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11 公子様と隣国
4 親友との再会
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「私もこんなに早く、リズちゃんに会えるとは思っていなかったよ! 完成まで、秘密にするんじゃなかったんですか?」
リズに抱きついたまま、ミミはアレクシスに視線を向ける。しかしアレクシスが返答するよりも先に、慌てた様子の商会長が声を上げた。
「こらっ……ミミ! まずは公子殿下に、ご挨拶が先だろう!」
「わー! ごめんなさい!」
ミミは慌ててリズから離れると、魔女の帽子を頭から脱ぎ、ほうきを持ちながらの魔女式挨拶をおこなった。
「大変、失礼いたしました! 公子様に、ご挨拶申しげます」
「こんにちは、ミミ。ここでは、気楽に接して構わないって言っただろう」
アレクシスがにこりと微笑むと、ミミは安心したように微笑む。
「この前、公子様が持たせてくれたクッキー、村のみんなでいただきました。とっても美味しかったです!」
「それは良かった。今日も帰りに、お土産を持っていってよ」
「わぁ、嬉しい! ねぇねぇ、リズちゃん。公子様ってとっても優しいね!」
アレクシスはリズの母だけではなく、親友とまで親しくなっていたようだ。
リズにとっては大切な両者が、リズに秘密で会っていたとなると嫉妬心を覚えてしまう。けれど、それがリズを喜ばせるための準備だったなら、気持ちを抑えるしかない。
(最近の私って、嫉妬深くなった気がする……)
魔女の森を出るまでのリズにとって人間関係とは、小説のストーリーが始まったと同時にお別れしなければならない人達ばかりで、リズもそのつもりで接してきた。
けれどアレクシスと出会い、火あぶりや逃亡生活をせずにすむ未来が見えてきたせいか、人付き合いに対しての欲が出てきたようだ。
「うん、アレクシスは優しくて、頼りになるお兄ちゃんなの」
リズがそう答えると、ミミはリズの手を取りながら、嬉しそうに笑みを浮かべる。
「リズちゃんに、頼れる人ができて良かった。リズちゃんって何でも一人でしようとするから、おばさんと二人で心配していたんだよ」
ミミに指摘されて「そうかな?」とリズは首を傾げる。リズには常に、メルヒオールがいる。『人』ではないが、いつも協力し合ってきた相棒だ。
ただミミの言うとおり、他の魔女に頼ったことは今まで、あまりなかった気がする。小説のストーリーに巻き込まないようにしていたので、仕方ないことだ。
するとアレクシスが「そうだね」と、納得するようにうなずいた。
「リズに頼ってもらうまでには、結構苦労したよ」
アレクシスは、リズが逃げ出そうとした日のことを言っているのだろう。彼はリズに信用してもらうために、わざわざ魔女の森まで来て、リズの母にも丁寧な説明をしてくれたのだ。
今思えば、失礼な態度で拒否しようとしたリズに対して、アレクシスはそれでも手を差し伸べてくれる優しい人だった。もっと早くに気がつくべきだったと、リズは今更ながら反省する。
「あの時は、ごめんなさい……」
「リズが謝る必要はないよ。これからはどんなことがあっても、一番に僕を頼ってくれるよね?」
「うん……。アレクシスに頼りすぎて、自分では何もできない子になりそうで、怖いくらいだよ」
それくらい今のリズは、アレクシスに頼りきりだ。そのせいか、数日の留守番ですら、少し不安に感じているほど。
そんなリズの発言は、アレクシスにとっては満足なものだったようだ。
「聞いたかい? ミミ。僕の妹は、僕無しでは生きて行けないみたいだよ」
「お兄ちゃんの愛が伝わったようで、良かったですね、公子様!」
どうやらリズがいない場面でも、アレクシスの妹愛は炸裂していたようだ。親友にまで知られていることに、リズはとてつもなく恥ずかしくなった。
ミミがこの店へ出入りしている理由は、アレクシスから直々に「店長になってほしい」と頼まれたからだそうだ。表向きリズは、一年後には王太子と婚約して国から出て行く予定なので、リズの親友であるミミにお店を任せることにしたようだ。
リズは好きな時にここへ来て、薬作りや他の魔女達との交流を楽しむだけで良いのだとか。公女としてリズに負担がかからないよう、アレクシスは最大限に配慮してくれたようだ。
夕方までじっくりとお店について話した後、アレクシスはミミも誘ってリズ達を食事へと連れて行った。
ミミにとっては、貴族が利用するレストランは初めてだったようで、大はしゃぎでレストランを堪能していた。
「リズちゃん、どうしよう! これ美味しすぎて、感動が止まらないよ!」
「ふふ。ミミってば、さっきからそればっかり」
ミミは、先ほどから新しい料理が運ばれてくるたびに、感動しているようだ。魔女にとっては、一生食べることが無かったであろう料理ばかり出てくるので、リズも気持ちはわからないでもない。
