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17 公子様の帰国

4 公子様と幼馴染達の様子がおかしい

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 まるで小説の挿絵のような二人を見送っていると、アレクシスが「リズは僕と踊ろうね」と、リズの顔を覗き込んできた。

「うん。でも、フェリクスに譲って良かったの……?」

 アレクシスに返事をしながらも、リズはあれ? と首を傾げる。
 よくよく考えてみると、フェリクスを嫌っているアレクシスが、自分のパートナーを譲ったりするだろうか?

「別に構わないよ」
「えっ……でも。王女殿下は、アレクシスの大切な人なんでしょう?」

 随分と冷めた返事をするので、リズは戸惑いながら尋ね返す。するとアレクシスは、意味ありげに微笑んだ。

「僕は王女のことを、『友人』だと紹介したはずだよ」
「それじゃ……」
「皆がどう解釈するかは自由だけど、彼女には彼女の事情があるんだ」
「どういうこと?」
「それは、後で話すよ」

 どうやらここでは話せないような、込み入った事情があるようだ。

(エディットは、アレクシスの結婚相手ではなかったんだ……)

 リズは、自分でも不思議なくらいに、気持ちが晴れていくのを感じた。エディットがただの友人ならば、これからもリズはアレクシスを独占できる。
 嬉しさが表情に出るのが恥ずかしくて、リズは頬を手で押さえた。

 そんなリズの行動は目に入っていないのか、アレクシスは突然、辛そうに顔を歪める。

「それより僕はもう、限界なんだけど……」

 具合が悪いのだろうかと心配しながら、リズはアレクシスの顔色を確認しようとしたが、彼は倒れ込むようにしてリズに抱きついてきた。

「えっ……。ちょっとアレクシス、大丈夫?」
「大丈夫じゃない……。リズを補給しないと、もう動けない」
「こんな時に冗談言わないでよ」
「冗談じゃないよ。リズは寂しくなかったの? 僕はずっとリズに会いたかった……」

 今にも泣いてしまいそうなほど、か弱いアレクシスの声。その声だけでも、本当に会いたいと思っていたことが伝わってくる。
 アレクシスは今、どのような表情をしているのだろう。リズは見たいと思ったが、彼は見せたくなくてこうして抱きついてきたのかもしれない。
 会いたいと思っていたのは自分だけではなかったと、リズは嬉しくなる。

「私もずっと、アレクシスに会いたかったよ。ずっと寂しかった」
「僕も寂しかった……」

 こうして抱きついてくると、アレクシスのほうが弟のようだ。可愛く感じたリズは、よしよしと頭をなでる。
 それが恥ずかしかったのか、アレクシスはリズから離れると、不満そうに目を細めながらリズを見下ろした。

「ところで、そのドレスは誰にもらったの?」
「えっ!? これはその……フェリクスが……。断る隙も与えてもらえずに……」
「へぇ……。そういえば、名前で呼び合っているんだね。僕がいない間に、随分あいつと仲良くなったみたいだ」
「それはお鍋の対価というか……、成り行きでどうしようもなく……」

 言い訳にしか聞こえない事実を聞いたアレクシスは、ぶすっと顔を歪めるとリズの両肩を掴んだ。

「気に入らない。今すぐ、それを脱がしても良い?」
「ばっ……馬鹿! なにってんのよ!」

 シャンパンで酔ったわけでもないだろうに、アレクシスの目は完全に座っている。危機を感じたリズは、アレクシスの腕を掴んで抵抗した。

 そんな兄妹の様子を、横から笑う者がいた。

「帰国して早々、兄妹喧嘩ですか?」
「あっ。ローラントとカルステン!」

 アレクシスが帰ってきたということは当然、一緒にいたローラントも帰ってきたのだ。彼も、兄であるカルステンとの再会を果たしていたようだ。

 リズは笑顔で迎えるも、なぜかアレクシスとローラントは同時にため息をついた。

「やはり手遅れみたいですよ、殿下……」
「だから、最速で帰りたかったんだ……」

 二人が落ち込んでいる理由が、全くわからない。リズは困りながらカルステンへと視線を向ける。カルステンはバツが悪そうに、小声でリズに話しかけた。

「俺はまだ、死にたくないって言いましたよね」
「うん……? それは覚えてるけど」

 あの時カルステンは、それまでの行いをアレクシスには秘密にしてほしいと願っていた。そして名前呼びは、彼が望んだこと。つまりリズは、カルステンを名前で呼んではいけなかったのだ。

「わぁぁごめんなさい。そこまで考えが、及ばなかったよ……」
「いえ……。事前にお止めしなかった俺も悪いので、お気になさらず。ただもうお会いできそうにないので、永遠の別れを告げさせてください……」

 リズの前に並んでいる三人が、ずっしり重い空気を背負っている。
 名前を呼んだだけでどうしてこうなったのかと、リズは頭を抱えた。




 困ったリズは、三人と順番に踊りながら事情を聞き出すことにした。
 アレクシスとローラントの主張としては、剣などの勝負で、今まで一度もカルステンに勝てたことがないらしく、カルステンとは勝負したくないのだとか。
 そしてカルステンとしては、アレクシスを応援したいが、アレクシスはカルステンに対して冷たいので、上手くいかないらしい。

 事情を聞いてもますますよくわからないが、つまりリズがカルステンの名前を呼んだことで、カルステンを応援していると取られたようだ。

「みんなを平等に応援するから、安心して!」とリズは慰めてみたが、アレクシスとローラントは頭を抱えてため息をつくばかり。

「俺の気持ちにはすぐに気が付かれたのに、なぜ今は気が付けないんですか?」
「だって、剣の勝負はよくわからないし……」

 そうリズが答えると、カルステンもため息をついた。

 ちなみにローラントはダンス中に、リズに足を踏まれなかったこともショックだったのだとか。特殊な嗜好を持ち合わせているのは、アレクシスだけではなかったようだ。

 泥酔に続いての特殊嗜好の発覚。リズの中でのローラントのイメージは、大きく変わったのだった。
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