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『お巡りさんとローレライの魔女』

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 駐在所に帰り着き、もう誰も入って来られないように、葵は玄関に鍵を掛けた。今日はもう、電話も鳴らないことを祈るばかりだ。それくらい、邪魔をされたくなかった。

 葵は寝室にノアを運び込み、救急箱を持って来て、その白い足を手当てした。血の滲んだ痕が痛々しく、そうさせてしまった自分を、葵は深く反省する。

「何も刺さってないとは思うけど、もし違和感があったらすぐに言って」
「……うん。ありがとう」
「さて、じゃあ話をしようか」

 葵が胡坐あぐらを組んで座ると、ノアは何も言わずにその上に座った。そのまま横向きになり、真っ直ぐに葵の顔を見上げてくる。先程のお姫様抱っこが嬉しかったのか、もう一度、抱きしめてほしいようだ。

「ノア?」
「くっついていて、いい?」
「いいけど……」

 ノアは微笑んで葵の手をとった。甘え始める姿は、とてつもなく可愛い。葵は激しく動揺した。心臓が嘘のように速く鳴っている。それはきっと、身体を寄せているノアにも聞こえているだろう。

「一人前の魔女になるには、ね……二つの条件があって」
「うん」
「一つ目は、好きな男性と……せ、セックスすること。魔女の村じゃ私は下っ端だから、誰も相手にしてくれなくて。人間の世界に来たの」
「……お、おお」

 ノアが言いづらかった理由は、それだったのだ。葵の心臓が、また一際大きく鳴った。

「もう一つは、その相手の……ハートを射止めること」
「……ん?」
「好きな相手とせ、セックスしたら、心臓を奪わなきゃいけない……ってこと、だよね?」
「……え? 俺に聞く?」

 そんなことを自分に聞かれても、と葵は狼狽うろたえた。だが、ノアの言い方から推測するに、両想いになればいいようだ。それを、心臓を奪うというバイオレンスな方向に勘違いしているのでは。

「わ、私、葵が好き。お母様には、『人間の男は、すぐに手を出すから気を付けろ』って言われてきたけど、全然そんなことしないし、すごく優しいし……」
「あ、ありがとう」
「だから……葵の心臓は奪いたくない。それなら、ここを出て、他の人を見つけようかなって……」
「いやいやいや、待って、ノア」

 極端な魔女様だ。愛の告白をされたというのに、葵は焦っていた。まずはノアの勘違いをどうにかしなければならない。

「あのさ、一人前になった魔女たちは、相手の男性を殺してた?」
「えっ? ……あっ! 言われてみれば、みんな生きてる……」
「だよね。やっぱりね」
「えっ、じゃあ、どうやって心臓を奪うの?」

 純粋な視線が向けられて、葵は吹き出した。もしかしたらノアは、とてつもなく天然なのかもしれない。

「うーん……俺はもうとっくに、奪われてるんじゃないかな」
「ど、どういうこと?」
「ノアが好きだってことだよ。っていうか、さっきのキスで分かってたんじゃないの?」
「そうかなって思ったけど、自信が無くて。ありがとう」

 ノアの白い頬に、赤みがさす。彼女は葵との距離を更に詰めると、頬をすり寄せた。葵は「ん゛っ」と変な声を出す。しばらく女性に触れていなかったからか、ノアの柔らかい感触が、雄の部分を刺激するのだ。

「でもそれと、心臓を奪うことはなにか関係があるの?」
「えーっと、比喩ひゆって分かる? 例えって言えばいいかな」
「たとえ?」
「それ多分、相手の男も自分を好きにさせればいいってことだよ」

 ノアは固まった。葵の言葉の意味をどうにか汲み取っているようだ。数秒後に、ようやく納得したように頷いた。その間抜け面に、葵は再び吹き出す。

「一人前の魔女に、俺がしてやろうか?」
「えっ、あっ……あのっ」
「というか、いろいろ限界……」
「葵っ」

 葵はノアを優しく抱きしめ、服の裾から手を差し込んだ。
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