真珠の涙は艶麗に煌めく

枳 雨那

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「もう、終わりですか?」
「ああ。これ以上は、抑えが利かなくなる……」
「今日は、新月です。色香はほとんど出ていないはずです。それでも、だめですか?」
「色香は関係ない。それにしても、お前、甘え上手になりすぎだ……」

 好きな人と触れ合いたい、肌を重ねたい。はしたないことだと分かっているが、それが真珠の正直な欲求だった。

 目を泳がせて、ひどく狼狽える銀が、愛しかった。色香が関係ないと言ってくれて、嬉しかった。真珠は、銀の手を持ち、自身の頬に当て、無言でねだる。

「……いいのか?」
「はい」
「後悔するかもしれない」
「私はしません。銀さんは?」
「きっと後悔する。でも、これで触れなかったら、もっと後悔するのかもしれないな……」
「じゃあ私に、銀さんの熱を……ください」

 金色の双眸が細められた後、彼は真珠を横抱きにして素早く立ち上がり、自室に入っていく。そのまま、布団の上に真珠を降ろした。

 部屋の扉が閉まった。光もなにもない暗闇の中、目が慣れるまで、二人は手探りで互いの顔に触れ、口づけを交わし続けた。

 銀髪と白い肌がぼんやりと見えてくると、真珠はその背中に腕を回して抱きついた。いつも真珠を守り、助けてくれる身体。銀も、真珠の髪に手を差し入れ、口づけを深くしながら抱きしめ返す。

 触れたところから肌が火照り、互いの期待を高めていった。

「銀さん、触って?」
「……ああ」

 銀の手が、真珠の胸元を割り、帯を緩めて肌蹴させていく。まだ少し遠慮しているような触り方にじれったくなりながらも、真珠は呼吸を荒くして待った。帯が完全にとれて、着物も襦袢も脱がされ、真珠は座ったまま裸になる。

「綺麗だな」
「えっ、見えるんですか?」
「もうはっきり見える」

 それがお世辞ではないと分かって、真珠は飛び上がりそうだった。好きな人に褒められる感覚は、もうずっと味わっていない。誰に言われても嬉しいが、銀は別格だ。

「ありがとう、ございます……銀さんの方が、ずっと綺麗なのに」
「男に綺麗って……正気か?」
「本当です。初めて会った時、そう思ったから」

 銀は胡坐を組み、その上に真珠を乗せた。ついばむようにキスをしてから、ためらいがちに真珠の胸に触れる。ぴんと立った双丘の頂が、待ち望んでいたかのように快感に震えた。

「あっ」
「うまくできなかったらすまない」
「謝らないでください。銀さんになら、何をされても嬉しいから」
「お前っ……甘えだけじゃなく、煽りも上達したのか?」

 銀が困ったように笑い、下から乳房を持ち上げるようにして揉み始めた。その間に真珠の額やこめかみ、頬と首筋にキスを落としていく。ちゅっと音を立てて吸いつかれる度に、真珠は小さな嬌声を上げた。

「んっ、あっ……」
「この声をあいつらが聞いたかと思うと、妬けるな」
「銀さんも、嫉妬するんですか……?」
「当たり前だろう。俺をなんだと思ってるんだ」

 いつもの銀なら否定しそうなものだが、随分と素直になっているようだ。銀の顔が胸元に降り、指で充分に慣らされた蕾を口に含んだ。

「あ、んんっ」

 吸って、舌で転がして、甘噛みしながら、もう一方は指で摘まんで弾いて、すりすりと撫でている。あの寡黙な銀と、今こうしている現実に、真珠は快感を拾いながらもどこか夢心地だった。

(すっごく、気持ちいい……)

 かつては、好きな人とすら肌を重ねることは怖かった。自分の裸を見たら、幻滅して去って行くのではないかと思っていたから。結果、真珠があまりにも拒み続けたせいで、彼らには呆れられてしまったのだが。

