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8.思わぬ理解を得てしまいました

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  ことは数刻前に遡る…

「どうしよう……」
「……終電過ぎてたな」
「それは迎えを呼べばなんとかなるのですが……っ!」

  駅に着いたものの、既に終電の時間からだいぶ経っていることに気づき、2人とも改札前にして立ち止まった。
  既に人がほとんどいない。
  ついクセで、家に頼ろうとケータイを握っている自分に気付き、首を何度も横に振った。
  
「へぇ……便利だね」
「いえ、ダメです!
今はお家に頼らないと決めているのです……」

  画面を閉じて、ギュッと握った。
  彼もまた時間を気にしてか、画面を確認していたが、ふと顔を上げた。
  
「……訳ありってやつ?」
「そうです。それもあります。あと……」

  もう一つ、私の大事な問題は……

「誰かと性交渉して子作りする絶好のチャンスを逃してしまいました!」

「は…?」

  フードの中で彼が目を丸くするのが見えた。

  あ、思わず声に出してしまいました…

  澤田さんは一歩こちらに歩みを進めた。

「つまりアレか?浅井が言ってたことはほぼ間違いじゃなくて、あの路地でのことも同意の上…?」

「ひっ…あの、はい…そういうことになります…」

  先程の圧を思い出してビクッと身体が震える。
  浅井、というのがあの人の名前なのだろう。
  凄く申し訳ないし、意味は間違えていないのだから、そうでないと否定は出来ないが…

  澤田さんは目を細めて、小さくため息をつき、額に手を置いた。
  幻滅された…!

「マジか…邪魔して悪かったな。
明日浅井に謝っとく」

「い、いえ…!
あの、もうあの人には頼まない方がいいなと感じたので…あの…えっと…」

  言葉にしようとして、思い出しては、震えが蘇る。
  初めて感じた、恐怖だった。
  
「……あんた、震えてたよな、あの時も」
「え?」

  フードに少し街灯の光が入って、二重瞼の彼の顔が見えた。

「あんた泣いてたし。浅井も、中々持ち帰りなんて出来ないタイプだから、だいぶ興奮してたみたいだし。
てっきり路上で犯されて、助け求めてんのかと思ったんだよ」

  少し拗ねた物言いで、不安そうな顔で。
  浅井さんより低くて静かな声なのに、それが分かって、なんだかホッとした。

「いえ…正直、あの場でああいう破廉恥な事はしたくありませんでしたし…私も初めてで、戸惑ってしまい…
助けてくださり、ありがとうございました!」

  丁寧に深く頭を下げると、彼もまたホッとしたように僅かに口角を上げた。
  良かった…ずっと仏頂面だったけど、普通の人だ。

「そう。余計なことしたかと思った」

「いえいえです!
先程から取り乱してしまいすみませんでした!
何かお礼をしたいくらいですが、こういう場合は謝礼金がよろしいですよね?
おいくらほどでしょうか…?」

「お礼……ね……」

  目を伏せたと思えば、彼は無表情に答えた。

「さっき言ってた、子作りってやつさ…」

「あ…はい!」

  我ながらスッカリ頭から抜け落ちていた!
  お礼をしたら運転手を呼んで屋敷へ帰ってそれでまた作戦を練り直して……

「俺が相手してやろうか?」

「……へ?」

  思わず、財布を落としてしまった。
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