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51.殺される!

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  死んだ方がいいーーそう叫ぶと、思わず、息が切れた。

  肩で息をしながら、震える唇を両手でグッと抑える。
  過呼吸にでもなってしまいそうだ。

  今まで、どんなに孤立していても、考えないようにしてたはずなのに。
  気にしないように、してたはずなのに。

  いつか私を見てくれる人が現れるかもしれないって、希望を抱いていたのに。

  どうして、その相手に、こんな風に当たってしまうの?
  どうしてーー素直になれないの?

  ガチャーー……

「えっ……ひっ!?」

  車の扉が開いたと思えば、身体がグッと宙に浮いて、視界が反転する。

  抱き上げられたと分かったのは、部屋のベッドに降ろされてからだった。

  灯りのない真っ暗な部屋で覆い被さる影は、何を考えているか分からない。

  もう二度としないって、言ったのに……!

  まさか、私が、死にたいって言ったから……。

  ゴクリと、息を呑んだ。

  殺され、る……?

「ぶちょ……んっ……!」

  腕をギュッと握られ、隙を与えずにキスされる。
  今日のキスはもう済んだはずなのに、なんで……?
  やっぱり、さっき話したように、気を吸い付くして……?

「ん…ふっ……んん……!」

  壁に押し付けられた時は、まだ自分から動くことが出来た。
  両腕を掴まれ、組み敷かれたこの体勢では、足を動かすことしか出来ない。

  男性優位の服従姿勢。

  瞼を閉じたまま、貪るようにリップ音を漏らす部長に、恐怖に反して自然と身体が熱くなる。

「は…はぁ……あっ……!」

 さっきも吸われてしまったからか、力が入らず、抵抗が弱まると、部長は首筋にキスを落とした。
  ゾクっとして、柳生先輩の言葉を思い出す。

  首に、キスマークは……!

「いやっ!  嫌です部長!」
  
  必死に抵抗して腕に力を入れるも、部長は首筋に噛み付くようにキスをして、痛く強く吸い付いた。

「い、痛いっ…痛いです……!」

「……跡残してんだから、当たり前だろ」

  部長はぶっきらぼうにそう言う。

  跡を、残す……?
  何のために……!?

  抵抗を止めると、部長は私のシャツに手をかけた。

  な、何を……!?

  ボタンが外されたのが分かって、慌てて部長の腕を止めた。

「や、やめてください…!」
「なんで」
「なんでって…んっ……!」
 
  また唇が私を襲う。
  キスをしている間に、スルスルとボタンが外されていく。

「い、嫌です…やめて……!」
「死んだ方がいい人間に、尊厳なんてあるか?」

  そう囁く部長に、ハッと顔を上げた。
  部長は細めた瞼から黄金の瞳を覗かせてながら、私を見下ろす。

「…簡単に死にたいとか言うな」
「え……ん……」

  絞り出すような声で弱々しく呟く部長は、そっと私の唇にキスを落とす。

  そのキスも、少し震えていた。

「部長……?」

「……お前が死ぬなら、俺がその命貰ってやる。
死なせはしない」

  頬に鼻を擦るように、耳元で囁くその声は、とても切なくて。

「お前はもう、俺のものだ。
俺の好きにする。
俺が必要とする。
だから、死ぬなんて言うな」

  部長が私を殺すなんて、あり得なかったんだ。
  部長にとって私は、結婚しなければならない強制的な運命の人、で。
  子作りに必要な刻印の相手、で。

  単純に、死んだら困る、なわけで。

  そう思えばまた胸が痛んで、喉がジリジリと痛んだ。

「部長……私は……」

  きっと私はーー心まで部長を好きになれない。

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