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つかの間の時
平和
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「っ……はぁ………」
起きたのはホテルの一室だった。
4年で唯一参加の俺は個室だ。
朝から変な夢を見た。
しっかりとは覚えてないけど、愛華ちゃん関係なのは確かだ。
そうして、昨日のことを思い出す。
キスを仕掛けて、返り討ちにあった。
ホント、消せるなら消したい。
自分の気持ちにも気付かされて…ホント最悪だ。
ちょっと、外出よう……。
「もしもし……そうなの……うん」
早朝にも関わらず、ロビーにはどこかに電話をかける森沢 美優を見つけた。
目が合って手を振ると、すぐに逸らされてしまった。
あいつは前から愛想が悪い。
確か、栄司と同じ高校だったとか……。
あれ?
栄司は高校を中退しているはずだ。
偶然、同じ大学だった?
そんな珍しいことでもないが……。
栄司は高校でのことを相当嫌がっていたはずだ。
それでも、森沢とは一緒にいた。
何故だ?
森沢の栄司に向ける目は他のやつとどこか違う。
まるで栄司を監視しているような……。
勘ぐり過ぎか。
あんまり、栄司の件には関わりたくない。
愛華ちゃんのことも……。
***
「俺たち、付き合ったから!」
「……ええー!」
「嘘ぉー!!」
「昨日の流れで!?」
「何それ詳しく」
「うるせーよ小湊!」
騒がしい奴らだ。
土産屋を見た後、高速バス乗り場に全員集合した所で、唐突に、栄司は愛華ちゃんの肩を抱いて宣言した。
たぶん、京介に何か言われたんだろうけど。
「でも、お前ら前も付き合ってたから、この場合、寄りを戻した、じゃ…」
「それはそれ、これはこれだろ?
初めからだから。
付き合ったなの!」
「そ、そうか……」
少しぶっきら棒に、顔を赤らめてそう言う栄司。
隣では同じように何も言わず、顔を赤くする愛華ちゃん。
なんだその初々しい感じは。
身体の関係はずっと続いてたくせに……。
「で、昨日あの後ちょっとでも愛華とヤれるんじゃねーかと思ったやつは前に出ろ」
「う…………」
「「………」」
そんなの、ここの男子の大半は思ったんじゃね?
栄司の変わりようにみんなの血の気が引いていく。
「まとめて手加減して殺さないようにボッコボコにしてやる」
「……それはダメだと思う」
眉を寄せて静かにツッコむ愛華ちゃん。
栄司、そんなキャラじゃねーだろーが。
笑顔で何恐いこと言ってんだよ。
バカ正直に京介が手を挙げ、栄司の拳で頭をグリグリと攻撃してる頃、帰りのバスが到着した。
***
「ヤケに静かね」
「それはこっちのセリフですよ」
身長が高いせいで窓際からでも先頭に座る2人の姿が見える。
隣に座る莉奈さんは足を組みながら俺を見上げていた。
周りの連中は朝方まで各自部屋で騒いでいたらしく、ぐっすり眠っている。
真ん中の方の席でまだ良かった。
こいつらのいびきに囲まれるのは、ちょっとキツい。
大して混んでもいないのにこの密集加減は…でもまぁ、仲が良いのはこっちとしてはありがたいか。
この先も安心だと、思える。
「やっと念願の恋が叶って、ああやって2人でくっついてられるなら、本望なんじゃないですか?
その為に席譲ったんでしょ?」
「そうよ?
まぁ、嫁に出す気分よ。
少し寂しいわ。
それに…なんか、秦ちゃん、元気なかったのよねぇ……」
「なんで?」
「そこなのよ。
あの後帰って来て、付き合ったって聞いて、嬉しかったんだけどさ、秦ちゃんはずっと落ち込んだような顔してて……今はそうでもなさそうだけど……」
ため息混じりに話す莉奈さんに、思い当たるとすれば、あの話……。
『俺が、追い込んだんです』
まだ栄司の言うけじめはついてないんだろうけど…付き合い始めたのは、それを明かしたからか?
でも、なんで急に……俺が原因か?
愛華ちゃんを傷付けたくなかったんじゃなかったのか…ったく。
愛華ちゃんがお前の前でそんな姿見せるかよ。
早まり過ぎだ。
「テルくん、降りる?」
「はい、飲み物を買いに」
「じゃ、あたしも」
トイレ休憩でもほとんどの奴は寝ているが、俺と莉奈さんと何人かが降りていく。
ふと、2人の前で立ち止まる。
見れば、手を繋いで頭を寄せ合ってスヤスヤ眠っている。
……平和ボケ。
そんな言葉が頭に浮かんだ。
「フフ…可愛いじゃない?」
「………」
俺の視線に気付いた莉奈さんが、少し戻って覗き小声で笑う。
俺はポケットからケータイを取り出した。
「ちょっと、テルくん何してんの!」
カシャ……
一瞬栄司がピクッと動いたが、愛華ちゃんの頭に顔を埋めて眠る。
フッ……思わず笑ってしまう。
束の間の休憩、という言葉がよく似合う。
まぁ、こういう弱みは持っておくに限るでしょ。
俺は人差し指を立てて莉奈さんを見た。
莉奈さんはムッとしつつも、先に降りていく。
俺もその後を追いながら、ケータイの画面を見て、また笑みが漏れた。
幸せそうに眠ってる2人が、これからどうなるのか。
これはこれで、面白そうだ。
起きたのはホテルの一室だった。
4年で唯一参加の俺は個室だ。
朝から変な夢を見た。
しっかりとは覚えてないけど、愛華ちゃん関係なのは確かだ。
そうして、昨日のことを思い出す。
キスを仕掛けて、返り討ちにあった。
ホント、消せるなら消したい。
自分の気持ちにも気付かされて…ホント最悪だ。
ちょっと、外出よう……。
「もしもし……そうなの……うん」
早朝にも関わらず、ロビーにはどこかに電話をかける森沢 美優を見つけた。
目が合って手を振ると、すぐに逸らされてしまった。
あいつは前から愛想が悪い。
確か、栄司と同じ高校だったとか……。
あれ?