けれど、リズには前世の記憶があるので、貴族の食事は「久しぶりに美味しいものを食べられた」という意味の感動だった。ミミにとっては、それを遥かに超える感動なのだろう。
「いずれは、自分達でもここへ来られるくらいには、稼げるようにするから、期待していて」
「本当ですか! 私、公子様に一生ついていきます!」
アレクシスがそう言うのなら、魔女達はこれから先、貧困にあえぐ必要はなくなるのだろう。彼はリズだけではなく、魔女全体を救うつもりでいる。公子として国民に優しさを向ける彼の姿は、とても素敵だ。
そんな兄を見つめていたリズは、なぜか心臓が忙しなく動くと思いながら食事を終えた。
アレクシスが持たせたケーキの箱を大切そうに抱えたミミが、ほうきで帰っていくのを見送ったリズ達は、馬車で公宮への帰路についた。
「アレクシス、今日は本当にありがとう。アレクシスがいない間は、ミミと一緒にお店のことを考えていたら、あっという間に過ぎちゃいそう」
「それなら良かった。リズに泣いて引き止められてしまったら、僕はなす術がないから」
「ちょっ……。そんなことしないよ。子供じゃないんだから」
アレクシスにとってリズは、幼い子供として映っているのではないか。リズは時々、そんな疑問すら感じるほどアレクシスは過保護だ。
リズが頬を膨らませて抗議すると、向かい側でローラントが笑いをこらえるように微笑んでいる。
「それにしても、ミミさんは元気で明るいお方でしたね」
「そうでしょう。ミミと一緒にいると、暗い気持ちなんて吹き飛んじゃうんだよ」
「わかります。あのお方を見ていると、些細な悩みなど馬鹿らしく思えてしまいますね」
悩みが多そうなローラントにとっては、ミミのような子はそのように見えるようだ。
リズが「もしかして」と思っていると、アレクシスがニヤリと微笑む。
「ローラントは、ミミが気に入ったようだね。君もいい歳だし、そろそろ結婚でも考えてみたら?」
「お気遣い感謝いたします。ですが俺には、心に決めた女性がおりますので。殿下こそ、国を思うのでしたらそろそろ、政略結婚をお決めになる時期ではございませんか?」
「僕は結婚だけは、自分のためにしようと思っているんだ。愛するあの子以外には考えられないよ」
(わぁ……。二人とも、想い人がいたなんて……!)
小説ではヒロイン以外で、二人に想い人はいなかったはずだ。またも小説とは違う展開を見つけたリズは、嬉しくなって二人に問いかける。
「ねぇねぇ。二人の想い人ってどんな人? よければ、協力するよ!」
二人には日頃からお世話になっているので、今こそ恩返しするチャンス。リズはそう意気込みながら、二人を交互に見つめる。
しかしアレクシスとローラントは、同時に大きなため息をついた。
リズに抱きついたまま、ミミはアレクシスに視線を向ける。しかしアレクシスが返答するよりも先に、慌てた様子の商会長が声を上げた。
「こらっ……ミミ! まずは公子殿下に、ご挨拶が先だろう!」
「わー! ごめんなさい!」
ミミは慌ててリズから離れると、魔女の帽子を頭から脱ぎ、ほうきを持ちながらの魔女式挨拶をおこなった。
「大変、失礼いたしました! 公子様に、ご挨拶申しげます」
「こんにちは、ミミ。ここでは、気楽に接して構わないって言っただろう」
アレクシスがにこりと微笑むと、ミミは安心したように微笑む。
「この前、公子様が持たせてくれたクッキー、村のみんなでいただきました。とっても美味しかったです!」
「それは良かった。今日も帰りに、お土産を持っていってよ」
「わぁ、嬉しい! ねぇねぇ、リズちゃん。公子様ってとっても優しいね!」
アレクシスはリズの母だけではなく、親友とまで親しくなっていたようだ。
リズにとっては大切な両者が、リズに秘密で会っていたとなると嫉妬心を覚えてしまう。けれど、それがリズを喜ばせるための準備だったなら、気持ちを抑えるしかない。
(最近の私って、嫉妬深くなった気がする……)
魔女の森を出るまでのリズにとって人間関係とは、小説のストーリーが始まったと同時にお別れしなければならない人達ばかりで、リズもそのつもりで接してきた。
けれどアレクシスと出会い、火あぶりや逃亡生活をせずにすむ未来が見えてきたせいか、人付き合いに対しての欲が出てきたようだ。
「うん、アレクシスは優しくて、頼りになるお兄ちゃんなの」
リズがそう答えると、ミミはリズの手を取りながら、嬉しそうに笑みを浮かべる。
「リズちゃんに、頼れる人ができて良かった。リズちゃんって何でも一人でしようとするから、おばさんと二人で心配していたんだよ」
ミミに指摘されて「そうかな?」とリズは首を傾げる。リズには常に、メルヒオールがいる。『人』ではないが、いつも協力し合ってきた相棒だ。
ただミミの言うとおり、他の魔女に頼ったことは今まで、あまりなかった気がする。小説のストーリーに巻き込まないようにしていたので、仕方ないことだ。
するとアレクシスが「そうだね」と、納得するようにうなずいた。
「リズに頼ってもらうまでには、結構苦労したよ」
