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御曹司の甘い嫉妬

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 互いの動きがピタリと止まる。私は息を呑んで、扉の方を見た。聞き間違いかと思ったけれど、豪さんも同時に動きを止めたということは、音がしたのは確かなようだ。

 何も言わず、互いの息の音だけを聞きながら、目配せをする。豪さんのこめかみから汗が噴き出し、それは頬を伝って、私の胸の上に落ちた。

 豪さんは人差し指を立てて、自分の唇に当てる。静かにして、という指示だと分かり、私は唇を噛んで頷いた。でも、身体は繋がったまま。寸止めを食らったままの私は、もどかしさと緊張とがい交ぜになって、混乱していた。

 もう一度、コンコンッとノックの音が響いた。間違いない、扉を叩いているのは秋彦さんだ。

 どうして戻ってきたのだろう。ホットミルクをちゃんと飲んだのかとか、私が眠りにつけたのかどうかを確認しに来たのか。はたまた、それとは全く違う用事――例えば、豪さんとの密事を咎めにきたか。

 私の声が外に聞こえて、秋彦さんの耳に届いてしまった可能性もある。だんだんと、怖くなってきた。私の部屋の扉には、鍵がついていない。私以外の誰かが入るときは、ノックでもなんでも、必ず事前に私の了承を得てからという決まりがある。

 私が屋敷を離れている間のことは知らないけれど、誰も勝手に入ってはいないだろう。屋敷のみんなのことは、信頼している。

 でも今、秋彦さんが扉を開ければ、一巻の終わりだ。私たちの関係が発覚し、ただでは済まされない。不安が高まり、呼吸が荒くなっていく。もし見つかったとしても――あの優しい秋彦さんなら、何も見なかったことにして、周囲には黙っていてくれないだろうか。そんな淡い望みを抱いたけれど、どうなるかは、実際にそうなってみなければ分からない。

 それよりも、まず一番の願いは、扉を開けないでほしいということだった。

「秋彦かな」
「たぶん……」

 囁き声だと余計に響くように感じて、焦りに拍車がかかる。心臓が、胸から飛び出しそうな勢いで鳴っていた。しばらくおとなしくして待っていると、微かに足音がして、聞こえなくなった。恐らく秋彦さんは、私がもう眠っていると判断して去って行ったのだろう。

 緊張から解放されて息を吐くと、豪さんが私の唇を奪った。唇をすり合わせるようなキス。こんなのはあまり経験がなくて、戸惑う。

「んっ……?」
「俺が抱いている間は、他の男のこと考えないで」
「だって、さっきのは不可抗力っ……」
「そうだね。でも、嫌なんだ」

 私が頷くと、豪さんはすがるようにキスを続けた。そして、腰の動きを再開する。さっきと同じ高みを目指すのはもう難しいように思えたけれど、豪さんの突き方は的確だった。私の弱いところを完全に理解している。

「あんっ……んっ、あっ……」
「さっき秋彦が来た時、ここがすごく締まった」
「へっ? あんっ、あっ……だめっ」
「ドキドキしたの?」

 豪さんの瞳に浮かぶのは、嫉妬の炎。私が秋彦さんを気にしていると、豪さんは思っている。確かにドキドキしたけれど、それは恋心ではなく緊張感だ。吊り橋効果とも違う。今はとにかく、豪さんの誤解を解かなければ。
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