栄司は高校を中退しているはずだ。
偶然、同じ大学だった?
そんな珍しいことでもないが……。
栄司は高校でのことを相当嫌がっていたはずだ。
それでも、森沢とは一緒にいた。
何故だ?
森沢の栄司に向ける目は他のやつとどこか違う。
まるで栄司を監視しているような……。
勘ぐり過ぎか。
あんまり、栄司の件には関わりたくない。
愛華ちゃんのことも……。
***
「俺たち、付き合ったから!」
「……ええー!」
「嘘ぉー!!」
「昨日の流れで!?」
「何それ詳しく」
「うるせーよ小湊!」
騒がしい奴らだ。
土産屋を見た後、高速バス乗り場に全員集合した所で、唐突に、栄司は愛華ちゃんの肩を抱いて宣言した。
たぶん、京介に何か言われたんだろうけど。
「でも、お前ら前も付き合ってたから、この場合、寄りを戻した、じゃ…」
「それはそれ、これはこれだろ?
初めからだから。
付き合ったなの!」
「そ、そうか……」
少しぶっきら棒に、顔を赤らめてそう言う栄司。
隣では同じように何も言わず、顔を赤くする愛華ちゃん。
なんだその初々しい感じは。
身体の関係はずっと続いてたくせに……。
「で、昨日あの後ちょっとでも愛華とヤれるんじゃねーかと思ったやつは前に出ろ」
「う…………」
「「………」」
そんなの、ここの男子の大半は思ったんじゃね?
栄司の変わりようにみんなの血の気が引いていく。
「まとめて手加減して殺さないようにボッコボコにしてやる」
「……それはダメだと思う」
眉を寄せて静かにツッコむ愛華ちゃん。
栄司、そんなキャラじゃねーだろーが。
笑顔で何恐いこと言ってんだよ。
バカ正直に京介が手を挙げ、栄司の拳で頭をグリグリと攻撃してる頃、帰りのバスが到着した。
***
「ヤケに静かね」
「それはこっちのセリフですよ」
身長が高いせいで窓際からでも先頭に座る2人の姿が見える。
隣に座る莉奈さんは足を組みながら俺を見上げていた。
周りの連中は朝方まで各自部屋で騒いでいたらしく、ぐっすり眠っている。
真ん中の方の席でまだ良かった。
こいつらのいびきに囲まれるのは、ちょっとキツい。
大して混んでもいないのにこの密集加減は…でもまぁ、仲が良いのはこっちとしてはありがたいか。
この先も安心だと、思える。
「やっと念願の恋が叶って、ああやって2人でくっついてられるなら、本望なんじゃないですか?
その為に席譲ったんでしょ?」
「そうよ?
まぁ、嫁に出す気分よ。
少し寂しいわ。
それに…なんか、秦ちゃん、元気なかったのよねぇ……」
「なんで?」
「そこなのよ。
あの後帰って来て、付き合ったって聞いて、嬉しかったんだけどさ、秦ちゃんはずっと落ち込んだような顔してて……今はそうでもなさそうだけど……」
ため息混じりに話す莉奈さんに、思い当たるとすれば、あの話……。
『俺が、追い込んだんです』
まだ栄司の言うけじめはついてないんだろうけど…付き合い始めたのは、それを明かしたからか?
でも、なんで急に……俺が原因か?
愛華ちゃんを傷付けたくなかったんじゃなかったのか…ったく。
愛華ちゃんがお前の前でそんな姿見せるかよ。
早まり過ぎだ。
「テルくん、降りる?」
「はい、飲み物を買いに」
「じゃ、あたしも」
トイレ休憩でもほとんどの奴は寝ているが、俺と莉奈さんと何人かが降りていく。
ふと、2人の前で立ち止まる。
見れば、手を繋いで頭を寄せ合ってスヤスヤ眠っている。
……平和ボケ。
そんな言葉が頭に浮かんだ。
「フフ…可愛いじゃない?」
「………」
俺の視線に気付いた莉奈さんが、少し戻って覗き小声で笑う。
俺はポケットからケータイを取り出した。
「ちょっと、テルくん何してんの!」
カシャ……
一瞬栄司がピクッと動いたが、愛華ちゃんの頭に顔を埋めて眠る。
フッ……思わず笑ってしまう。
束の間の休憩、という言葉がよく似合う。
まぁ、こういう弱みは持っておくに限るでしょ。
俺は人差し指を立てて莉奈さんを見た。
莉奈さんはムッとしつつも、先に降りていく。
俺もその後を追いながら、ケータイの画面を見て、また笑みが漏れた。
幸せそうに眠ってる2人が、これからどうなるのか。
これはこれで、面白そうだ。
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