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103.レオに与えられた交換条件
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「……そろそろムカつくですけど」
「っ……!」
レオがスッと目の前で睨みを効かせたと思えば、片手でガシッと頬を掴まれ、ベッドに座ったままだった私を簡単に押し倒した。
鮮血のような瞳が、僅かな怒りに揺れている。
「いつまで泣いてんだよ。
これからのプランを持ってきたってのに」
レオ……“自称”部長の親友の吸血鬼は、そう言って一枚の紙をペラペラと振った。
部長に別れを切り出す前──レオの車の中で、400年前の話を教えられた時、部長と別れることとの交換条件を提示された。
「あんたが言ったんだ。
ここではなく地方の会社に転勤したいと。
だから条件通りいくつか選んできてやったってのに……話にすらならねーな」
「…気を遣わせてすみません」
不機嫌な吸血鬼を前に、呼吸の乱れの他は少しも動揺してない自分に驚く。
いつからこんなに肝が座ったのだろうか。
レオは、部長と別れたら望むものを与えると断言した。
私は今彼が言うように、地方の会社への転職を求めた。
金や地位なども選択にあったが、突然手に入れたとしても私如きじゃうまく使えないだろうし、ただ部長から離れた遠くに行きたかった。
遠くに行く理由が転勤ならば、両親を心配させることもないだろうし。
その約束通り、彼は今こうして私のアパートに不法侵入して、わざわざ転勤先まで提供しに来ている。
意外と律儀で、以前の私ならとっくに大喜びして転勤していたのだろうが……
「……どうせなら、その怒りに任せて、私を殺してくださってもいいんですよ……」
ポロッと、思ったことが口から漏れた。
この人は、部長とは違って、本物の吸血鬼だ。
簡単に人を殺せて、血を啜る、人間嫌いの吸血鬼。
頼めばきっと、すぐ殺してくれるのだろう。
そう、思っていたのだが。
「っぐ……っ!」
首に手がかけられたと思えば、照明の陰の中で赤い瞳が光っている。
表情は見えないが、怒っているのは間違いない。
息が出来ない。
彼の爪が首筋をキリキリと痛めつけている。
このまま、裂けてしまいそうだ。
「条件を忘れたのか。
お前は殺さない。
一度出会った刻印の相手の死は例え離れた場所であっても遺された吸血鬼の精神を抉る。
吸血されていなかったとしてもな。
てめぇの挑発程度で一華をまた殺すわけにはいかねーんだよ」
「はっ……ゴホッ……はっ……」
息を押し殺したような声でそう言い放つと、レオは静かに手を離し、爪をひと舐めした。
ブワっと血の巡りが戻って、すでに酸欠により意識が飛びそうだった私は咳をして身体を捩る。
元より溢れていた涙が零れ落ちていく。
それでも、初めて殺されかけた時のような酷い恐怖や、不安は感じなかった。
まるで私の身体全てが、死を望んでいるかのようだ。
死ぬことすら、許されていないのに。
「っ……!」
レオがスッと目の前で睨みを効かせたと思えば、片手でガシッと頬を掴まれ、ベッドに座ったままだった私を簡単に押し倒した。
鮮血のような瞳が、僅かな怒りに揺れている。
「いつまで泣いてんだよ。
これからのプランを持ってきたってのに」
レオ……“自称”部長の親友の吸血鬼は、そう言って一枚の紙をペラペラと振った。
部長に別れを切り出す前──レオの車の中で、400年前の話を教えられた時、部長と別れることとの交換条件を提示された。
「あんたが言ったんだ。
ここではなく地方の会社に転勤したいと。
だから条件通りいくつか選んできてやったってのに……話にすらならねーな」
「…気を遣わせてすみません」
不機嫌な吸血鬼を前に、呼吸の乱れの他は少しも動揺してない自分に驚く。
いつからこんなに肝が座ったのだろうか。
レオは、部長と別れたら望むものを与えると断言した。
私は今彼が言うように、地方の会社への転職を求めた。
金や地位なども選択にあったが、突然手に入れたとしても私如きじゃうまく使えないだろうし、ただ部長から離れた遠くに行きたかった。
遠くに行く理由が転勤ならば、両親を心配させることもないだろうし。
その約束通り、彼は今こうして私のアパートに不法侵入して、わざわざ転勤先まで提供しに来ている。
意外と律儀で、以前の私ならとっくに大喜びして転勤していたのだろうが……
「……どうせなら、その怒りに任せて、私を殺してくださってもいいんですよ……」
ポロッと、思ったことが口から漏れた。
この人は、部長とは違って、本物の吸血鬼だ。
簡単に人を殺せて、血を啜る、人間嫌いの吸血鬼。
頼めばきっと、すぐ殺してくれるのだろう。
そう、思っていたのだが。
「っぐ……っ!」
首に手がかけられたと思えば、照明の陰の中で赤い瞳が光っている。
表情は見えないが、怒っているのは間違いない。
息が出来ない。
彼の爪が首筋をキリキリと痛めつけている。
このまま、裂けてしまいそうだ。
「条件を忘れたのか。
お前は殺さない。
一度出会った刻印の相手の死は例え離れた場所であっても遺された吸血鬼の精神を抉る。
吸血されていなかったとしてもな。
てめぇの挑発程度で一華をまた殺すわけにはいかねーんだよ」
「はっ……ゴホッ……はっ……」
息を押し殺したような声でそう言い放つと、レオは静かに手を離し、爪をひと舐めした。
ブワっと血の巡りが戻って、すでに酸欠により意識が飛びそうだった私は咳をして身体を捩る。
元より溢れていた涙が零れ落ちていく。
それでも、初めて殺されかけた時のような酷い恐怖や、不安は感じなかった。
まるで私の身体全てが、死を望んでいるかのようだ。
死ぬことすら、許されていないのに。
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