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『白き妖狐は甘い夢を見るか』

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 小春は、キスすらも初めてだ。一途に優祈を思ってきたからこそ、今まで誰ともしてこなかった。知識も、当然ながらほとんどない。硬直する優祈の唇に、自身のものをそっと押し当てるだけで終わった。

 小春が顔を離すと、優祈と視線が交わった。優祈は怒るだろうか。小春の予想では、許してはくれるが、やんわり諭されそうだというのが一番だった。しかし、これは夢だ。さっきから上手く制御できていない小春には、何が起こるか分からなかった。

「小春は……純粋で、可愛いな」

 優祈は頬を緩め、甘やかすように小春の頭を撫でた。

「え?」
「拾った時は、女の子だとは分からなかったんだ。決して、下心があったわけではない」
「ご主人様?」
「成長するうちに、どんどん情が移っていった。今では、可愛くてたまらないよ」

 優祈の手のひらが、小春の頬に移動する。すりすりと擦られて、くすぐったさに小春は目を閉じた。やはり、感覚だけはやけに現実味がある。

「そう思っていただけて、嬉しいです」
「小春。僕は君を守らなければならない立場だ。だからさっきは、受け入れるわけにはいかないと思った。でも……」
「でも?」
「正直に言うね。このまま永遠に、小春を僕だけのものにしたい」
「……ご主人様っ」

 小春は再び優祈に抱きついた。ぽろぽろと涙を零し、夢から覚めたくないと願った。泡沫うたかたの時間に過ぎないけれど、せめて今だけは幸せに浸りたいのだ。

「小春、抱きしめてくれるのは嬉しいけど……その……」
「なんでしょう?」
「手と目のやり場に、困るんだ」

 女性の裸には慣れていないのか、それとも優祈の元々の性格か。遠まわしに「妖狐の姿に戻れ」と言われた小春だが、これを好機だと捉えて、優祈の手を取った。それを自身の胸に当てる。温かくて大きな手のひらが、マシュマロのように柔らかい乳房に触れた。優祈は慌てて手を離そうとするが、小春はそれを掴んで逃がさなかった。

「こ、小春っ」
「ご主人様、恥を忍んでもう一度お願いします! 私のことを大切に想ってくださるなら、抱いて、ください……」

 互いに顔を真っ赤にして、数秒間見つめ合った。優祈の喉仏が、ゆっくりと大きく動く。唾を飲み込んだらしい。

「本当に、僕でいいの?」
「ご主人様が、いいんです……」
「後悔、しない?」
「はい。絶対に」
「参ったな。そこまで言われたら、我慢がきかなくなる……」

 優祈は空いた腕で小春の腰を抱き寄せ、ついばむようにキスをした。小春がしたのとは違い、慣れていて、少し大人な感じだ。小春はうっとりとしてそれに応えながら、掴んでいた優祈の手を離した。

「小春、僕の膝の上においで」
「っ……はい」

 小春は優祈にほぼ抱え上げられる形で、胡坐あぐらを組んだ優祈の膝の上に跨った。着物が泥で更に汚れるのも気にせず、優祈は小春の肌を撫でていく。

「あ……くすぐったい、です……」
「うん。いろいろ触るから、もっとくすぐったいかも?」
「んっ」

 優祈の嬉しそうに笑う声がする。なぜ笑っているのか分からないが、その瞳は小春への愛情に溢れていた。小春がキスをねだると、今度は唇を食むようにして応えてくれる。その間に、優祈の手は小春の胸をまさぐった。
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