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17 公子様の帰国

3 新なヒロインの登場?

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 上機嫌となった公王の発案により、今日のフェリクスを歓迎する宴は、リズとフェリクスの婚約を祝う宴へと変更された。ちなみに、明日はエディットを歓迎する宴が開かれ、明後日は正式に婚約の書類にサインした祝いの宴が開かれるようだ。
 それを今日、まとめてやってはいけないのか。リズはそう思ったが、貴族は何かにつけて夜会を開きたがるらしい。

 ひとまずリズ達はシャンパンを片手に、出会いや再会や婚約やらを祝して乾杯をした。もちろんリズだけは、アレクシスが手渡してくれたアップルサイダーでの乾杯だったが。

「アレクシス殿下は、本当に公女殿下を可愛がっておられるのですね。私の世話は、焼いてくださらないのですか?」

 シャンパンを飲んでほんのり頬を赤く染めたエディットは、甲斐甲斐しくリズの世話を焼くアレクシスに対して、冗談っぽく微笑んだ。

「そういう君も、憧れの人に会えて浮かれているようだけれど。僕のことを忘れてしまわないか心配だよ」

 アレクシスも冗談のように返すと、エディットは顔を真っ赤にさせながら「秘密にしていたのに、言わないでくださいっ」と慌て出した。

「この会場に、王女殿下の憧れの方がいらっしゃるんですか?」

 気になったリズが聞いてみると、エディットは恥ずかしそうにオロオロしながらも、リズにこくりとうなずいてみせた。
 エディットの動作はいちいちヒロインらしくて、本当に可愛い。

「公女殿下も、『鏡の中の聖女』がお好きなんですよね。実は私もそうなんです……」
「わぁ! そうなんですね。それじゃ、憧れの人って……」
「はい……。公女殿下がお気を悪くされないか、心配なのですが……」

 エディットは控えめながらも、フェリクスへと視線を向ける。フェリクスはその視線を、何でもないことのように受け止めた。

「俺に憧れる者は、星の数ほどいる。リゼットもいちいち嫉妬はしないだろう」

 たびたびフェリクスは自身過剰な発言をするが、紛れもない事実なので仕方ない。

「そっ……そうですね。それより私は、同じ小説のファンに出会えて嬉しいです」
「公女殿下にそう言っていただけて、安心いたしましたわ。滞在中に是非とも、小説についてのお話をさせてくださいませ」
「はい。私も楽しみにしています」

 リズがそう返事をすると、エディットは「ふふ。妹さんとお約束してしまいましたわ」と嬉しそうに、アレクシスへと報告をした。

(はぁ……。可愛すぎる……。そしてヒロインすぎる……)

 もしかしてこの小説は、ヒロインらしくないリズを見限って、路線変更したのかもしれないとすら思えてしまうほど、彼女は『鏡の中の聖女』のヒロイン達を彷彿とさせる雰囲気だ。

(これじゃ、勝負にもならないよね……)

 アレクシスがリズを忘れずに、今までどおり接してくれることはわかった。それでもリズは、アレクシスを取られたような気分を払拭できずにいた。
 エディットは可愛くて性格も良さそうなので、憎むこともできず、ひたすらヒロインらしくない自分に対して悔むだけだ。

 そんな気持ちを表に出さないよう頑張っていると、会場にダンスの始まりを告げる音楽が響きはじめた。

「ダンスが始まるようだな。リゼット、俺と最初のダンスを踊ってくれるか?」

 フェリクスは、リズに向けて手を差し出した。
 最初のダンスは夫婦や婚約者同士など、大切な相手と踊るのが通例となっている。契約書にサインはまだだが、婚約が決まったリズとフェリクスが一緒に踊るのは当然のことだろう。

 リズはおとなしく、その通例に従おうとして返事をしかけたが、それよりも先にアレクシスが口を開いた。

「王太子殿下に婚約者がおられない状況は、今日と明日だけです。よろしければ最初のダンスを踊る栄誉を、エディットにお与えくださると、彼女も喜びます」

 突然のアレクシスの申し出に対して、最初に反応したのはエディットだった。

「私なんかが、恐れ多いですわ……。公女殿下にも失礼ですし……」

 彼女はリズを気にするような視線を向けながらも、頬を染めてもじもじとしている。本当はフェリクスと踊りたいのが、まるわかりだ。

「私はかまいませんよ」とリズが微笑むと、フェリクスが顔を曇らせた。

「リゼット……。俺と踊りたくないのか?」
「そうではありません。私はこれから先、ずっとフェリクスを独占してしまうことになりますから、今日と明日くらいは王女殿下にお譲りいたします」

 憧れの推しと踊ってみたいという気持ちは、リズにもわかる。同じファンとしては喜びを共有したい。
 それにこう言えば、フェリクスも悪い気はしないだろう。彼は意外と、おだてに弱い。

「そういうことなら、仕方ないな。リゼットに独占される日を待ちわびながら、今日は王女と踊るとしよう」

 改めてフェリクスがダンスを申し込み直すと、エディットは感激した様子で、差し出された手を取った。
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