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氷の華は解けるのか
過去のトラウマ
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「……高校生の時、彼氏がいて」
ポツリと、声を漏らす。
「彼氏と、友達5人に、マワされたの」
そうだ。
あの時が、始まりだった。
まだ、高校1年生で、恋に恋していた時。
初めて出来た、彼氏。
告白されて、付き合ってみた。
それが、このことの、始まり。
「ヤりたい時に、呼び出されるようになって、その噂が広まって。
友達も、いなくなった」
誰でもヤレる女。
そんな風に定着していって。
いつの間にか、彼氏が誰かすら、分からなくなった。
「それだけ。
それが始まり」
「……そいつのこと、好きだったの?」
好き、か……。
首を横に振った。
「分からない。
好きとか愛とか、そんなの知らない」
本能に、人は勝てない。
私も、そう。
男にヤられる為に、ここにいる。
そうじゃないと、自分が保てない。
「……それがトラウマ?」
「え?」
「……泣いてる」
頬に、鐘崎の手が触れた。
あれ?
「ホントに、辛かったんだね」
嘘だ。
「もうさ、いいから」
グッと、身体を引き寄せられた。
「っ……!」
「無理しないで」
引き寄せる腕は、思ったより大きくて、温かい。
何度も、色んな人に抱かれてきたのに。
この腕は、他の腕と、違う気がした。
頬から、また涙が伝う。
「うう……うぅ……」
背中を、ポンポンと、撫でられて。
なんで、こんな、童貞に泣かされてるんだろう?
誰にも、話したこと無かったのに。
どうして、震えるの?
私、辛かったの?
自分の存在価値を、見つけられなくて。
……苦しくて、もがいてたの。
「秦さん……」
頭の上から、声が降ってくる。
「秦さんに、ちゃんと理由があって、ちょっとホッとした」
「え……?」
涙を拭いながら顔を上げると、鐘崎は照れ臭そうに笑った。
「最初から、氷の華じゃなかったんだなって。
ちゃんと人間らしいところあって、良かった」
「………人間らしい?」
「まぁ、こうやって、泣けるんだなぁとか、ね。
ただヤってるわけじゃ、無いんだって」
「………」
泣いたことなんて、あの時以来だ。
私は、泣かない。
「でも、原因が分かったんだから、もう、こんな風に人と交わるの、やめよう?
大学でのイメージだって、きっと変えられるからさ……」
「っ!」
ギュッと、鐘崎の腕を握った。
「……恐い」
「え?」
言葉が漏れる。
今になって、また気づいた。
胸が痛い。
「私は、それしか知らないから……今更、やめられない。
恐い。
求められなくなることが。
必要とされなくなって、私がいらない人間になるのが、恐いの……」
早口に、詰まらせながらも自然と言葉が走る。
頭で考えるよりも早くて、自分でも驚いた。
そうだ。
私が恐かったのは。
周りに味方がいなくなって、頼れる人もいなくて。
唯一、私を求めてくれるのは、身体を重ねる時だけで、それが、救いでもあった。
自分の感情を押し殺す為に、私は声も表情も捨てた。
だから、今まで忘れていた。
誰からも求められないことが。
私は、恐い。
恐い……。
手が震えて、恐くて。
自分を抱き締めながら、小さく震えていると、鐘崎の温かい手が肩に触れた。
「嫌じゃなかったら、俺が一緒にいようか?
好きな人が出来るまで」
「え……?」
好きな人?
「私に、そんな人出来るわけ無いよ」
「出来るよきっと。
好きとか愛とか分からないって言うけどさ、秦さん、名前に『愛』って入ってるじゃん」
「…………!」
初めて、気づいた。
名前はただ与えられたもので、特に意味は無いと思ってたし、当たり前に存在してたから。
今まで、何度もその字を書いてたのに、全く、意識したことがなかった。
ニッコリ笑う鐘崎に、ドキッとした。
私の名前には『愛』がある。
私には『愛』がある。
そういう風に、考えて、いいの?
「彼氏とかって呼びたくないなら、俺もセフレの1人ってことでいいから」
「え……?」
「俺、秦さんのこと、結構本気だから」
「本気……?」
鐘崎は、グッと前に出た。
口元は笑ってるけど、目は真剣そのものだった。
「本気で、好き、だから」
「え……」
好き?
それは、恋愛の、好き?
でも、なんで急に?
よく、分からない。
「深く悩まなくていいから。
まだ、分かんないんだろうし」
鐘崎は頭にポンポンと手を置いた。
「本気で好きが、どういうことなのか、教えてあげる」
真剣に、でもどこか楽しむように、顔を赤くして笑う鐘崎に、胸の奥で何かがくすぐった。
この時、この言葉の意味なんて、私には分かってなくて。
ただ鐘崎という童貞に諭された、そしてセフレが増えた?
そんな風に思っていたのだが。
「……あと、1つ、訂正させて」
「え……?」
鐘崎の指が、触れるか触れないかぐらいに私の唇をなぞった。
普段され慣れてることなのに、背中がゾワッと震えた。
え、何……?
