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窮地を助けてくれるのは?

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 タクミさんの目が、いやらしいものを見るように細められた。同時に口角を上げて、にやりと笑う。

「へぇ~。おとなしそうな顔して、やることやってんだね?」
「ち、違います!」
「俺とも遊んでよ?」
「やっ……嫌です!」

 私が声を荒げているのを見かけた周囲の人が、ざわざわとし始めた。これはまずい。私が騒ぎを起こせば、冴木先輩の顔に泥を塗ってしまう。

「すみません……騒ぐつもりは……」

 私はすぐに、タクミさんに頭を下げた。これで万事おさまるとは思っていなかったけれど、彼から返ってきたのは、意外な言葉だった。

「いや、俺もセクハラっぽいことしてごめんね。寧々ちゃんが来る前にだいぶ飲んでて、酔ってるからさ。帰る前に、こっちの部屋で少しだけ話さない?」
「……でも」
「お願い! それで終わりにするから」

 タクミさんが指したのはVIPルームだ。そんな部屋が使えるということは、タクミさんはこう見えても、力のある業界関係者かもしれない。

 そう予想したら、背筋が凍りついた。なんて失礼なことをしてしまったのだろう。これで断ったら、次に何をされるか分かったものではない。気は進まないけれど、「少しだけなら」と伝えて、ついていくことにした。



 VIPルームに入ると、中には既に三人の男性がいた。全員が高級そうな黒服で、ウイスキーらしきものを氷で割ったグラスを持ち、話し込みながら飲んでいる。そのうちの一人が、私たちに気が付いた。

「おー、タクミ! その可愛い子は?」
「百瀬寧々ちゃんです」
「ああ、例の子か。寧々ちゃん、こっちにおいで」

 三人とも、見た目は富裕層のそれだった。豪さんを見ているから分かる。でも、清潔感や礼儀正しさは、豪さんの方が何十倍も上だ。

 手招きされて近づくと、男性たちの服の袖から僅かに見える刺青いれずみに、ぞっとした。促されるままに、恐る恐るソファに掛ける。世の中には、豪さんや秋彦さんみたいに優しくて温かい人たちがいれば、こういう怖い人たちもいるのだ。それが分かっただけでも、いい社会勉強になったかもしれない。

「何か飲む? カクテルは何が好き?」
「あの、お酒はまだ、飲めなくて……」
「そうなの? じゃあ、オレンジジュースでいい?」
「……はい」

 私が三人に囲まれると、タクミさんはドアの近くに戻り、そこで直立した。そのまま、こちらを見ている。私と話したいと言っていたはずなのに、そんな素振りは無く、まるでこの部屋の見張りのようだ。

 まさか――これから何か、起こるのでは。そう思うと、受け取ったグラスが恐怖心で震えた。

「じゃあ、乾杯」
「……はい」
「そんなに緊張しないで。リラックスしてよ」

 喉がカラカラに乾いている。それを潤すように、グラスに注がれたオレンジジュースを、ぐっと飲み干した。

 それが間違いだった。グラスが空になると、注がれるがままに口にしていたオレンジジュース。緊張のせいで、味がよく分からない。次第に頭がくらくらして、身体が火照っていく。

 もしかして、何かを入れたんじゃないか。そう聞きたいのに、身体が言うことを聞かない。
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