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26 鏡の中の聖女
4 前世からの繋がり
しおりを挟む何はともあれ、リズは聖女の力も発現したので、フェリクスとの婚約が破棄になっても魔女だからと非難する者はいないはず。
仮にそのような者がいたとしても、公王から代理決定権まで獲得したアレクシスが黙ってはいない。
ホッとしつつリズは、アレクシスに視線を向けてみた。
「……アレクシス?」
彼は今にも泣き出しそうな顔で、リズを見つめていた。
アレクシスがこんな顔をする時はほとんどの場合、嬉しくて感動している時。今までは妹愛が過剰すぎると思っていたが、今ならリズも彼と同じ気持ちを味わえそうだ。
「リズ……。僕達は、前世から繋がっていたんだね」
『鏡の中の聖女』を全巻読破しているアレクシスは、リズとフェリクスの関係に嫉妬し心配が尽きなかった。リズ自身も気が付いていない心の奥底には、アレクシスでは超えられない絆が二人にはあるのではないかと。
けれど少なくとも、前世のリズはアレクシスを選んでいた。それがペットと飼主という関係でも構わない。前世からの繋がりがあるという事実が、自分とリズの間にもあったことが嬉しかった。
「ふふ。アレクシスはすぐ泣くんだから」
そう思っているのは、世界中を探してもリズひとりだけだ。
アレクシスが泣きたいほど嬉しい気持ちにさせてくれるのは、リズ以外にいないのだから。
「泣きたくもなるよ。当て馬のはずの僕が、リズと一緒に前世を映す鏡に映ることができたんだから」
「うん。アレクシスは本当は、当て馬なんかじゃなかったんだよ。私のヒーローは、アレクシスだったんだね」
『鏡の中の聖女』は一体いつごろから、フェリクスによって捻じ曲げられていたのだろうか。リズにそれを知る術はないけれど、フェリクスに打ち勝って本当の相手と出会えたことだけでも幸せだ。
事情を話せば、フェリクスならリズを火あぶりにはしないと感じた時点で、リズはストーリーに身を委ねることも可能だった。
それでもヒーローに違和感を覚え、結婚したくないと思うようになったリズは、無意識のうちに『彼は本当のヒーローではない』と感じていたのかもしれない。
「僕にとっては初めから、リズだけが僕のヒロインだったよ。僕の心を優しく温めてくれて、勇気を持つ力を与えてくれたのはリズだから」
アレクシスの原動力は、ひたすらリズだ。今となっては、リズと出会うまではどうやって動いていたのかも、よく思い出せない。
「リズ。これからは僕だけのヒロインになってほしい。『鏡の中の聖女』のリズではなく、僕の妻として隣にいてほしいんだ。当て馬なんて存在しない、僕達二人だけの物語のヒロインになってくれないかな?」
「うん。私も、アレクシスと二人だけの物語を紡ぎたい」
これからは誰にも邪魔されることなく、アレクシスと穏やかに幸せな日々を過ごしたい。
生まれ代わってからずっと、火あぶりを回避することだけ考えてきたリズにもやっと、幸せになることだけに専念できる日が来たのだ。
アレクシスが幸せそうな顔でいると、リズまで嬉しくて涙が溢れてくる。二人で瞳を潤ませながら微笑み合った。
「リズ。今すぐにでも婚約式を挙げようか。誰かに邪魔される前に、リズを完全に独り占めしたい」
アレクシスに温かく抱きしめられて、彼の心地よい香りに包まれる。リズはこれ以上ないほど幸せな気分で、彼に身を預けた。
「私もアレクシスに独り占めされたい」
前世を映す鏡に映ることができた二人にはもう、障害となるものは何も無い。こればかりは、法律を作ったフェリクスに感謝しなければ。
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