アレクシスは、リズが逃げ出そうとした日のことを言っているのだろう。彼はリズに信用してもらうために、わざわざ魔女の森まで来て、リズの母にも丁寧な説明をしてくれたのだ。
今思えば、失礼な態度で拒否しようとしたリズに対して、アレクシスはそれでも手を差し伸べてくれる優しい人だった。もっと早くに気がつくべきだったと、リズは今更ながら反省する。
「あの時は、ごめんなさい……」
「リズが謝る必要はないよ。これからはどんなことがあっても、一番に僕を頼ってくれるよね?」
「うん……。アレクシスに頼りすぎて、自分では何もできない子になりそうで、怖いくらいだよ」
それくらい今のリズは、アレクシスに頼りきりだ。そのせいか、数日の留守番ですら、少し不安に感じているほど。
そんなリズの発言は、アレクシスにとっては満足なものだったようだ。
「聞いたかい? ミミ。僕の妹は、僕無しでは生きて行けないみたいだよ」
「お兄ちゃんの愛が伝わったようで、良かったですね、公子様!」
どうやらリズがいない場面でも、アレクシスの妹愛は炸裂していたようだ。親友にまで知られていることに、リズはとてつもなく恥ずかしくなった。
ミミがこの店へ出入りしている理由は、アレクシスから直々に「店長になってほしい」と頼まれたからだそうだ。表向きリズは、一年後には王太子と婚約して国から出て行く予定なので、リズの親友であるミミにお店を任せることにしたようだ。
リズは好きな時にここへ来て、薬作りや他の魔女達との交流を楽しむだけで良いのだとか。公女としてリズに負担がかからないよう、アレクシスは最大限に配慮してくれたようだ。
夕方までじっくりとお店について話した後、アレクシスはミミも誘ってリズ達を食事へと連れて行った。
ミミにとっては、貴族が利用するレストランは初めてだったようで、大はしゃぎでレストランを堪能していた。
「リズちゃん、どうしよう! これ美味しすぎて、感動が止まらないよ!」
「ふふ。ミミってば、さっきからそればっかり」
ミミは、先ほどから新しい料理が運ばれてくるたびに、感動しているようだ。魔女にとっては、一生食べることが無かったであろう料理ばかり出てくるので、リズも気持ちはわからないでもない。
けれど、リズには前世の記憶があるので、貴族の食事は「久しぶりに美味しいものを食べられた」という意味の感動だった。ミミにとっては、それを遥かに超える感動なのだろう。
「いずれは、自分達でもここへ来られるくらいには、稼げるようにするから、期待していて」
「本当ですか! 私、公子様に一生ついていきます!」
アレクシスがそう言うのなら、魔女達はこれから先、貧困にあえぐ必要はなくなるのだろう。彼はリズだけではなく、魔女全体を救うつもりでいる。公子として国民に優しさを向ける彼の姿は、とても素敵だ。
そんな兄を見つめていたリズは、なぜか心臓が忙しなく動くと思いながら食事を終えた。
アレクシスが持たせたケーキの箱を大切そうに抱えたミミが、ほうきで帰っていくのを見送ったリズ達は、馬車で公宮への帰路についた。
「アレクシス、今日は本当にありがとう。アレクシスがいない間は、ミミと一緒にお店のことを考えていたら、あっという間に過ぎちゃいそう」
「それなら良かった。リズに泣いて引き止められてしまったら、僕はなす術がないから」
「ちょっ……。そんなことしないよ。子供じゃないんだから」
アレクシスにとってリズは、幼い子供として映っているのではないか。リズは時々、そんな疑問すら感じるほどアレクシスは過保護だ。
リズが頬を膨らませて抗議すると、向かい側でローラントが笑いをこらえるように微笑んでいる。
「それにしても、ミミさんは元気で明るいお方でしたね」
「そうでしょう。ミミと一緒にいると、暗い気持ちなんて吹き飛んじゃうんだよ」
「わかります。あのお方を見ていると、些細な悩みなど馬鹿らしく思えてしまいますね」
悩みが多そうなローラントにとっては、ミミのような子はそのように見えるようだ。
リズが「もしかして」と思っていると、アレクシスがニヤリと微笑む。
「ローラントは、ミミが気に入ったようだね。君もいい歳だし、そろそろ結婚でも考えてみたら?」
「お気遣い感謝いたします。ですが俺には、心に決めた女性がおりますので。殿下こそ、国を思うのでしたらそろそろ、政略結婚をお決めになる時期ではございませんか?」
「僕は結婚だけは、自分のためにしようと思っているんだ。愛するあの子以外には考えられないよ」
(わぁ……。二人とも、想い人がいたなんて……!)
小説ではヒロイン以外で、二人に想い人はいなかったはずだ。またも小説とは違う展開を見つけたリズは、嬉しくなって二人に問いかける。
「ねぇねぇ。二人の想い人ってどんな人? よければ、協力するよ!」
二人には日頃からお世話になっているので、今こそ恩返しするチャンス。リズはそう意気込みながら、二人を交互に見つめる。
しかしアレクシスとローラントは、同時に大きなため息をついた。
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