考える間もなく、傾けられた鐘崎の顔は目を細めて降りてきて、唇の直前で止まった。
少しでも動けば届いてしまう、数ミリ単位の距離に、身体が反応した。
「俺、童貞じゃないから」
「え…………?」
鐘崎の嘘が、私を翻弄することになるなんて、この時の私には想像もつかなくて。
この日の出来事がこの後の人生に関わってくるなんて、思いもよらなかった。
ポツリと、声を漏らす。
「彼氏と、友達5人に、マワされたの」
そうだ。
あの時が、始まりだった。
まだ、高校1年生で、恋に恋していた時。
初めて出来た、彼氏。
告白されて、付き合ってみた。
それが、このことの、始まり。
「ヤりたい時に、呼び出されるようになって、その噂が広まって。
友達も、いなくなった」
誰でもヤレる女。
そんな風に定着していって。
いつの間にか、彼氏が誰かすら、分からなくなった。
「それだけ。
それが始まり」
「……そいつのこと、好きだったの?」
好き、か……。
首を横に振った。
「分からない。
好きとか愛とか、そんなの知らない」
本能に、人は勝てない。
私も、そう。
男にヤられる為に、ここにいる。
そうじゃないと、自分が保てない。
「……それがトラウマ?」
「え?」
「……泣いてる」
頬に、鐘崎の手が触れた。
あれ?
「ホントに、辛かったんだね」
嘘だ。
「もうさ、いいから」
グッと、身体を引き寄せられた。
「っ……!」
「無理しないで」
引き寄せる腕は、思ったより大きくて、温かい。
何度も、色んな人に抱かれてきたのに。
この腕は、他の腕と、違う気がした。
頬から、また涙が伝う。
「うう……うぅ……」
背中を、ポンポンと、撫でられて。
なんで、こんな、童貞に泣かされてるんだろう?
誰にも、話したこと無かったのに。
どうして、震えるの?
私、辛かったの?
自分の存在価値を、見つけられなくて。
……苦しくて、もがいてたの。
「秦さん……」
頭の上から、声が降ってくる。
「秦さんに、ちゃんと理由があって、ちょっとホッとした」
「え……?」
涙を拭いながら顔を上げると、鐘崎は照れ臭そうに笑った。
「最初から、氷の華じゃなかったんだなって。
ちゃんと人間らしいところあって、良かった」
「………人間らしい?」
「まぁ、こうやって、泣けるんだなぁとか、ね。
ただヤってるわけじゃ、無いんだって」
「………」
泣いたことなんて、あの時以来だ。
私は、泣かない。
「でも、原因が分かったんだから、もう、こんな風に人と交わるの、やめよう?
大学でのイメージだって、きっと変えられるからさ……」
「っ!」
ギュッと、鐘崎の腕を握った。
「……恐い」
「え?」
言葉が漏れる。
今になって、また気づいた。
胸が痛い。
「私は、それしか知らないから……今更、やめられない。
恐い。
求められなくなることが。
必要とされなくなって、私がいらない人間になるのが、恐いの……」
早口に、詰まらせながらも自然と言葉が走る。
頭で考えるよりも早くて、自分でも驚いた。
そうだ。
私が恐かったのは。
周りに味方がいなくなって、頼れる人もいなくて。
唯一、私を求めてくれるのは、身体を重ねる時だけで、それが、救いでもあった。
自分の感情を押し殺す為に、私は声も表情も捨てた。
だから、今まで忘れていた。
誰からも求められないことが。
私は、恐い。
恐い……。
手が震えて、恐くて。
自分を抱き締めながら、小さく震えていると、鐘崎の温かい手が肩に触れた。
「嫌じゃなかったら、俺が一緒にいようか?
好きな人が出来るまで」
「え……?」
好きな人?
「私に、そんな人出来るわけ無いよ」
「出来るよきっと。
好きとか愛とか分からないって言うけどさ、秦さん、名前に『愛』って入ってるじゃん」
「…………!」
初めて、気づいた。
名前はただ与えられたもので、特に意味は無いと思ってたし、当たり前に存在してたから。
今まで、何度もその字を書いてたのに、全く、意識したことがなかった。
ニッコリ笑う鐘崎に、ドキッとした。
私の名前には『愛』がある。
私には『愛』がある。
そういう風に、考えて、いいの?
「彼氏とかって呼びたくないなら、俺もセフレの1人ってことでいいから」
「え……?」
「俺、秦さんのこと、結構本気だから」
「本気……?」
鐘崎は、グッと前に出た。
口元は笑ってるけど、目は真剣そのものだった。
「本気で、好き、だから」
「え……」
好き?
それは、恋愛の、好き?
でも、なんで急に?
よく、分からない。
「深く悩まなくていいから。
まだ、分かんないんだろうし」
鐘崎は頭にポンポンと手を置いた。
「本気で好きが、どういうことなのか、教えてあげる」
真剣に、でもどこか楽しむように、顔を赤くして笑う鐘崎に、胸の奥で何かがくすぐった。
この時、この言葉の意味なんて、私には分かってなくて。
ただ鐘崎という童貞に諭された、そしてセフレが増えた?
そんな風に思っていたのだが。
「……あと、1つ、訂正させて」
「え……?」
鐘崎の指が、触れるか触れないかぐらいに私の唇をなぞった。
普段され慣れてることなのに、背中がゾワッと震えた。
え、何……?
考える間もなく、傾けられた鐘崎の顔は目を細めて降りてきて、唇の直前で止まった。
少しでも動けば届いてしまう、数ミリ単位の距離に、身体が反応した。
「俺、童貞じゃないから」
「え…………?」
鐘崎の嘘が、私を翻弄することになるなんて、この時の私には想像もつかなくて。
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