夢の中の王子様に、現実で溺愛されています

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12 初めての夜会パートナー4

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 エドガーはその後、アイシャをダンスに誘った。
 せっかく誘ってくれたのだからと、アイシャは頑張って笑顔を作ってみたつもりだが、うまくできていたかわからない。

 こうして一緒にいられて幸せなはずなのに、公爵令嬢のことを思い出すと胸が苦しくなる。
 夢の中のエド様とは違い、現実のエドガーには立場があり、それに見合った相手がいる。アイシャが入り込めるような世界ではない。

 昨夜に見た夢での会話も、正夢になることはなかった。
 好きと伝える夢は正夢にならない。何度も経験しているので諦めていたが、聞こえなかった部分だけが少し気になる。

 エド様はあの時、何と言ったのか。
 アイシャはそれを聞いた上で「大好き」と伝えたのだから、悪いことではないはずだが……。



「アイシャ、まだ元気がありませんね」

 帰りの馬車でエドガーにそう指摘され、アイシャは自分がぼーっと窓の外を眺めていたことに気がつく。慌ててエドガーに向き直った。

「申し訳ありません……、エド様」
「彼女に何か言われたのですか?」
「いえ……」

 思わず、アイシャはうつむく。
 エドガーに婚約予定の方がいてショックだったなどとは、本人に言えるはずがない。
 なぜならエドガーとアイシャは、別に深い関係では無かったのだから。
 アイシャに好意を寄せながらも、はっきりと好きだと言わなかったのは、エドガーにはすでにお相手がいたからなのだろう。
 エドガーは本当に、癒しが欲しかっただけなのかもしれない……。

「アイシャ、はっきり言ってください。このままでは心配で、アイシャを家に帰せませんよ」

 エドガーは両手でアイシャの頬を押さえると、強制的に顔を上げさせる。

(そんな心配そうに見ないでください。私はどうしたら良いのですか……)

「話してくれますか?」
「……エド様はなぜ、私に優しくしてくださるのですか」
「……どういう意味です?」
「婚約予定の方をあのように遠ざけてまで、なぜ……」

 今にも溢れだしそうな涙をなんとかこらえてアイシャが言葉を絞り出すと、エドガーは驚いたように彼女を凝視した。

「彼女がそう言ったのですか?」
「……はい」
「それは誤解です。確かに幼い頃から、事あるごとに婚約の打診はありましたが何度も断ってきましたし、これからも受ける予定はありません」

(彼女が言っていた『婚約予定』とは、願望としてのお話だったのですか?)

 アイシャはぽかんと、呆気に取られた。
 どうやら公爵令嬢の話に、うまく丸め込まれるところだったようだ。

 けれど、これで元通りにはなれない。
 アイシャは、エドガーの王子という立場をはっきりと認識してしまった。今までのように、夢の延長線上のように思うことはもうできない。

「ですが……、エド様のご年齢では縁談などいくらでも……」

 きっとエドガーには、数えきれないほどの縁談がきているに決まっている。
 公爵令嬢はお断りできたとしても、全ての方をお断りするなど国王陛下がお許しになるとは思えない。
 王族は政略結婚が普通。今までエドガーに、お相手がいなかったのが不思議なほどだ。

 アイシャは勢いで言ってしまったが、これではエドガーがほかの方と婚約することに、不満を持っているように聞こえてしまう。

(私がそのようなことを言える立場ではないのに……)

「アイシャ、よく聞いてください。僕は今まで、一度も女性を誘ったはないし、誘いを受けたこともありません。全てアイシャが初めてなんです。それはこれからも変わりません。一生アイシャだけです」

 エドガーは、アイシャの手を取り両手で包み込む。その手の暖かさが、とても辛い。
 なぜそこまで心寄せてくれるのに、好きとは言ってくれないのか。

(私はこんなにもエド様のことが大好きなのに、一方通行だなんて悲しすぎます)

 気がつけばアイシャの瞳からは、涙がとめどなく溢れていた。
 嬉しいはずの甘い言葉が、今はとても苦く感じられる。

 会えるだけで幸せだったのに、いつの間にかわがままな子になってしまった。
 けれどアイシャは、エドガーに愛されたい。
 夢の中のように毎日、好きだと伝え合いたい。

「すみません……。追い詰めるつもりはなかったんです」

 エドガーはそっとアイシャを抱きしめると「明日からもまた会ってくれますか?」と尋ねてきた。

 こんな思いをしても、エドガーには会いたい。
 アイシャはこくりとうなずいた。
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