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ちゃんといっしょになりましょう

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「抱かれたいと思っていたか、違うだろ」
「それは……」
返事ができない。自分が抱かれるなんて考えたことがなかった。
男同士で付き合っているのだから、どちらも相手を抱くことができる。そのことを忘れ、私は加賀谷さんを抱くことばかり考えていた。
答えないでいると、加賀谷さんは立ち上がった。
「べたべたして気持ち悪いだろ。タオル取ってくるよ」
「自分で取りに行きます」
「まだ寝ていろ。顔色悪いぞ」
加賀谷さんが寝室を出ていったあと、ベッドに横になった。寒気を感じたので、毛布を肩までかけた。
そのとき、床に散らばっている加賀谷さんの衣服が目に入った。見ただけで鼓動が早くなった。
どうしてだろう。躯の震えが止まらない。
深い呼吸をしても震えは収まらない。私は唇を噛みしめた。
泣くな。よけいつらくなるだろ。
言い聞かせているうちに息が乱れてきた。数回息を吐いたら落ち着いてきた。
男なのだから男らしく、彼を受け入れたかった。
どんなことをされても泣かずにいられる、強い恋人になりたかった。
私の男としてのプライドが男を受け入れることを許さなかったのだ。だから、できなかった。加賀谷さんが好きなのに受け入れられなかった。しかも気絶してしまった。加賀谷さんは呆れていただろう。
寝室のドアが開いて、加賀谷さんが入ってきた。
「拭くから足を開いて」
「自分でできます」
「俺がやる」
お礼を言う前に毛布をめくって、タオルで拭ってくれた。タオルはちょうどいい温かさだった。
私の下半身を見つめる加賀谷さんの目は全く笑っていない。声をかけられなかった。
「ん、ん……」
敏感なところも丁寧に拭かれて感じてしまう。
私の性器が少し反応した。
加賀谷さんは無視して私の下腹部を拭っていた。中心は徐々に硬くなっていく。
「ごめんなさい」
「謝らなくていい。俺がこんな躯にしてしまったんだ。いろいろ触ったから……」
加賀谷さんは中心を避けるように、私の下半身を拭いた。内腿を拭いてもらっているうちに、欲望は収まってきた。
精液を拭き終わっても、加賀谷さんはタオルを動かした。
「もういいです。加賀谷さん」
腰を動かそうとしたら、腿を掴まれた。強い力だった。
「まだだ。ちゃんと拭かなくちゃ」
何度も擦るので皮膚が赤くなっていく。
「痛い、痛いですから、やめてください」
過敏になった皮膚にタオルの熱が染みる。ひりひりとした痺れが起こった。
加賀谷さんは息を吐くと、タオルをベッドサイドに置いた。
頬にキスをされた。音を立てて繰り返される。
甘くて、少し恥ずかしい気持ちになった。今までにない感情だった。
いつもは、頬にキスなんて物足りない、唇でなければいやと思っていた。
今は、肌が触れ合うだけで心の奥が温かくなる。目を閉じて、このまま眠ってしまいたい。
自分からもキスをした。
彼は怒っていないのだろうか。窺うようにゆっくりと唇を重ね、すぐに離した。
目が合うと、加賀谷さんは一瞬微笑んだ。
きつく抱きしめられた。お礼を言うと、加賀谷さんは首を振った。

ふたりで眠るとき、どちらが相手を腕枕するかで揉めた。
「私がします」
「だめ。晴之は疲れてるだろ。俺が寝かせてやるんだ」
「うわ」
ベッドに押し倒された。笑い声が聞こえる。吐息が肌にかかってくすぐったい。
「晴之。もっと俺に甘えろよ」
「いやです。加賀谷さんこそ、おとなしくしてください」
腕を掴まれたり、胸を押し返したりした。じゃれあうようにベッドの上で何度もふたりでひっくり返った。
素肌がシーツに擦れて気持ちよかった。
互いに息を吐いて、躯を寄せ合った。
加賀谷さんはさりげなく、私の胸の突起を弄ろうとする。いやだ、と言って頬をつねってやった。
加賀谷さんは私の指を銜えた。
「そんなところ、口に入れて楽しいんですか」
「うん、おまえのだからおいしいんだ。もっと食べたい」
変態、と言って、加賀谷さんの肩を押した。加賀谷さんは離さない。わざとらしく、舌を使って刺激してくる。
舌は熱くて湿っていた。
舐められているうちに、加賀谷さんの硬い欲望を思い出した。
ただ触れただけなのに、生身の男はどういうものがわかった気がする。
猛々しくて、力強い生の源流だった。形や色が少し違うだけなのに、自分のよりも男らしいと思った。
見つめていると、唇は手首へと降りていった。内側の辺りをキスされた。
「ちゃんと脈打っているな。さっきは本当に怖かったよ。俺、泣きそうになった」
「ごめんなさい」
「謝るなよ。俺が激しいことしたからびっくりしたんだろ」
頷いたけれど、加賀谷さんには悪いことをしたと思った。私が気を失っている間、きっと加賀谷さんは自分を責めただろう。
互いに指を絡ませ見つめ合った。さっきまであった雄雄しさは彼にはない。
「晴之、寝られそうか」
「はい。今は怖くないから」
加賀谷さんは笑った。
どこか吹っ切れたような笑みだった。
「そっか。……さっきは怖かったのか」
さみしげな声だった。すぐ傍に私がいるのに、ひとり取り残されているような言い方だった。
「あの、加賀谷さんが怖かったんじゃないです。これからすることがわからなくて怖かったんです」
「うん。ありがとう。晴之はやさしいな」
抱きしめられていると温かくて眠ってしまいそうになる。目を閉じてしまいそうになるのを私は堪えた。
眠る前に言わなくてはならない。
「次はがんばるから、ちゃんといっしょになりましょう」
「がんばるって……晴之は抱かれてもいいのか」
しばし黙ったあと、私は頷いた。
「加賀谷さんがしたらうまくいくと思うから」
抱き合うなんて、その場の雰囲気になれば自然に終えられると思っていた。実際は、受け身になっていただけだった。
きっと、私が抱かれればいいんだ。
「晴之は、うまい方が抱いていいと思っているのか。そんなこと言うなら俺は遠慮しないよ」
先ほどの加賀谷さんの振る舞いを思い出した。
「遠慮しないって、さっきよりも激しくなるんですか」
私の声は震えていた。加賀谷さんは私の背を軽く叩いた。
「……うん。ちょっと晴之はつらいだろうな」
加賀谷さんは手を伸ばすと、私の下腹部を撫でた。
「ここに俺のが入って、何度も晴之の内側を擦るんだ。たくさん動いたあと、俺がいっぱい精液を出して晴之の中が汚れるんだよ。きっと、晴之には俺よりも負担がかかる」
言われただけなのに、さっき指を挿れられたところよりも深い奥が疼いた。
未知の官能への好奇心からか恐怖からなのか、わからない。
「どうしよう、また失敗したら。今度はちゃんとできるかな」
「怖いくらいなら大人にならなくてもいいんだよ、晴之」
宥めるようなキスが降ってきた。
「こうやって、抱っこしてもらうのも悪くないだろ」
静かな加賀谷さんの言葉が、部屋に響いた。
彼の言う通りだ。
五日前から、私の部屋でいっしょに眠るようになった。眠る前にキスを交わす。朝はしばらく互いに指を絡ませて見つめ合う。
誰とも付き合ったことのない私にとっては新鮮な体験だった。寝るときも目覚めるときも満ち足りた気分になった。
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