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『アイスキャンディーの罠』

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(この気怠そうな感じがなければ……そこそこイケメンなのに)

 小学校、中学校、高校と、涼斗はそれなりにモテた。彼女も何人かいたのは知っているが、どの子も長続きせず。「何を考えているか分からない」と言われて振られたらしいが、涼斗本人はさほど気にしていないようだ。

 ミステリアスな感じがいい、クールで格好いい、ともてはやされるのは最初だけ。あまりにも口数が少ないせいで、段々と一緒にいるのが苦痛になったらしい――というのは、朱夏の友達から得た情報だった。

「はい、これお母さんから。どっちがいい?」
「ソーダ味」
「やっぱりね。はい」
「サンキュ」

 アイスキャンディーの袋を手渡すと、涼斗は僅かだが口角を上げた。珍しい反応に、朱夏は目をみはる。

(わ、笑った……!? あの涼斗が!?)

 涼斗は身内の前でも滅多に笑わない。貴重な光景を目の当たりにして、朱夏は涼斗の隣に腰掛けながらも、心臓を高鳴らせていた。なぜドキドキするのか分からないが、それを誤魔化すようにアイスキャンディーの袋を破る。

「朱夏ってさ、東京での就職決まったの? さっき、叔母さんが言ってた」
「うん、大手出版社。これでやっと、田舎から抜けられる」
「ふーん……」

 さも興味がなさそうに、涼斗はアイスを頬張っている。興味がないならなぜ聞いた? と問いただしたくもなるが、朱夏はぐっと堪えた。しかし、それは間違いだったらしい。

「俺、何も聞いてないけど」
「……え?」
「誕生日だって祝いに来たのに、相談すらしてもらってない」
「な、なんで、涼斗に言わなきゃなんないの?」
「従兄だし、幼馴染みにくらい言ってくれてもいいんじゃないの」

 涼斗の声には抑揚がない。その真意を掴み損ね、朱夏は戸惑った。怒っているのか、拗ねているのか分からないのだ。朱夏はそれから何も言わず、アイスを口に含んだ。暑さのせいか、少し溶け始めている。

「……俺も東京に行こうかな」
「えっ? 涼斗は伯父さんの農業を継ぐんじゃないの?」

 涼斗の家は広大な土地を所有しており、ビニールハウスや畑で農作物を作っている。そのお裾分けを、朱夏の家はもらっているという訳だ。涼斗自身も大学で農学部を専攻しているため、てっきりそうなのだと朱夏は思い込んでいた。

「将来的にはそのつもりだけど。親が引退するまでは自由にやっていいって言われてるから」
「伯父さんってそのあたり寛容だよね……。って! なんで涼斗まで東京に来るのよ?」
「なんでって……そのくらい分かんない?」

 全て食べきった後の木製の棒を、涼斗は袋に入れてゴミ箱に捨てた。そのまま、朱夏の方へと身を寄せてくる。突然のことに、朱夏はアイスを食べる手を止めて仰け反った。
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