16 / 116
03 公子様は当て馬
1 気を遣ってくれる公子様
しおりを挟む「公子様、どちらへ行かれるんですか?」
「宝物庫だよ。リズのドレスを探そうと思って」
馬車に乗せられたリズは、アレクシスと二人で公宮の敷地内を移動している。ちなみにメルヒオールは、掃除がしたいようなのでお留守番。宮殿内は広くて掃除のし甲斐がありそうなので、メルヒオールにとっては宝の山のように見えるようだ。
「ありがとうございます。できれば露出度が少なくて、動きやすいドレスだと嬉しいです」
「僕が、リズにぴったりの可愛いドレスを選んであげるね」
アレクシスの話によると、普段使わない衣装や家具、美術品やら宝石に至るまで、公家の所持品をなんでもかんでも保管してある場所らしい。
リズが着ているドレスも、侍女がそこから探してきたようだ。
「一階は家具類、二階は衣類や小物類、地下は宝石や希少価値があるものが保管されているんだ。一階と二階のものは、自由に使って良いから」
「助かります」
宝物庫へ入ったアレクシスは、説明をしながら二階へとリズを案内する。ドレス室と書かれた部屋に入ると、大きな室内にずらりとドレスが並んでいた。
「わぁ……。たくさんありますね」
リズは歓喜ではなく、疑問を感じながら声をあげた。この国の成り立ちを考えると、ドレスの数が多すぎるのだ。
その様子に気がついたアレクシスは、「建国して十年の国にしては、多すぎると思った?」と尋ねる。
「あっ……、はい」
「この宝物庫にあるものの大半は、ドルレーツ王国からの寄贈品なんだ」
ここベルーリルム公国は、十年前にドルレーツ王国から統治権を与えられた属国だ。公王は国王の弟で、この小説のヒーローとアレクシスは、従兄弟同士に当たる。
「国王陛下はよほど、公王陛下を大切になさっているようですね」
「国まで与えてしまう、困った伯父だよ。まぁ……そのおかげで、僕は公子なんだけどね」
困ったように、アレクシスは微笑んだ。アレクシスについての事情は、この国の者なら誰でも知っている。
アレクシスの父はかつて、男爵家の娘と恋に落ちた。男爵令嬢はアレクシスを身籠ったが、身分差の問題で結婚は許されず。アレクシスの父は泣く泣く、公爵令嬢と政略結婚した。
しかし、男爵令嬢を忘れられなかったアレクシスの父は、側室として男爵令嬢を迎え入れたいと思うようになるが、ドルレーツ王国では側室を認めていない。
次第に塞ぎ込むようになった弟を見ていられなかったドルレーツ王が、『ならば自分の国を作って、側室を認めれば良い』と提案した。
弟を溺愛するあまり、国中から非難されかねない安易な提案をしたドルレーツ王だが、国民はそれを手放しで喜んだ。
なぜなら、アレクシスの父が所有していた領地には、『魔女の森』があったから。
国にとって目の上のたんこぶのような存在だった魔女が、国から消える。国土が減ることよりも、国民は魔女がいなくなるほうを選んだのだ。
そんな経緯でアレクシスは、十歳の時に母とともに公家の一員となり、第二公子の地位を与えられた。
公王と正妻の間に生まれた公子は、アレクシスよりも二歳下だが、アレクシスが第一公子の地位を与えられなかったのは、側室の子だからだと言われている。
「公子様が公子になってくれたおかげで、私は助けてもらえたんですね」
「リズは優しいね」
アレクシスが公子の権限を行使しなければ、昨夜のリズは本当に危険だった。リズは素直に感謝の気持ちを口にしてみたが、アレクシスはそれを慰めと受け取ったようだ。ありがとうと言いたげに、リズの頭をなでた。
(きっと、小説では語られなかった苦労が、アレクシスにはあるのね)
侍女達も、アレクシスの事情について気を遣っている様子だったし、副団長に至っては『下賤の分際』などと、あからさまに蔑むような態度を取っていた。
貴族の間でも、アレクシス親子については意見が割れていることが伺える。
(それにしても、『下賤』はひどすぎるよね)
下位貴族の男爵家といえども、貴族は貴族だ。副団長のほうが爵位が上だからといって、今現在は公子であるアレクシスを侮って良いはずがない。
今になって怒りがこみ上げてきたリズは、ぶすっと頬を膨らませた。
「どうしたの? リズ」
「あっ……、いえ。昨夜のことを思い出したらつい」
リズが慌てて笑顔で取り繕った直後、ドレス室の入口から「殿下。昨夜の魔女様護衛についての、報告書が到着いたしました」と声が聞こえてきた。
10
お気に入りに追加
483
あなたにおすすめの小説
助けた騎士団になつかれました。
藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。
しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。
一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。
☆本編完結しました。ありがとうございました!☆
番外編①~2020.03.11 終了
【完結】悪役令嬢のトゥルーロマンスは断罪から☆
白雨 音
恋愛
『生まれ変る順番を待つか、断罪直前の悪役令嬢の人生を代わって生きるか』
女神に選択を迫られた時、迷わずに悪役令嬢の人生を選んだ。
それは、その世界が、前世のお気に入り乙女ゲームの世界観にあり、
愛すべき推し…ヒロインの義兄、イレールが居たからだ!
彼に会いたい一心で、途中転生させて貰った人生、あなたへの愛に生きます!
異世界に途中転生した悪役令嬢ヴィオレットがハッピーエンドを目指します☆
《完結しました》
【完結】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?
廻り
恋愛
魔法学園に通う伯爵令嬢のミシェル·ブラント17歳はある日、前世の記憶を思い出し自分が美少女ゲームのSSRキャラだと知る。
主人公の攻略対象である彼女は、彼には関わらないでおこうと決意するがその直後、主人公である第二王子のルシアン17歳に助けられてしまう。
どうにか彼を回避したいのに、彼のペースに飲まれて接点は増えるばかり。
けれど彼には助けられることが多く、すぐに優しくて素敵な男性だと気がついてしまう。
そして、なんだか思っていたのと違う展開に……。これではまるで乙女ゲームでは?
悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。
白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。
筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。
ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。
王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる