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初めてのデートは嵐の前触れ

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「……んだてめぇ」

目を開けると、男の伸びてきた手がオレの顔の前で止まっている。
それを抑える、見覚えのある細長い綺麗な手。

亜貴だ。

亜貴が、助けに来てくれた?
よ、よかった。
これでなんとか、話がつくかもしれない……!?

顔を見上げて、ゾッとした。

亜貴の瞳はいつになく冷たく相手を見つめて、口を結び眉をひそめ怒りを露わにしてる。
こんな顔の亜貴……見たことない。

え、何いつもの見下した無表情で相手を挑発するように罵倒してこの場を去るんじゃないの!?
いつもの亜貴は、どうしたよ!?

「………」
「な、なんか言えよ!!」

痺れを切らした男が亜貴に突っかかる。

「……純に何しようとした?」
「ああ!?」

男は反対の手で亜貴の胸ぐらを掴んだ。
周りの男たちが、グッと寄ってくる。

「純に何しようとしたか聞いてんだよ。
んなことも答えられねーのかクズが」

……めちゃくちゃ煽ってるし!!

「はぁ!?テメー何様のつもりだガキが!」

睨み合う両者。
一触即発状態だ。
でも、相手は5人。
絶対、勝ち目ない。

てか、喧嘩なんかしたら……インターハイ予選出場停止処分になる!!!

「あ、亜貴……もうやめ……」
「黙れこのガキが!!
てめぇから先にぶっ飛ばすぞおらぁ!」

ガンを飛ばす男に、一瞬怯む。
その瞬間、亜貴の手が動いたのが見えた。
明らかに拳作って、男の頬を狙ってる。

ヤバい、ヤバいヤバい!!
その動きはまずいでしょ!!

どうしよ、どうしよどうしよ!!
この場を止めるには……!
一か八か、やるしか……ない!!

大きく息を吸った。

「きゃぁぁぁぁああああーーー!!!」

「!?」

バスケの試合ばりに、高いキーキー声で叫んだ。

「誰かぁあああーー!!
たすけてぇええええええ!!!!」

「…………」
「バカッ!てめっ!大声出すなっ!!」

「誰かぁあああ!!!
警察呼んでぇえええええ!!!」

上を向いて、恥も捨てて、大声で叫ぶ。

周りの人が不審がってる中、警備員らしき人が2人でこちらを覗いていて、近づいて来た。

「や、やべ……行くぞ……!」
「お、おう……!」

男たちは一斉に走り出した。

オレは、亜貴の手を握った。

そのまま追って行ってしまいそうな気がしたから。

「はぁ、はぁ……」
「…………」

亜貴はほんの少し口を開けたまま、逃げる相手をポカンと見ていた。
よかった……。
少しは、落ち着いたのかな?

「大丈夫ですか?」
「あ、はい、大丈夫です……ありがとうございます。
ご心配おかけしました」

警備員さんに頭を下げて、事情を簡単に説明する。
また何かあったら、と告げられて、その場は収まった。
その間亜貴は静かにただ、オレたちの会話を見ていた。
手は、繋いだまま。

「……亜貴、大丈夫?」

警備員さんが離れた後に、亜貴に声をかけた。

「…………はぁ……」

亜貴は、小さくため息をついた後、その場にしゃがんで顔を隠した。

「亜貴……?」
「……ごめん純。
カッとなった」

よかった。
さっきのトーンじゃない。
いつもの、亜貴だ。

「オレは大丈夫だから。
ちょっと腰抜けるかと思ったけど」

「……純。
ありがと」

同じ高さに屈んで、亜貴を見る。

「また、間違えるとこだった」
「また?」

亜貴が、ほんの少しだけ顔を上げる。

「純がいて、よかった」

手の隙間から見える亜貴の瞳は、相変わらず無表情で、何を考えてるかは読めなかったけど。
また、の意味も、亜貴が何故そんなに怒ったのかも、分からないのだけど。

……オレが助けられたんだけどなぁ。

と思いつつ、少し照れてしまった。

「助けてぇ。警察呼んでぇ。とか、今思うとちょっと笑えたけど」
「っ……!
あれは、ああ言うしか……!」

口真似しながら少し笑う亜貴に、顔が熱くなった。
恥ずかしい!
なるべくなら思い出して欲しくない……けど。
亜貴がそうやって笑ってくれるなら、いいかとも思う。

「……俺には純が必要だなって、再認識した」
「え……?」

見れば、目をそらす亜貴の頬が少し赤かった。
初めて見る、亜貴の表情。

なんで、そんな……

「っ//////
お、オレは、別に……ずっと、いるだけだったっていうか、亜貴に何もしてない、し」
「……いるだけでいいんだよ」

キュッと、手を握られる。

「純がいるだけでいい。
大事だから、2回言った」

そうやって、嬉しそうに微笑むから、聞きたいことは山ほどあったけど、みんな吹っ飛んでしまった。

「……わり。
楽しいデート、ぶち壊したな。
買ったばっかのスカート汚したし」
「壊れてないっ!
まだ、楽しいよ」

今度はオレが、キュッと握り返した。

「亜貴のこと、今日だけでいっぱい知れた。
オレ、結構、楽しい」

片言になったけど、真剣に亜貴を見つめると、亜貴はフッと笑った。

「良かった」

目を細めて、笑う亜貴の笑顔が、凄く好きだ。

「俺に興味が出たのは、良いことだ」
「きょ、興味って、そういう意味じゃ……!」

グッと手を引かれたと思えば、ずっと片手に持ったままだったシェイクを引き寄せる。

「もっと知って。俺のこと」

そう言って顔を近づけて、ストローを啜る。

「……甘い」

小さく呟くのを見て、照れ臭いのと、ちょっと恥ずかしいのとが重なった。

「あ!クレープは!?」
「あーまだ貰ってない……」

振り返ると、売店で気まずそうにこちらを伺う店員さんがいた。

うわー全部見られてたかも……。

「早く貰って来なくちゃ!」
「俺よりもクレープかよ」
「当たり前だろ!」

さっさと立ち上がって、誤魔化すように顔を俯かせる。

あのままじゃ、ヤバイよ。
1つ1つの仕草が、オレをドキドキさせる。
保てなくなる。
亜貴よりクレープが好き。
そういうことにしとかないと、もたないよ。
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