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02 第二公子宮殿での暮らし

6 受け入れてくれて感謝

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「そうですか……」

 リズの説明を聞いた侍従は、残念そうな顔を滲ませる。

「命を吹き込みたい物でも、あったんですか?」
「いえ……、妹がぬいぐるみ好きなもので……」

 侍従は照れたように、そう呟く。どうやら妹のために、ぬいぐるみを動かしたかったようだ。

「皆さんも子供の頃に、大切にしているお人形やおもちゃが、人間と同じように動いたらいいなって思ったことはありませんか? 魔女はそんな願いを、叶えた種族なんです。そういうふうに思えば、少しは恐怖も和らぎませんか?」

 侍女達は、リズに視線を向けながらも、物思いにふけっている様子。幼い日の自分を思い出しているようだ。

「メルヒオール、僕のところにも来ておくれ」

 間を埋めるようにアレクシスが声をかけると、メルヒオールはさながら犬のように、穂先をフリフリさせながらアレクシスの元へ向かう。すっかりアレクシスが気に入ったらしい。

「やっぱりメルヒオールは可愛いね」

 リズの話を、おとぎ話のように聞いていた侍女達だったが、ほうきと戯れるアレクシスを目の当たりにして、やっと自分達の行動が過剰であったことに気がついた。
 慌てて立ち上がった三人は、リズに向けて頭を下げる。

「申し訳ございませんでした、魔女様!」
「噂に惑わされ、無礼を働いたこと、どうかお許しくださいませ!」
「第二公子殿下の宮殿に仕える私達は、偏見を持ってはいけなかったのに……。罰はきっちりと受けさせていただきます!」

(どうしてアレクシスの使用人だと、偏見を持っちゃいけないんだろう?)

 リズは最後の言葉が気になって、アレクシスにちらりと視線を向けてみた。
 けれど、アレクシスはその視線を、リズの説明が終了したと受け取ったようだ。「それじゃ、幽閉塔へ行こうか」と、まるでピクニックでも誘うかのように、侍女達へにこやかに微笑む。
 そして侍女達も、あれほど嫌がっていた幽閉塔行きを、愛の告白でも受けたかのように頬を染めながらうなずいた。

(さすがアレクシス……。笑顔一つで、問題を解決できちゃうのね)

 小説のファンを、王太子派と二分するほどアレクシスの人気も高かったので、当然のことかもしれない。
 いかにも小説のような光景が繰り広げられたので、気を取られたリズだが、メルヒオールについて丁寧に説明した意味を、ハッと思い出した。

「待ってください、公子様! 皆さんの誤解も解けたようですし、幽閉塔に十日は長すぎると思います。一日に減らしてください」

 リズの気持ちとしては謝罪だけで十分だが、アレクシスが言ったように宮殿内の秩序を保つことも必要だろう。無礼に対する罰が幽閉塔と決まっているなら、リズの感情だけでそれを捻じ曲げるのも良くない。

「リズの気持ちはわかるけれど、一日は短いと思うな」
「実は罰の代わりに、私から皆さんにお願いがあるんです」
「お願い?」
「はい。ご説明したとおり、メルヒオールは元々ただのほうきだったので、本能としてお掃除が大好きなんです。ですから、皆さんのお仕事を少し取ってしまうかもしれませんが、メルヒオールにお掃除をさせてください」

 リズが頭を下げてお願いすると、メルヒオールも一緒になってお辞儀するように柄を傾ける。
 すると、アレクシスは思い出したようにクスリと笑い出した。

「掃除は望んでしていたことだったんだね。僕はてっきり、無理やりやらされていたのかと思っていたよ。侍女達には、あらぬ疑いをかけてしまったね」
「とんでもございません! 私達が掃除をしていなかったのは事実ですので……」

 侍女達は再び頭を下げるも、アレクシスが穏やかな雰囲気を作ったせいか、侍女達も少し落ち着いた様子だ。

(アレクシスって、周りを和ませる力があるんだ……)

 食堂でもそうだったが、アレクシスが微笑めば和やかな雰囲気が辺りに漂う。
 小説の中の彼は、ヒロインとのことで悔んだり焦る描写が多かったが、今のほうがアレクシスには似合うとリズは思った。


 結局、メルヒオールを受け入れるなら、幽閉塔は一日にするとアレクシスが提案したことで、メルヒオールはすんなりと侍女達に受け入れられた。

「リズは、慈悲深くて良い子だね」とアレクシスには頭をなでまわされたが、侍女達の考えを変えさせたのはアレクシスのおかげでもある。

「昨日から公子様には、助けられてばかりです。本当にありがとうございます!」

 にこりとリズが微笑むとアレクシスは照れたのか、なでていた手を引っ込めた。
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