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亜貴の本性…理央のホント
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しおりを挟む「はっ…はっ……はっ……!」
肩で息をしながら、汗を垂らしながら。
我ながら無様に、必死に駆けた。
そのまま病院の自動ドアを潜って、すぐ近くのソファーにかける、見覚えのある長身の黒髪を見つけた。
「亜貴!」
「……声がデカい」
制服姿の亜貴は、俯かせていた顔をゆっくり上げて、静かに呟くように言った。
左頬に大きくガーゼが貼られ、口元も切れているようだが、これといって出血めいたものは見られない。
……無事、だ。
「よ、よかった……!」
膝から崩れて、床にヘタリ込む。
心臓が痛くて、汗が止まらなくて、片手で胸を押さえながら慌てて拭う。
無事だ。亜貴は、無事だった。
それだけで、こんなに、安心するなんて。
「……そこ、汚いぞ」
「もう、ヘトヘトだから、いいんだよ別に……」
「パンツも汚れる」
「うるさいな!」
近くに座っている老人がこちらを見て手を隠して笑ったのを見て、ムッとしつつも立ち上がった。
「亜貴を、探したんだ」
「なんで?」
「いや、なんでっていうかお前! ケータイ連絡つかねーし……」
「ケータイ家だから」
「ったく……」
亜貴の近くに歩み寄ると、亜貴は目を逸らして、床の一点を見つめる。
「……純は帰れ」
「は?」
「このダセー顔、見られたくない」
「ダサいって……」
亜貴の前に立つと、おもむろに顔を逸らされた。
でも、言いたいことが分かった。
虚勢を張っているように聞こえるが、亜貴の瞳は何かが抜け落ちたような、心ここにあらずのような……空っぽに見える。
あの、不良達に囲まれた時と、似ている。
「……帰らない」
「帰れ。理央はどうした?」
「っ……知らない」
「何? ケンカ中?
それはいいことで」
「違うっ!
そんなんじゃない……!」
違う。今、ケンカしたいんじゃない。
グッと力を入れて、拳を握る。
「理央先輩とは…別れる」
「は……?」
目を丸くして、亜貴は顔を上げた。
「……気の迷い?」
「ち、違う!
そうじゃない!」
「だって、そうでしょ?
やっと好きなヤツと付き合って、何もかも上手くいったじゃん。
別れる理由が見つからない」
亜貴は無表情に見上げている。
そりゃ、そうだ。
オレは今まで、何もかも満たされて。
幸せじゃない、わけがなかった。
「……オレも、それが正しいと思ってた。
ずっと、オレが好きなのは理央先輩だって、自分に言い聞かせて……でも、違ったんだ。
オレが、本当に好きなのは、亜貴なんだよ」
オレが、導き出した答え。
見ないようにしていた、本心。
「……乗り換えみたいなこと言うなよ」
亜貴の目が、鋭くなった。
「は……?」
亜貴は顔を逸らして、吐き捨てる。
「要は俺と離れて、寂しくなったんじゃねーの?
恋人に選べんのは1人までだから。
俺はあくまで予備で、保険で、上手くいかないから乗り換え…」
「亜貴……」
その通りだ。
離れて、初めて気づいた。
亜貴に侵食されていること。
オレの中の亜貴の存在が大きくなっていたこと。
亜貴は、オレのそばからいなくなることはないだろうと、勝手に決めつけてた。
でも……。
オレは、目を逸らしたままの亜貴の隙をついて、ゆっくり抱き締めた。
亜貴が息を飲んだのが分かる。
身体に力が入ったことも、分かった。
包み込むように、優しく。
ずっと、裏切ってしまっていた亜貴を、受け入れるように。
「散々、傷付けてごめん。
ちゃんと素直になれなくてごめん。
寂しくなったのは当たってる。
先輩と一緒にいて楽しくなかったかと言われれば嘘になる。
でも、いつだって、亜貴のこと考えてた。
亜貴が、ここから消えないの」
胸に手を当てると、亜貴は少し首を動かし、息を吐いてオレの肩を押し返した。
「……汗、すごいんだけど」
「あ、わ! ごめん!!」
一瞬すっかり忘れてた……!
ハンカチで拭くも、これでいいのかと悩む。
アワアワするオレを見て、亜貴はフッと笑った。
「……純は理央が好きだよ」
「っ! 違う」
伏し目がちに、オレを見る亜貴。
「俺はお前のこと、遊びとしか思ってない。
理央を好きなのは前から知ってた。
だから、邪魔したら面白そうだなと思って、それだけ」
「亜貴」
制して、亜貴の頭を両手で抑え、顔を合わせた。
亜貴は、寂しそうに眉を寄せていた。
ドキッと、心臓が音を立てる。
「俺は、お前のこと幸せに出来ない」
『亜貴に純ちゃんは幸せに出来ないよ』
理央先輩の声が、遅れて聞こえた気がした。
それは、誰に言われたんだろう?
そんなこと、誰が決められるのだろう?
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