上 下
46 / 54

46 聖竜城へ3

しおりを挟む

 なぜかクローディアは、歓迎されているようだ。それに貴族令嬢として扱われるのは本当に久しぶり。もう聖女ではないからなのだろうが、これから罰を受ける身のクローディアとしては変な気分だ。

「出迎えご苦労さまです」

 騎士達を労ってからオリヴァーは、クローディアの手を取り騎士達の間を歩き出した。

「ディア、お疲れでしょう。部屋へ案内します」
「私よりもオリヴァー様のほうがお疲れでしょう? 私は騎士様にでも案内していただきますので、どうかお休みくださいませ」

 黒竜のふかふかな毛に包まれて寝ていたので、クローディアはむしろ疲れは取れている。何時間も飛行していたオリヴァーのほうが、よほど疲れているはずだ。

「ディアには、俺の部屋で過ごしてもらいます。卵を一緒に温めなければなりませんし」
「そうでしたわね……」

 てっきり別々の部屋を想定していたが、クローディアは自分の立場を今一度思い知らされる。
 罰を受けることになるクローディアが逃げ出さぬように、監視が必要だ。
 監視役であるイアンはまだ到着していないので、卵の相手であるオリヴァーが監視するのが一番合理的。町で監視されていたことの延長だ。

「ディアは苦痛かもしれませんが、孵化までの辛抱です」
「嫌ではっ――」

 目的がなんであろうと、オリヴァーと一緒にいられるのは嬉しいこと。
 それを伝えようとしたが、二人の前に突然誰かが現れた。

「おお! 二人ともやっと帰ってきたな」

(えっ……。国王陛下!)

 国王は寝間着にガウンを羽織った姿で、中庭の出入り口まで出てきた。このような夜更けに、わざわざどうしたのだろうか。

「ディアを連れて帰還しました。父上」
「よくやってくれた。それにしても、お前も気が利かない奴だな。昼間なら、楽団を用意したものを」

(楽団……? 騎士様のお出迎えに加えて、楽団も?)

 この状況だけでもよくわからないのに、クローディアの頭の中は疑問でいっぱいになる。

「すみませんディア。俺の準備不足でした……」

 オリヴァーは肩を落としている様子。
 彼の表情を読み取ることはもうできない。けれど町にいた頃の彼は、このような時はだいたい捨てられた子犬のような顔をしていた。
 
「とんでもないことですわ!」

 罰を受ける者を、そのように歓迎する国がどこにある。
 焦ったクローディアは、国王に向けて卵を抱えながら頭を下げた。

「国王陛下に拝謁いたします! この度は私の不始末で、国に多大なご迷惑を――」
「クローディア嬢、謝らんでくれ。そなたに、否はない」
「ですが……」
「本当はもっと、慎重に調査すべきだった。我々は常識に囚われてしまい、卵の親がそなたであると気がつくまでに時間がかかってしまった」
「それは、私も同じですわ……」

 クローディア自身も、実際に卵の色が変化するまでは自分が親だとは気づけなかった。
 卵を求めてしまう感情は付きまとっていたが、その感情が間違っているのだと思い込んでいた。
 筆頭聖女である彼女がそうだったのだから、他の者が気づくのに遅れるのも無理はない。

「クローディア嬢には辛い思いをさせてしまった。どうか許してほしい」

 国王は、心から悔いているような態度で、クローディアに頭を下げる。絶対的な強者である黒竜の子孫とされる王族が、このように頭を下げるのは異例中の異例だ。

 その姿を見せられてクローディアはやっと、罰を受けるために連れて来られたのではないと気が付いた。

「……聖女のお役目に悔いは無いといえば、嘘になります。けれど、庶民の生活も体験できましたし、オリヴァー様と貴重な交流もさせていただきましたわ。引退には少し早すぎましたが、私は今の生活に満足しております」

 もしクローディアが追放されなければ、オリヴァーと町で出会い、身分に関係なく交流を深めることなどできなかった。
 街角で挨拶を交わして、市場で一緒に買い物をしたり、家まで歩いて送り迎えしてもらったり。王族の彼とでは決して体験することのなかった、貴重な思い出だ。

「クローディア嬢は昔と変わらず、優しい娘だ。そなたが息子の伴侶となってくれたら、この国も安泰だ」

(えっ……?)

 伴侶とはどういうことか。クローディアがここまで連れてこられるまでに、一度もそのような話は出ていない。
 国王は何か、勘違いをしているのではないだろうか。

「ディアを休ませたいので、話の続きは明日にしてください。父上」
「そうだったな。二人とも今日はゆっくりと休んでくれ」

 国王の見送りもそこそこに、オリヴァーはクローディアの手を引きながら自らの部屋へと向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された真の聖女は隠しキャラのオッドアイ竜大王の運命の番でした!~ヒロイン様、あなたは王子様とお幸せに!~

白樫アオニ(卯月ミント)
恋愛
「私、竜の運命の番だったみたいなのでこのまま去ります! あなたは私に構わず聖女の物語を始めてください!」 ……聖女候補として長年修行してきたティターニアは王子に婚約破棄された。 しかしティターニアにとっては願ったり叶ったり。 何故なら王子が新しく婚約したのは、『乙女ゲームの世界に異世界転移したヒロインの私』を自称する異世界から来た少女ユリカだったから……。 少女ユリカが語るキラキラした物語――異世界から来た少女が聖女に選ばれてイケメン貴公子たちと絆を育みつつ魔王を倒す――(乙女ゲーム)そんな物語のファンになっていたティターニア。 つまりは異世界から来たユリカが聖女になることこそ至高! そのためには喜んで婚約破棄されるし追放もされます! わーい!! しかし選定の儀式で選ばれたのはユリカではなくティターニアだった。 これじゃあ素敵な物語が始まらない! 焦る彼女の前に、青赤瞳のオッドアイ白竜が現れる。 運命の番としてティターニアを迎えに来たという竜。 これは……使える! だが実はこの竜、ユリカが真に狙っていた隠しキャラの竜大王で…… ・完結しました。これから先は、エピソードを足したり、続きのエピソードをいくつか更新していこうと思っています。 ・お気に入り登録、ありがとうございます! ・もし面白いと思っていただけましたら、やる気が超絶跳ね上がりますので、是非お気に入り登録お願いします! ・hotランキング10位!!!本当にありがとうございます!!! ・hotランキング、2位!?!?!?これは…とんでもないことです、ありがとうございます!!! ・お気に入り数が1700超え!物凄いことが起こってます。読者様のおかげです。ありがとうございます! ・お気に入り数が3000超えました!凄いとしかいえない。ほんとに、読者様のおかげです。ありがとうございます!!! ・感想も何かございましたらお気軽にどうぞ。感想いただけますと、やる気が宇宙クラスになります。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

『番』という存在

恋愛
義母とその娘に虐げられているリアリーと狼獣人のカインが番として結ばれる物語。 *基本的に1日1話ずつの投稿です。  (カイン視点だけ2話投稿となります。)  書き終えているお話なのでブクマやしおりなどつけていただければ幸いです。 ***2022.7.9 HOTランキング11位!!はじめての投稿でこんなにたくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです!ありがとうございます!

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

処理中です...