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42.おでことおでこ

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「…勉強ですか?」

「やる事はやっとくってだけだ。
細かくレポート作っとけば楽だろ?」

  カバンに入れてたらしい小さなパソコンに向かっている彼に、思わず感心する。

「では、私も…」
「あんたは早く寝ろ」
「え、でも…」
「一人じゃ寝られないってか?」
「いやそれは無いですけど!」

  家の主人より先に布団に入るなんて事あっていいのだろうか?
  いや、経験がないから、分からないけど…!

  そう頭を悩ませていると、彼はため息をついて立ち上がり、ベッドの布団を開き、私の手を引いた。

「シンさん…?」
は布団の入り方も知らないみたいだからな」
「ひゃっ…!」

  わざとらしく強調したと思えば、ひょいとまた抱き上げられて鮮やかに布団へ入れられた。

  掛け布団もしっかり被せられて、寝る準備は万端って感じだ。

「これでよし。
電気消すぞ。
先に寝ろ」
「寝ろって…消したらパソコンの画面眩しいんじゃ…!
目も悪くなるって言いますし、起きてますから、終わるまで…」
「ダメだ」

  言い切って、彼はリモコンを使って照明を落とした。

  常夜灯がわずかに光るも、やはりパソコンが明るい。

  そんなに急いで寝かせなくても…って、子供扱い!?

「い、嫌です!
今日くらいちゃんと…」
「はぁ…あんたって本当に鈍いね」

  いつの間に屈んでいたのか、彼の顔が突然目の前に降りてきた。
  反射的に目を瞑ると、コツンと額に何かが当たる。

  これは…おでこ?

  目を開くと、真っ直ぐ私を見つめる彼がいる。

「あんた、熱出てるんだよ」
「えっ…!?」

  まだ熱い、と彼は自分との体温差を確認したのち、そのままベッドへ私を押し倒した。
 
「ボーッとしてるから熱が上がっても気付かないのか?

「確かに…微熱くらいなら薬を飲んで学校行くようにと父から言われてたので…それがずっと染み付いてるかもですね…」
「ずっと、っていつから?」
「小学生から」

  押し倒されたというのに、ドキドキよりも彼との話に集中しようとしていたり、自分の吐息が少し熱かったりすることにようやく気付いて、これが熱のせいだと学んだ。

「へぇ…割とスパルタ」
「そうなんですかね…?
慣れちゃったから平気ですが…」
「身体の不調も気付けないような鈍感に育てられたって考えたら、そうだろ」

  彼は隣で手に頭を乗せて横になった。

「普通はちゃんと休むものだ。
身体痛く無いのか?」
「えっと…下半身が筋肉痛ではありますが…」

  言われてみれば身体中痛みがある。
  筋肉痛にも似てるけど、これは…

  本当に私、自分の事すら、分かってないんだ……。

「……もういい」
「えっ……っ」

  気怠げに聴こえたため息と、布の擦れる音がしたのち、横を振り向くと、器用な彼の腕にいつの間にか引き寄せられていた。
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