28 / 99
窮地を助けてくれるのは?
2
しおりを挟む
タクミさんの目が、いやらしいものを見るように細められた。同時に口角を上げて、にやりと笑う。
「へぇ~。おとなしそうな顔して、やることやってんだね?」
「ち、違います!」
「俺とも遊んでよ?」
「やっ……嫌です!」
私が声を荒げているのを見かけた周囲の人が、ざわざわとし始めた。これはまずい。私が騒ぎを起こせば、冴木先輩の顔に泥を塗ってしまう。
「すみません……騒ぐつもりは……」
私はすぐに、タクミさんに頭を下げた。これで万事おさまるとは思っていなかったけれど、彼から返ってきたのは、意外な言葉だった。
「いや、俺もセクハラっぽいことしてごめんね。寧々ちゃんが来る前にだいぶ飲んでて、酔ってるからさ。帰る前に、こっちの部屋で少しだけ話さない?」
「……でも」
「お願い! それで終わりにするから」
タクミさんが指したのはVIPルームだ。そんな部屋が使えるということは、タクミさんはこう見えても、力のある業界関係者かもしれない。
そう予想したら、背筋が凍りついた。なんて失礼なことをしてしまったのだろう。これで断ったら、次に何をされるか分かったものではない。気は進まないけれど、「少しだけなら」と伝えて、ついていくことにした。
VIPルームに入ると、中には既に三人の男性がいた。全員が高級そうな黒服で、ウイスキーらしきものを氷で割ったグラスを持ち、話し込みながら飲んでいる。そのうちの一人が、私たちに気が付いた。
「おー、タクミ! その可愛い子は?」
「百瀬寧々ちゃんです」
「ああ、例の子か。寧々ちゃん、こっちにおいで」
三人とも、見た目は富裕層のそれだった。豪さんを見ているから分かる。でも、清潔感や礼儀正しさは、豪さんの方が何十倍も上だ。
手招きされて近づくと、男性たちの服の袖から僅かに見える刺青に、ぞっとした。促されるままに、恐る恐るソファに掛ける。世の中には、豪さんや秋彦さんみたいに優しくて温かい人たちがいれば、こういう怖い人たちもいるのだ。それが分かっただけでも、いい社会勉強になったかもしれない。
「何か飲む? カクテルは何が好き?」
「あの、お酒はまだ、飲めなくて……」
「そうなの? じゃあ、オレンジジュースでいい?」
「……はい」
私が三人に囲まれると、タクミさんはドアの近くに戻り、そこで直立した。そのまま、こちらを見ている。私と話したいと言っていたはずなのに、そんな素振りは無く、まるでこの部屋の見張りのようだ。
まさか――これから何か、起こるのでは。そう思うと、受け取ったグラスが恐怖心で震えた。
「じゃあ、乾杯」
「……はい」
「そんなに緊張しないで。リラックスしてよ」
喉がカラカラに乾いている。それを潤すように、グラスに注がれたオレンジジュースを、ぐっと飲み干した。
それが間違いだった。グラスが空になると、注がれるがままに口にしていたオレンジジュース。緊張のせいで、味がよく分からない。次第に頭がくらくらして、身体が火照っていく。
もしかして、何かを入れたんじゃないか。そう聞きたいのに、身体が言うことを聞かない。
「へぇ~。おとなしそうな顔して、やることやってんだね?」
「ち、違います!」
「俺とも遊んでよ?」
「やっ……嫌です!」
私が声を荒げているのを見かけた周囲の人が、ざわざわとし始めた。これはまずい。私が騒ぎを起こせば、冴木先輩の顔に泥を塗ってしまう。
「すみません……騒ぐつもりは……」
私はすぐに、タクミさんに頭を下げた。これで万事おさまるとは思っていなかったけれど、彼から返ってきたのは、意外な言葉だった。
「いや、俺もセクハラっぽいことしてごめんね。寧々ちゃんが来る前にだいぶ飲んでて、酔ってるからさ。帰る前に、こっちの部屋で少しだけ話さない?」
「……でも」
「お願い! それで終わりにするから」
タクミさんが指したのはVIPルームだ。そんな部屋が使えるということは、タクミさんはこう見えても、力のある業界関係者かもしれない。
そう予想したら、背筋が凍りついた。なんて失礼なことをしてしまったのだろう。これで断ったら、次に何をされるか分かったものではない。気は進まないけれど、「少しだけなら」と伝えて、ついていくことにした。
VIPルームに入ると、中には既に三人の男性がいた。全員が高級そうな黒服で、ウイスキーらしきものを氷で割ったグラスを持ち、話し込みながら飲んでいる。そのうちの一人が、私たちに気が付いた。
「おー、タクミ! その可愛い子は?」
「百瀬寧々ちゃんです」
「ああ、例の子か。寧々ちゃん、こっちにおいで」
三人とも、見た目は富裕層のそれだった。豪さんを見ているから分かる。でも、清潔感や礼儀正しさは、豪さんの方が何十倍も上だ。
手招きされて近づくと、男性たちの服の袖から僅かに見える刺青に、ぞっとした。促されるままに、恐る恐るソファに掛ける。世の中には、豪さんや秋彦さんみたいに優しくて温かい人たちがいれば、こういう怖い人たちもいるのだ。それが分かっただけでも、いい社会勉強になったかもしれない。
「何か飲む? カクテルは何が好き?」
「あの、お酒はまだ、飲めなくて……」
「そうなの? じゃあ、オレンジジュースでいい?」
「……はい」
私が三人に囲まれると、タクミさんはドアの近くに戻り、そこで直立した。そのまま、こちらを見ている。私と話したいと言っていたはずなのに、そんな素振りは無く、まるでこの部屋の見張りのようだ。
まさか――これから何か、起こるのでは。そう思うと、受け取ったグラスが恐怖心で震えた。
「じゃあ、乾杯」
「……はい」
「そんなに緊張しないで。リラックスしてよ」
喉がカラカラに乾いている。それを潤すように、グラスに注がれたオレンジジュースを、ぐっと飲み干した。
それが間違いだった。グラスが空になると、注がれるがままに口にしていたオレンジジュース。緊張のせいで、味がよく分からない。次第に頭がくらくらして、身体が火照っていく。
もしかして、何かを入れたんじゃないか。そう聞きたいのに、身体が言うことを聞かない。
0
お気に入りに追加
351
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件
百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。
そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。
いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。)
それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる!
いいんだけど触りすぎ。
お母様も呆れからの憎しみも・・・
溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。
デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。
アリサはの気持ちは・・・。
【完結】堕ちた令嬢
マー子
恋愛
・R18・無理矢理?・監禁×孕ませ
・ハピエン
※レイプや陵辱などの表現があります!苦手な方は御遠慮下さい。
〜ストーリー〜
裕福ではないが、父と母と私の三人平凡で幸せな日々を過ごしていた。
素敵な婚約者もいて、学園を卒業したらすぐに結婚するはずだった。
それなのに、どうしてこんな事になってしまったんだろう⋯?
◇人物の表現が『彼』『彼女』『ヤツ』などで、殆ど名前が出てきません。なるべく表現する人は統一してますが、途中分からなくても多分コイツだろう?と温かい目で見守って下さい。
◇後半やっと彼の目的が分かります。
◇切ないけれど、ハッピーエンドを目指しました。
◇全8話+その後で完結
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる