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24.私たちは両思いじゃない

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「1時間だけやる。
その間に準備しておけ」

  1時間だけって……。
  まるで刑務所の看守みたいだなぁ、と思いつつも、部長に自宅へと渋々入っていく。

  入ってすぐが台所の古い木造建てだが、一応寝室もあり使い勝手がいい部屋だ。
  昨日も来たのに、どこか懐かしくすら感じてしまう。

「あと、鍵は俺が持ってくから。
間違ってもまたベランダから逃げ出すなよ。
次は無いと思え」
「わ、分かりましたよ!
てか、この前不法侵入した時は部屋の中何も見てないでしょうね……?
物色したりとか……」

  恐る恐る疑いの目を向けていると、あからさまに嫌な顔をして「俺をなんだと思ってんだ」と小声を漏らし、ため息をつかれた。

  それはもちろん、私のような地味女を娶るつもりでいる変態吸血鬼、ですけど。

「してねーよ。
ただ、次逃げたら……覚悟しとけ」

  流し目に黒真珠のような瞳が鋭く光るのを感じて、ゾクッとした。

  うん、今度こそ荒らされる。
  絶対逃げないでおこう。

「じゃ、ちょっと行ってくる」
「は、はい……」

  少し震えの混じる声を漏らしてその背中を見送り、バタンと閉まる扉に思わずビクッとして、「はぁ……」と肩を落とした。

  うちの扉、結構勢いよく閉まるんだった……。
  てか、これは家に送ってもらった、で良いんだよね?
  結果的に言えばイケメン上司にプロポーズ(?)されて、翌日は上司の愛車で自宅まで送ってもらって、お風呂入ったりベッドの上でゴロゴロ転げたりして『やだー!  どうしよー!  結婚なんて無理ー!  でもカッコいいー!』って浮き沈みしながら気付いたら眠ってる、とか。

  普通ならここで1日目終了で、後日また新しい展開を見せる。
  そこでまた色んなドラマを見せるのが恋愛の楽しいところなんだと、思うのだが。

  私は自分の部屋を去る為に送られたわけで、また悶々と考える余裕も無く彼のーー天敵である俺様系イケメン部長の元へ戻らなくてはならない。

  つまり、全て強制的であり、自由など何処にも存在しないのだ。
  彼にとって私はベランダから逃げようとする間抜けな女であり、罵りたくなるほど無能な部下であり、運悪く刻印した相手であり、要は子供を作る為の道具でしかないのだろう。

  別に刻印なんて無視すればいいのに……何故それをしないかはイマイチ分からないが、とにかく、こんなの恋愛じゃない!

  部長の元に戻ったところで何されるか分かったものじゃない。
  きっとはし放題だろうし、しないとは言ったけどいつ気が変わって血を吸われるか分からない。

  彼は人間じゃない、吸血鬼だ。

  今までいくつも吸血鬼と人間の恋愛物語は読んできたけど、上手くいった例もあればどちらかが死別する話まである。

  そして大体は、両想いから始まっているのだ。

  断然、私達の関係は論外。
  お互いが嫌っている中で、たかが刻印とかいう理屈で語れないものに縛られて結婚なんて、出来るわけないじゃないか。
 
  私達は、上手くいかないんだから。

「はぁ……」

  自分で思ったことに落胆して、その場にへたり込んだ。
  結っていた髪を解いて、ガシガシと手で梳かす。

  なんで、こんなことになっちゃったんだろう?

  てか、『ちょっと行ってくる』って、どこによ!?
  全くそこについては共有してないんですが!!
 
「うぅ……なんで泣いてんの私」

  頬に涙が伝って、メガネを外してゴシゴシ擦った。

  どうして私はいつもこう、失敗ばかりなのだろう。
  昔から、妙なことに巻き込まれてばかりだ。
  私の人生、うまくいかないことばかり。

  それでも最近は、泣かなくなってきてたのに。

  あーやっぱり、嫌なんだな、私……。

  例え身体は奪われようとも、心は絶対屈しないって、思ってたけど。
  
  それでもやっぱり、好きでもない人と、結婚なんてしたくない。

「……よし!」

  大きく息を吸った後、自分の頬を両手で強く叩いて、立ち上がった。

  とりあえず、お風呂に入ってリフレッシュしよう!
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