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24 ドルレーツ王国へ

3 王女殿下の告白

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 エディットの案内で向かったブティックは、公国では見たことがないデザインのドレスばかりが展示されていた。
 ここでも田舎者気分できょろきょろ物珍し気に眺めていたリズは、どのドレスにしようかなと考え始めたが。
 エディットは店員にこう述べた。

「夜会用のドレスを、一通り試着しますわ」
「へ? 一通り?」
「どうかなさいまして? 公女殿下」

 無垢な表情で首を傾げられたので、リズはぶるぶると首を左右に振った。

「可愛いドレスばかりですもんね。たくさん試着しなきゃ……」
「こちらで気に入ったものがなければ、他のお店へも行ってみましょう」

(アレクシスがおかしいのかと思っていたけれど、これが普通だったんだ……)

 リズはアレクシスとの買い物を思い出しながら、しみじみとそう思った。
 それでもアレクシスはリズが似合う色だけを試着させていたので、そちらのほうが良心的だったのかもしれない。

 エディットに試着室へと連行されながら、今日は長くなりそうだ。とリズは悟った。

 しかし、試着室へと入ったエディットは、着替えを手伝う店員たちを部屋の外へと出してしまった。
 どうしたのだろう? とリズが思っていると、彼女は真剣な表情でリズの両手を掴んだ。

「どうしましたか……? 王女殿下」
「あの……私……」

 なぜかエディットは、物凄く思いつめている様子。握られた手がわずかに震えている。
 どうやらフェリクス達がいる場では話せない内容なので、リズをここへと連れ出したようだ。

「とりあえず、座りましょう。お茶も用意されていますし」

 ソファへとエディットを座らせ、リズも隣へと座る。それから、用意されていたお茶をエディットに手渡した。彼女はそれをちょびちょび口に含んでから、ほぅっと息を吐いた。

「申し訳ありません……。私が公女殿下に、優しくしていただく資格などありませんのに……」
「なぜそんなことをおっしゃるんですか? 私達、少しは仲良くなったと思っていましたけど?」

 フェリクスがエディットを独占していたので、彼女と話す機会はそれほど多くはなかったけれど、新たなヒロインと思える彼女に、リズは親近感を持っていた。

「私も公女殿下とは、もっと仲良くなりたいと思っていましたわ。けれど私は……。公女殿下と公子殿下を、裏切ってしまいました……」
「え…………」

 自分達に関することと言えば、リズの婚約破棄に関する問題しかない。

 リズは、サーっと血の気が引く感覚を味わいながら、エディットの両肩に掴みかかった。

「もしかしてフェリクスに、婚約破棄できることを話したんですか!」
「…………はい」
「そんな……」
「母国の事情を盾に、脅されて……。本当に申し訳ございません!」

 すすり泣き始めるエディットの肩を、リズは力が抜けたように話した。そのような事情なら、怒るに怒れない。

(フェリクスは私の前世を聞いて、どう思ったんだろう?)

 先ほどのやり取りを見る限りでは、リズを悪く思っているようには見えなかった。フェリクスならば前世を映す鏡を見ずとも、リズの魂が聖女のものだとわかるのだろうか。
 それとも、騙した相手を呼び寄せて制裁を与えるために、素知らぬふりをしていたのか。

 火あぶりエンドは、回避できていなかったのかもしれない。リズは恐ろしくなる。

「フェリクス様は今、婚約式の準備をしておりますわ……。きっと公女殿下の魔法を妨害してくるでしょうから、どうか今は公国へお戻りください。その間に彼のお気持ちをこちらへ向けられるよう、努力しますから!」

(えっ……。私の魔法って? フェリクスが妨害するって、どういう意味?)

 アレクシスは彼女に、どのような説明をしたのか。リズは何も聞いていない。

「あの……。アレクシスがそう説明したんですか?」
「公子殿下は私に『婚約は無効となる予定』としか、おっしゃいませんでしたわ。ですがその場にいた従者の方が『魔女は、そのようなことまでできるのですか』と感心していたので……。魔法で婚約破棄できるという意味ですよね?」

 どうやら従者の勘違いを、エディットはそのまま受け取ったようだ。
 リズは内心ホッとしつつも、これは顔には出してはいけないと表情を引き締める。

「そうでしたか。後でアレクシスと相談してみますね」
「はい……。よろしくお願いいたしますわ」

 エディットはハンカチを取り出して涙を拭いたが、不安でいっぱいの様子。それでもアレクシスと相談すると聞いて涙は止まったようなので、彼女にとってもアレクシスは頼れる存在のようだ。

 今はこれ以上の話をすべきではない。下手にヒントを与えてしまえば、またフェリクスに情報が洩れるかもしれない。
 リズは気分を変えるように、勢いよくソファから立ち上がった。

「それじゃ、そろそろ試着に戻りましょうか。みんなに悟られないよう、思いっきり楽しみましょう」

 にこりとリズが微笑むと、エディットは困惑の色を見せる。

「公女殿下は、この先が不安ではないのですか?」

 今の話はエディットの勘違いとはいえ、フェリクスは気まぐれで突拍子もない策を講じてくるような人だ。
 無事に婚約破棄できるのかリズもずっと不安には感じてきたが、それでも思いつめることなくこれまで生活してこられたのは、アレクシスの存在が大きいからだ。

「アレクシスがいれば、何とかしてもらえるかなーって。王女殿下もそう思いません?」

 呑気な雰囲気でそう尋ねると、エディットも少しだけ笑みをこぼす。

「ふふ。そうですわね。公子殿下にお任せすれば、全てが上手くいく気がしますわ」
「そうでしょう。ですから私達は、知らないフリをして楽しんでいましょう」
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