツと、昨日のことが蘇る。

  思えば、昨夜は彼の名前をたくさん呼んでたのよね私…!

  あの時は頭がボーッとして……それで……呼ばずには、居られなくて……

  なのに……どうしてこんなに今、恥ずかしいんだろう?

  彼の目が、見れない。

「コレで…満足ですか…!?」
「はぁ~……」

  なかなか何も言わない彼に痺れを切らして顔を上げたが、彼は顔を逸らし大きくため息をついた。

「ど、どうしましたか…?」
「なんでもない」

  何か言い方を間違えたかと首を傾げるも、彼はまた腕の中に私を引き寄せた。

  彼の顔が髪の毛に埋まる。
  頭皮に刺激が伝わって、なんだか心地よい。

「……いい匂い」
「それはシン、の、シャンプーの…」

  彼から伝わる心音が、さっきより早く強くなっていて、自然とドキドキする。

  何だろうこれ…何されてるんだろう…?

  緊張するのに、心が満たされて、段々と暖かくなっていく…

  この感覚に、争うべきなのか、それとも、身を委ねて、いいものなのか…

『嫌なら、拒否っていいから。
でも、俺の彼女なら、いいよね?』

  急に頭の中に浅井さんの言葉が浮かんで、胸の奥がチクリと痛んだ。

  ……

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