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04 ヴィンセント10歳 04
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そうしてヴィンセントを抱いて寝るようになってから、三日後。やっと彼は目を覚ました。
目を覚ましたばかりの彼は、意識がはっきりしていない様子。エルをメイドか何かだと思っているようで、おとなしく世話をやかれていた。
けれど次第に状況を理解し始めると、ベッドの中で震えながら怯えるようになった。
きっと暗殺されそうになった時のことを、思い出したのだろう。この年頃の子どもにとっては、耐えがたい記憶のはず。
ただ幸いにも、エルに対して怯えることはなかった。彼のマナ核をエル色に染めたことで、親のような認識でいるのかもしれない。
マナ核の中にあるマナは、永遠に入れ替わることはない。エルのマナで満たされたことにより、ヴィンセントは親に愛されない子として認定を受けたようなもの。
それについても罪悪感はあるが、震える子のわずかな安らぎとなっているなら意味はあったのだと思いたい。
その後もヴィンセントを抱いて寝る日々を過ごしたことで、彼はようやく落ち着いて状況を判断できるようになってきた。
「あなたが、僕のマナ核を染めてくださったのですね」
ヴィンセントの最初の言葉は、暗殺に関することでも、身分に関することでもなく、マナ核が動き出したことへの喜びだった。
胸に手を当て、大切そうにその音を確認している。
「勝手なことをして申し訳ございません。お坊ちゃまが回復するには必要でしたの」
「いいえ。むしろ僕は感謝の気持ちでいっぱいです。僕を助けてくださりありがとうございます」
この家を見れば、エルが平民だとすぐにわかるだろうに。彼の謙虚な態度に、エルの心は苦しくなる。
彼は皇子でありながらも、常にこのような態度で使用人に接していなければ、マナを分けてもらえなかったのだから。
マナは身体の中になくてはならないもの。瀕死のヴィンセントへ大量のマナを渡したことで、エルの身も危険に晒された。誰も好き好んで、他人へ渡すようなものではない。
そのようなマナを他人から分けてもらわなければいけなかったヴィンセントは、さぞ肩身の狭い思いだったはず。
「けれど、僕には十分にお礼をお支払いすることができません……」
「お礼なんて結構ですよ。お坊ちゃまがお元気になられて、私もほっとしました」
エルにとっては、ヴィンセントが元気になることが、何よりもお礼となる。
気にするなと微笑んで見せたが、彼はさらに不安そうな顔をする。
「僕はもう、家には帰れません……。どのような仕事でもしますから、どうかこちらへ置いてください!」
深々と頭を下げられて、エルは慌てる。
「あの……。ご事情は深くは伺いませんが、高貴なお方でしたらご支援くださる家門もいらっしゃいますよね?」
彼はエルが助けたことに感謝している。この良い関係のまま支援者の元へと送り届ければ、エルの役目は終わり。また小説と関係のない生活に戻れるはず。
「僕の支援者はもういません。……父の怒りを買いましたので」
「えっ……」
ヴィンセントの最大の支援者は、彼の母方の祖父だ。小説でもヴィンセントの祖父は皇帝の怒りを買い処刑される。
けれどそのエピソードは、悪役エルが処刑されたあと。
エルが起こした事件により、祖父はマナ核の必要性を強く感じるようになる。
ヴィンセントのマナ核を皇帝のマナ色に染めてほしいと願った祖父は、皇帝の怒りを買い処刑されるのだ。
皇帝は、後継者のマナ核しか染めないという異常な考えの持ち主。祖父は孫を後継者にしろと迫ったも同然だった。
ヴィンセントは祖父の死を悲しみ、のちに父親から皇位を奪う理由ともなる。
(私が物語から逃げても、ストーリーに大きな変更はないのね……)
エルがヴィンセントの衰弱死を計画しなくても彼は瀕死に陥り、そして彼の祖父も亡くなった。
そうなると、エルの死も免れないのかもしれない。エルはぞくりと、身震いした。
(これは偶然よ。私は悪いことなどしていないもの。きっと大丈夫……)
「行く場所がないなら、私と一緒に暮らしましょう。私はエルよ。あなたのお名前は?」