 でも真珠は、そうしてよかったのだと、今心の奥底から思っている。それがなければ、こうして銀に出会えなかったのだから。

「銀さんっ、好きっ」
「どうした、急に?」
「あっ、んっ……言いたく、なったんです」
「あんまり、可愛いことをするな……」

 銀は、顔を隠すようにもう一度胸の先端に舌先を伸ばし、真珠を諌めるかのように強くちゅうっと吸った。

「ああっ!」
「腰が動いてる」

 先程からずっと、真珠の腰はもぞもぞと動いていた。じっとしていろという方が無理だ。銀の手が腰と太腿を撫で、尻の両房を軽く揉んでから、ぐっしょりと潤ったそこに伸びていく。

「んっ」
「……すごいな。蜜でとろとろだ」
「だって、銀さんが触るからっ」
「俺のせいか」

 銀が喉の奥で笑い、真珠の秘裂を指でゆっくりと広げていく。蜜が滴り糸を引いて、微かな水音を立てた。花弁を擦った銀の指に、蜜が絡まっていく。

「あっ、指を……」
「指がどうした?」

 真珠はまた、無意識にねだろうとしていた。やはり貪婪になったものだ。銀に聞かれてしまうと、急に羞恥が込み上げ、そのまま黙ってしまった。銀は、真珠の躊躇いに気付いていて、わざと聞き返している。

「意地悪、しないでください……」
「ははっ。中に、入れていいか?」
「……はい。いっぱい、擦ってほしいっ」
「……どの口が意地悪って言ったんだ。お前の方が、よっぽど性質たちが悪い」
「えっ? あっ、ああっ!」

 銀の指が、ゆっくりと中を進んでいく。一本では物足りず、真珠は二本に増やすように頼んだ。銀がまた悔しそうに顔を歪めたが、真珠の要望通りにしてくれた。ごつごつとして骨ばった指が、内壁を擦り、抜き挿しを繰り返す。

「あんっ、そこっ、もっと……」
「ここか?」
「うんっ……あっ、ああっ!」

 いつも真珠が感じる一点を銀が見つけ、集中的にそこを撫でた。真珠は声を上げ喉を震わせて、全身で受け止めていく。

 銀も息を荒くしながら、ずっと蜜を溢れさせるそこを、ぐちゃぐちゃにかした。空いた手では乳房を揉みしだき、親指で乳首を押し潰して、真珠を追い詰めていく。

「あんっ、銀さんっ……イッちゃうっ」
「ああ、いいぞ。俺の指でよがってみせろ」
「ひ、あっ……あぁぁんっ!」

 全身を小さく痙攣させ、真珠は一度目の絶頂を見せた。銀が指を引き抜いて、手首まで蜜で濡れてしまったそれを、ぺろっと舐めとった。

「甘い、な」
「やっ……それは絶対、嘘!」
「嘘じゃない。初めて舐めたのに、嘘をつくわけないだろ」

 真珠は、自身の恥ずかしさを吹き飛ばすほどに、一瞬固まった。信じがたい言葉が聞こえた気がしたのだ。いや、確実に聞こえた。

「し、銀さん。今、初めてって」
「……あ」
「もしかして、こういうの全部、初めてですか……?」

 二十八の立派な志士であろう男が、これまで一度も女性を抱いたことがないなど、にわかには信じられなかった。ただでさえ、この美貌と逞しさに、憧れている女性は多かったはずなのに。

 銀は、墓穴を掘りそっぽを向いてしまったが、徐に頷いた。それでなぜか、真珠は納得した。

 大切な人を作ることを怖がっていた彼が、簡単な気持ちで女性を抱くわけがない。反面、今は真珠を初めて受け入れようとしてくれている。銀らしい、と真珠は思う。

「……引く、か?」
「いいえ、全然。むしろ、とっても嬉しいです」
「そういうもの、なのか?」
「はい」

 真珠だって、この世界に来るまでは処女だった。来てすぐに瑠璃に奪われてしまったのだが、これは黙っておいた方がいいと思い、言わなかった。いずれ、瑠璃が言ってしまうかもしれないが。

 真珠が微笑んでいると、銀は照れくさそうに口元を曲げ、すぐ近くにあった引き出しから包みを取り出した。初めてでも、そういう準備は、あらかじめしておくものらしい。
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