導かれるモノ導く者

van

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佳文は、駅に向かって歩いていた。
高校生の頃は、学校に通うので、毎日利用していた。
地元を通る、私鉄の単線路線である。
1時間に往復8本の路線で、地方の小さな市が終点の私鉄路線だから、
こんなもんだろう、な感じの本数の電車が走る、
佳文は、ギリギリの時間に家から出た。
電車の出発時間には、間に合うだろうが、
乗り遅れれば、15分程時間を棒に振る路線なので、少し早歩きだった。
大学生時代を東京で過ごした。佳文の早歩きは、傍から見れば異様な速さだろう、
電車が駅に着く2分前には、最寄りの駅に到着した。
移動手段には、いつも車を使う佳文は、券売機で切符を購入した。
券売機から出て来た切符を取り、改札を抜けホームに立った。
ホームから駅前を、眺め見た風景は、閑散としていた。
「なんもないんだな…」そう呟くと、駅のアナウンスが流れ
ホームに、「キキィーッ」とブレーキ音が鳴り電車がホームに到着し
ドアが開き、車掌のアナウンスが電車のスピーカーから流れた。
佳文は、電車に乗り込み対面式の座席の空いてる場所へ向かい座った。
休日の昼近くの時間は、乗客も少なく
佳文を含め一車両に5人の乗客が乗っていた。
「空き空きだな…」呟き思い出した。
「そう言えば、廃線対象の路線だっけ…」
少子化と車通勤が多い、この地方路線は、廃線対象になってると
何かに書いてあった。
「俺が高校性の頃は、休日の昼間でも乗客が、多かったもんなぁ~」。
車窓から流れる風景を見ながら、懐かしんだ。
「あぁ…新しい家は、建ってるけど…殆ど変わってないんだな」
そんな事を思っていると、乗り換えの駅に、電車は到着し
佳文は、電車から降り、乗り換えのホームへ向かった。
ホームに着くと、直ぐに駅のアナウンスが流れ
乗り換えの電車が、ホームに到着した。
電車のドアが開き、佳文は、電車に乗り、空いてる座席に座った。
「本線の電車もガラガラだな…」
そんな事を思ってると、少し眠気を覚え目を閉じた。
数分間、目を閉じると目的の駅に近づき
車掌のアナウンスが、スピーカーから流れて来た。
電車は駅に停車しドアが開き、佳文は、電車から駅に降りた。
改札口へ向かいホームを歩いていると、
ホームに設置されたベンチに、座る女性が目に留まった。
その女性は、うな垂れベンチに座り、動かなかった。
女性が座るベンチに、ヘッドホンを付けた男性が座った。
女性と男性が交錯し、男性が音楽に合わせて動く毎に、
女性の姿が見え隠れしていた。
ヘッドホンを付けた男性が、「ふっ」と自分が座るベンチを見てから
立ち上がり、もう一度座ったベンチを見た。
不思議そうに、首を傾げ別のベンチへ移動して座った。
ベンチに座っていた。女性も、スクっと立ち上がり
ホームを線路の方へ歩き、通過する電車に向かって倒れた。
電車が通過したホームには、ベンチに座っていた女性が倒れていた。
通過する電車に倒れた女性に、誰も気が付かず
ホームに倒れた女性にも、誰も見向きしなかった。
ホームに倒れた女性は、「すぅ~」と立ち上がり
座っていたベンチに戻り、また座った。

「ここで、飛び込んだ女性か…」女性の様子を見ていた佳文は、呟いた。
「今は、無理だけど用事を済ませた後、そこに居たら、導くよ」
佳文は、そう言い残し出札口に向かい、駅を後にした。


駅前の横断歩道を渡り、そのまま道なりに進みロータリを過ぎ
今では、シャッター商店街化した通りを渡り
小さな十字路まで、やってきた佳文は、辺りを見回し何かを探していた。
「あれ?…1ヶ月前に、この十字路を通った時には、見えたんだけどな…」
ちょうど1ヶ月前、以前来た事のある店を探して、この十字路を車で通りかかったのだった。
記憶も、そこそこで探した店は、とうとう見つからなかった。
その時、十字路の隅に、肩から上だけが道路から出た、男を見たのだった。
「確か…この辺りだったんだよな…」
キョロキョロと、挙動不審な動きをする男が居るのを、
十字路近くに住む人が、不審人物だ!! そんな顔で見ていた。


「すいません…昨日の夜中、この辺りで、落とし物をしまして…」
佳文は、適当なセリフで、その男性に声をかけた。


「あぁ…夜中に騒いでた酔っ払いの一人か…」
昨日の夜中は、うるさくて迷惑したんだぞ!!な顔で、佳文の顔を見た。


「うるさくしちゃってましたか…迷惑をかけ申し訳ありません」
平謝りの佳文に、男性は、


「この辺りは、飲み屋街だから仕方がないけど…探し物見つかるといいな」
そう言い残し、家の中に入っていった。


佳文は、これで不審者が居ると、110番通報されなくて済んだと安堵した。
「ん~見当たらないな…」
「それとも、俺は、そう言ったモノを、突然見れなくなったのか?」
そんな事を、思いながら来た道を歩いて、駅へ戻った。
駅に着き、券売機で切符を購入し、改札口を通りホームへ向かった。
階段を下りて、ホームを歩き、あのベンチを見ると


「あぁ…やっぱり見えるじゃん…」
「それなら、十字路で見た肩から上だけが出ていた。あの導かれるモノは…どこへ行ったんだ…」
不思議に思ったが、目の前の導かれるモノを、なんとかしようと思った。


「人の行き来が多いホームだし…どう導くか…だな」
夕方前の午後の駅のホームは、少なからず人の往来があった。


「ベンチに近づくにも、誰かがベンチに座っていれば…俺…完全に不審者だよな」
佳文は、ベンチに座り、ホームに向かい、通過する電車に倒れ込むを繰り返す
女性の動きと、通過する電車の時間とベンチに座る、駅の利用者の動きを観察していた。


「まず、あのベンチに荷物を置けば、ベンチの問題は解決だな」
そう考え、電車の到着時間前にベンチの近くに立った。
電車を待つ乗客の女性が、タイミング良く立ち上がり
ベンチに座り、ホームに向かい、通過する電車に倒れ込むを繰り返す
女性が座るベンチが空いた。
佳文は、自分が持つカバンを、空いたベンチに置き、ベンチのとなりに立った。
ベンチに座る女性は、一瞬「ピクッ」としたが、そのままベンチに座ったまま動かなかった。
ホームに来てから数十分が過ぎ、徐々にホームは、混雑する時間帯になっていた。
佳文は、スマホを開き画面を操作するフリをして、電車が到着し乗客が乗り降りし
短時間ホームを往来する人が少なくなる時を待った。
ホームで電車を待つ乗客か、乗降口に並び始め電車がホームに止まった。
電車の乗客は、ホームに降り、足早に出札口へ歩く、
乗降口に並んだ乗客は、電車に乗りドアが閉まり、電車は、ホームから発車した。
ほんの少しだけ、駅のホームから、人の姿が減る、
この時を待っていた佳文は、自分の髪の毛を1本抜き、ベンチに座る女性の髪に付けた。
女性の手に触れ、佳文は高く手を上げた。
女性は、「ふわっ」と浮き上がり、駅のホームから消えていった。


「ふぅ…」大きく息を吐き、ベンチに置いたカバンを取り
ホームに入って来た電車に乗り、佳文は帰路に就いた。



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