不安を打ち消すように微笑むと、ヴィンセントも不安が消えたような微笑み返してきた。
「心から感謝します、エル。僕のことは、ヴィ……。ヴィーと呼んでください」
目を覚ましたばかりの彼は、意識がはっきりしていない様子。エルをメイドか何かだと思っているようで、おとなしく世話をやかれていた。
けれど次第に状況を理解し始めると、ベッドの中で震えながら怯えるようになった。
きっと暗殺されそうになった時のことを、思い出したのだろう。この年頃の子どもにとっては、耐えがたい記憶のはず。
ただ幸いにも、エルに対して怯えることはなかった。彼のマナ核をエル色に染めたことで、親のような認識でいるのかもしれない。
マナ核の中にあるマナは、永遠に入れ替わることはない。エルのマナで満たされたことにより、ヴィンセントは親に愛されない子として認定を受けたようなもの。
それについても罪悪感はあるが、震える子のわずかな安らぎとなっているなら意味はあったのだと思いたい。
その後もヴィンセントを抱いて寝る日々を過ごしたことで、彼はようやく落ち着いて状況を判断できるようになってきた。
「あなたが、僕のマナ核を染めてくださったのですね」
ヴィンセントの最初の言葉は、暗殺に関することでも、身分に関することでもなく、マナ核が動き出したことへの喜びだった。
胸に手を当て、大切そうにその音を確認している。
「勝手なことをして申し訳ございません。お坊ちゃまが回復するには必要でしたの」
「いいえ。むしろ僕は感謝の気持ちでいっぱいです。僕を助けてくださりありがとうございます」
この家を見れば、エルが平民だとすぐにわかるだろうに。彼の謙虚な態度に、エルの心は苦しくなる。
彼は皇子でありながらも、常にこのような態度で使用人に接していなければ、マナを分けてもらえなかったのだから。
マナは身体の中になくてはならないもの。瀕死のヴィンセントへ大量のマナを渡したことで、エルの身も危険に晒された。誰も好き好んで、他人へ渡すようなものではない。
そのようなマナを他人から分けてもらわなければいけなかったヴィンセントは、さぞ肩身の狭い思いだったはず。
「けれど、僕には十分にお礼をお支払いすることができません……」
「お礼なんて結構ですよ。お坊ちゃまがお元気になられて、私もほっとしました」
エルにとっては、ヴィンセントが元気になることが、何よりもお礼となる。
気にするなと微笑んで見せたが、彼はさらに不安そうな顔をする。
「僕はもう、家には帰れません……。どのような仕事でもしますから、どうかこちらへ置いてください!」
深々と頭を下げられて、エルは慌てる。
「あの……。ご事情は深くは伺いませんが、高貴なお方でしたらご支援くださる家門もいらっしゃいますよね?」
彼はエルが助けたことに感謝している。この良い関係のまま支援者の元へと送り届ければ、エルの役目は終わり。また小説と関係のない生活に戻れるはず。
「僕の支援者はもういません。……父の怒りを買いましたので」
「えっ……」
ヴィンセントの最大の支援者は、彼の母方の祖父だ。小説でもヴィンセントの祖父は皇帝の怒りを買い処刑される。
けれどそのエピソードは、悪役エルが処刑されたあと。
エルが起こした事件により、祖父はマナ核の必要性を強く感じるようになる。
ヴィンセントのマナ核を皇帝のマナ色に染めてほしいと願った祖父は、皇帝の怒りを買い処刑されるのだ。
皇帝は、後継者のマナ核しか染めないという異常な考えの持ち主。祖父は孫を後継者にしろと迫ったも同然だった。
ヴィンセントは祖父の死を悲しみ、のちに父親から皇位を奪う理由ともなる。
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エルがヴィンセントの衰弱死を計画しなくても彼は瀕死に陥り、そして彼の祖父も亡くなった。
そうなると、エルの死も免れないのかもしれない。エルはぞくりと、身震いした。
(これは偶然よ。私は悪いことなどしていないもの。きっと大丈夫……)
「行く場所がないなら、私と一緒に暮らしましょう。私はエルよ。あなたのお名前は?」
不安を打ち消すように微笑むと、ヴィンセントも不安が消えたような微笑み返してきた。
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