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07 幼馴染の関係

6 日程が決まりました

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 アレクシスの執務室へと入ったリズとローラントは、勧められるままにソファへと腰かけた。先ほどと同じく、リズとアレクシスが並んで座り、その向かいにローラントという配置。また叱られるのかと身構えたリズだが、どうやらそのような雰囲気ではない。
 アレクシスはお仕事モードな顔つきで、リズを見つめた。

「公王に、挨拶する日が決まったよ」

 公宮に住み始めて約一ヶ月半。ついにこの時が来たのかと思いながら、背筋を伸ばしてリズはうなずく。するとアレクシスは、少し顔を曇らせながら続けた。

「本来なら、謁見の間で正式に謁見して、養女となる承認を得るべきなんだけど……、公王は忙しいみたいなんだ。事務的な作業は事前に済ませ、リズのお披露目となる舞踏会の際に、公王と顔合わせするそうだ」

 つまり公王は、やっつけ仕事としてリズを迎え入れるつもりなのだ。

「それは……、あまりにもリズ様がお可哀そうです!」

 先に反応したのは、ローラントだった。彼は悔しさをにじませながら、訴えるようにアレクシスを見つめる。

「ローラント、心配してくれてありがとう。でも、庶民が公王の養女になること自体が、奇跡みたいなものだもん。私はどんな形式でも、気にしないよ」

 なだめるように、リズが気持ちを伝える。するとアレクシスが、リズの耳元に顔を寄せてきた。

「予定どおり?」
「うん」

 アレクシスは小説どおりの展開なのかを、聞いているのだろう。
 小説での公王は、ヒロインに興味がなかったので、ドルレーツ王国に失礼がない程度に最低限のことしかしてくれなかった。今回も、公王の心を掴むようなことをしていないので、小説どおりの展開となっているようだ。

 リズがうなずくと、アレクシスは心配させないためか、微笑みながらリズの頭をなでてから、ローラントに視線を向けた。

「僕はこの機会を、冷遇されたまま終わらせるつもりはない。必ずリズを、公王に認めさせるつもりだ」
「何か策が、おありなのですか?」
「すでに、準備は整えてある」

(魔女の万能薬を、人質にする作戦のことだよね……)

 その後、作戦がどう進んでいるのか、リズは知らない。何度かアレクシスに進捗状況を聞いたが「リズは、自分のことにだけ専念して」と教えてはくれなかった。

「アレクシス。魔女の万能薬は、あれからどうなったの?」
「どうなったかな。利用者に聞いてみようか。――ローラント、魔女の万能薬は騎士団で足りてる?」

 アレクシスに尋ねられて、ローラントは顔を曇らせる。

「今月の割り当ては、いつもの量から半減したそうです」
「僕の割り当ては一瓶だから変わらなかったけれど、騎士団には大きな痛手だろうね」

 アレクシスにそう返されて、ローラントは驚いたように目を見開いた。どうしたのだろうかとリズが思っていると、アレクシスも同じ疑問を抱いたようで、ローラントに「どうかした?」と尋ねる。

「いえ……。リズ様が万能薬をお作りになっていたと、お聞きいたしましたが。お一人で、作られていたのでしょうか?」
「母も作れるけれど、身体が弱いから……」
「そうでございますか……。リズ様を認めていただくために、その事実をお伝えするのですね」

 ローラントは作戦を理解したように、アレクシスへ視線を向ける。

「そのつもりだよ」
「俺にも何か、手伝えることはございますか?」
「なにもない。ローラントは護衛に専念して」
「はい……」

(二人のやり取りが、寒々しい……)

 先ほど、言い合ったばかりの二人なので、仕方ないのかもしれない。この空気に耐えられなくなったリズは、間を埋めるようにティーカップに手を伸ばす。

(私がもっとヒロインらしければ、こんな雰囲気も癒せたのかな)

 ヒロインらしく場を和ませるには、どうしたら良いのだろうか。すでに一度試みた結果、給仕を怖がらせてしまったリズには、方法がわからない。

 リズが真剣に考えていたところで、最初に沈黙を破ったのはアレクシスだった。

「それから、当日についてなんだけど。リズのパートナーは、第一公子に頼もうと思っているんだ」
「えっ……。アレクシスじゃ駄目なの?」

 これまで散々リズの世話を焼き、初めてのダンスは兄を選んでほしいと、約束までさせられている。そんな人が、パートナーを他人に譲るとはどういうことか。リズは信じられない気持ちで、アレクシスを見た。

「舞踏会では、誰と一緒に入場するかが、最も大切なんだ。リズが冷遇されていないと、皆に示さなければ」
「重要ってことは、バルリング伯爵夫人からも習ったけれど、同じ公子ならアレクシスでも良いじゃない」

 これまでリズの世話をしてきたのは、アレクシスだ。それなのに大切な場面で、突き放されたような気分になる。
 するとアレクシスは、リズから視線をそらしてうつむいた。

「僕がパートナーになると、リズの評判に傷がつくから……」

(あっ。まただ……)

「……アレクシスが言っていた『守る』って、こういうことだったの?」

 アレクシスはまた、リズとの間に一線を引こうとしている。アレクシスは自身の生まれのせいで、公子としての自信がないようだ。リズに迷惑をかけないよう、陰に徹するつもりなのだろう。

「それが、リズのためだから……」
「なにそれ……。私に、距離を作らないでほしいって言っておきながら、距離を作っているのはアレクシスのほうじゃない」
「違う……。僕はリズを一番に考えて……」
「違わないよ! 私は、アレクシスが貴族にどう思われても関係ない。これまで私のために、一生懸命になってくれたアレクシスの隣が、一番安心できるの。私のためを思うなら、私の隣で堂々とお兄ちゃんをやってよ!」

 つい熱くなったリズは、アレクシスの腕に掴みかかりながらそう訴える。
 アレクシスは困ったように沈黙してしまったが、少しの間の後、小さく笑みをこぼした。

「聞いたかい、ローラント。リズは僕と、ひと時も離れたくないみたいだよ。兄離れしない妹って、最高だね」
「はい。羨ましい限りです」
「へ……。なんでそうなるの?」

 リズとしては、アレクシスに自信を持ってほしかっただけだ。

「リズは、僕の隣が一番安心できるんでしょう? そうとも知らず、寂しい思いをさせてしまったね。これからはもっと、一緒にいる時間を作るから」

 リズは熱くなりすぎて、余計なことまで言ってしまったらしい。しかしアレクシスの嬉しそうな顔を見たら、とてもじゃないが「結構です」とは言い出せなかった。
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