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2人に流されて…最低なオレ。

10 ☆

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「ん……」
「おはよ」

朝起きると、背中が温かかった。
声の主が、誰か分かる。
この手が、誰か分かる。
覚えてる……。

「亜貴……」

亜貴の腕枕。
布団の中で、上から更に包むように腕が下りていて、衣服を纏わないお腹を優しくさする。
髪の毛にキスされて、身体が、ピクッと反応した。

「身体、痛む?」
「…………」

乱暴なことしたくせに、優しい口調の亜貴。
あの時の亜貴とは、まるで違うように感じた。

亜貴に包まれて、目覚めの良い朝で。
入れ替わっていないことも、嬉しい話で。

嫌がれとか言われたけど、本気で嫌じゃなかった。
亜貴が好きだからだと、思うし、亜貴との繋がりが欲しかったのだとも思う。
だけど、何か、虚しい。

「……中には出してないけど、生だったし、気をつけて」
「……何に?」
「さすがに、妊娠したら責任取るから」
「っ……」

振り返ろうとすると、亜貴はギュッと両手で抱き締めた。
肌と肌が触れ合って、身体が、ジンジンする。

「理央とヤるなら、ゴム付けろってこと。
誰の子か分かんなくなる」
「……そんな心配するなら付けろよ」
「やだ」

亜貴は子供のように、髪に顔を埋めた。

「純とヤるのは、これで最後だし」
「っ……亜貴……」
「だいぶ奥まで突いてたし、すぐ流さなかったから、手遅れかもだけど」
「……ばか」

思い出して、顔が熱くなる。
亜貴は、口調に反して凄く…優しかった。
亜貴の身体は自分で洗ったことあるから、アソコのことも分かってはいるんだけど…
あんなのが入ったのに、処女なのに、痛みはあったけど出血は無かった。
大事そうにキスされて、抱き締められて……
何度もオレの名前を呼んで。
めいいっぱい堪能されて、これでもかってくらい激しくされて、何度も犯されたのに……

愛されてたようにしか、思えなかった。
情熱的で、凄く、愛のある行為だった。
それは今でも思い出されるし、今の亜貴の行動1つ1つが愛しいと思えている。

女の人は中でイクのは難しいって聞いてたけど、何度もイかされて、その度にキスと、愛を囁かれて。

一体これのどこが、強姦なのだろう?
亜貴の想いを、全身に受けた気がした。
それが今、余計に後悔させている。
何故もっと早く、素直にならなかったのかと。

「……気持ち良かった?」
「……うん」
「フッ、素直」

亜貴は首元で笑った。
オレは居ても立っても居られなくて、振り返った。
亜貴の腕は、すんなりと通してくれた。
亜貴と向き合う。
亜貴の胸板と、身体が密着して、また熱が上がった。

「亜貴……好きだ」
「理央のことが?」
「っ!違う!
どうして……っ」

亜貴はオレを否定する。
昨夜から、ずっとこうだ。

『身体だけの関係ってこと』

『お前は理央のことが好きだよ』

オレの言葉は、亜貴に届かない。
もう、受け付けてはもらえない。
セフレの関係って、こんな感じ?

いくら好きって言っても、相手に響かない。
それは身体を重ねる時だけの言葉に過ぎないからなのかもしれない。
身体が1つになっても、心が遠くに行った気がした。
行為が終われば、赤の他人で。
オレの「好き」は、そういう一時的な感情だと、亜貴は思っている。
それが、余計に辛くて、悲しい。
そう言われてしまったら、オレまで自信が無くなってしまう。
そんな言葉で、片付けられてしまうのか。

「純」

亜貴は今まで見たことないくらい優しい顔をしていた。
無表情貼り付けたような顔してたくせに。
いつになく、優しい微笑みだった。

「最後に、キスさせて」

頼んでくるわりに、有無を言わさず唇を重ねる。
触れるだけの、少し長いキス。
柔らかい亜貴の唇が、温かい。

ああ、これが、最後の、亜貴とのキスなんだ……。

「……何泣いてんの?」
「亜貴が…分からず屋だから……っ」
「分かってるよ」

亜貴はまた優しく、オレを抱き寄せた。
その指先が、少し震えていることに、オレは気づいた。

「両思い成立おめでとう。
好きな者同士、末長くお幸せに」

……分かって、無いじゃん。
なんにも。

『嫌がる純を襲って犯して、俺のことを忘れなくさせたいだけ』

最低なヤツに強姦されて?
大っ嫌いになって?
新しい恋でも始めさせようとでも思ったんだろうけど?

『俺の好きは、お前のみたいに軽くない』

『……狂おしいほど、愛してる』

あんな風に抱かれて。
愛されて。
こんなにも嬉しいと感じて。
大好きだと気付かされて……。

『今更そんな話聞きたくない』

『今夜だけの関係だろ?』

『俺と純は、そういう関係ってこと。
お前が俺を求めてたとしても、気持ちじゃないから』

ヤられて、終わり?

片想いの相手だった理央先輩と結ばれて、ハッピーエンド?
亜貴にフラれて、また片想いをして、実らないままバッドエンド?

どちらにせよ、2人を秤にかけてる時点で、今のオレは……最低だ。

ただ、亜貴との関係は、もう戻らないだろう。

この熱い抱擁も。
肌が触れ合うこの距離も。

この時間で終わりで、次は無い。

『……これは、俺が欲を満たすためだけだから』

『誰かのものになる前に、俺が奪うだけ』

亜貴は、ケジメをつけた。
こんなやり方で。
亜貴なりの、選択なのだろう。

それがオレの為なのか、理央先輩の為なのか、亜貴本人の為なのか分からない。

そして、オレが何を言おうと、亜貴は意見を変えないだろう。
始めて会った時から、オレの言葉は亜貴に響かないから。

『純…好きだよ』

『愛してる』

亜貴は無理矢理、オレの中に踏み込んで、爪跡だけ残して離れていった。
何度も囁かれたあの言葉を、どう処理していいか分からない。
亜貴に荒らされたまま、オレの心の中は放置された。
元に戻す方法は知らない。
悪魔のような亜貴の、最後の意地悪だ。
悔しいけど、仕方ない。
オレも、亜貴を忘れることはできない。
亜貴の、思う壺だけど、もういい。

抱き締められたまま、触れていた亜貴の胸板に小さくキスマークをつけた。

これで、終わり。

「亜貴が、好き、だった」
「ん」

声は震えて、亜貴の小さな返事に、少し期待したけど、それ以上は何も言われなくて。

終わった。
オレは、亜貴を愛してた。
今も、愛してる。
けど、それだけなんだ。
この関係は、今、終わったんだ。

自分でやって、何度も思って、それでもモヤモヤは消えなくて。


しかし、その日を境に、入れ替わりが、途絶えた。
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