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こんなに乱れるなんて

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「悦びに震える顔を見せてください」
キスひとつで促された。
逢坂は手を伸ばし、自分自身を擦った。梶が見下ろしている。互いの息がかかるくらいの距離だった。あやすように梶が逢坂の髪を梳いた。逢坂の欲望が次第に張り詰めていく。
視線を合わせたくないから、横を向いた。電話、ペン立て、メモ帳と、デスクに置いていた様々なものが視界に入る。
どこにいるのかを意識してしまう。今も皆がそれぞれの机に向っていて、自分を見ているのではないのか。逢坂は、部下たちのまなざしを思い出した。
煙草の空き箱が目に入った。
中島の笑顔が浮かんできた。
抱かれた夜、手を繋いだ朝、最後に抱き締めてくれた昼の顔がよぎった。今朝見せてくれた、気づかう瞳が忘れられない。
自分が縋りついていたら、中島は受け止めてくれただろう。わかっていても、逢坂は自らの意思で中島を拒んだ。
「手がおろそかになっていますよ」
逢坂は早く終わらせたくて、強く動かした。屹立は硬度を増していく。
「ん、くっ――ああ!」
白い液体が溢れる。デスクが揺れた。
「続けて」
梶に従い、逢坂は手を止めなかった。
声を殺したが熱を抑えきれず、身を捩った。悦楽の余波は治まらなかった。
唾を飲み込む音が聞こえた。梶が、逢坂の欲望に触れた。零れる滴りを指に絡めた。
「うっ、ん」
逢坂の後孔に梶の指が埋まる。長い指はすぐに増えて、中で蠢いた。
放出に溶けた躯は異物を容易く呑み込んだ。逢坂は梶の肩を押した。
「か、梶……待って、くれ」
名前を読んでも、腰を捻っても、攻め立てられる。
「あ、ん、あ……あ」
解され、敏感な箇所を暴かれた。声を上げ、指を締め付けてしまう。
深いところが刺激を欲していた。
舌打ちした梶が指を抜いた。ファスナーを下ろして、昂る自らの刀身を取り出した。
逢坂の両足を抱え、梶は自分の肩に乗せた。
熱い塊が逢坂の奥に押しつけられる。
「待て、ん……ん!」
手で口を塞がれ、一気に貫かれた。足を高く上げた体勢では、抵抗できなかった。
自分の口を押さえる梶の手を取った。
「抜いて――頼むから」
声を出せば、埋め込まれた梶自身を感じた。
脈打ち、中から逢坂を食らおうとする。逢坂は梶の手を両手で擦った。
昔のように自分が抗えば、止めてくれると思った。
「この怯えた顔が、ずっと見たかった」
梶は笑った。逢坂の手から力が抜けて、机の上に落ちた。繰り返し頬を撫でられた。
「泣いても無意味だと教えてあげます」
梶の唇が、逢坂の溢れる涙を吸った。
両腿を掴まれ、左右に広げられた。逢坂の両膝が梶の肩から落ちる。足が開いてしまう。
繋がったところを梶の眼前に晒した。
結合部に梶が指を滑らせた。
「う、ん――」
円を描くようになぞられ、逢坂の躯ははっきりと反応した。
梶の欲望を銜え込んだ箇所を震わせてしまう。新たな熱が湧き上がる。
「もっと、楽しんで」
大きく深く、梶が体重をかけて侵入してくる。眉を寄せて逢坂は耐えた。
「ん、ああ、あ」
「くっ……すごいな、呑み込んだまま離さない。こんなに乱れるなんて、知らなかった」
感じやすいところを何度も突かれ、疼きも痺れも、甘い痛みになった。乱暴な抽送に躯が馴染んでいく。
薄暗い室内に息遣いと水音が響いた。
汗ばんだ逢坂の腿が、明かりに照らされ白く光った。デスクの上のペン立てが倒れた。転がった万年筆が逢坂の頬に当たった。
梶が引き抜くと、逢坂は身を捩る。突き立てられれば、涙が溢れた。腿や胸を撫でられ、何度も喘いだ。
「あ、梶……いやだ、あ――」
「あなたの声は僕にとって毒です」
首を振っても、泣いても、喘ぎは隠せなかった。
内壁は梶の雄刀を締め付け、強く求めていた。逃げようとすれば、腰を押さえ込まれ穿たれる。梶の髪を掴んだ。
「もう……やめてくれ」
梶は逢坂を見下ろし、全身を眺めていた。
「ここも、涙を零していますね」
「あ」
逢坂の屹立から先走る滴りを、梶は掬った。
粘りを見せつけるように、梶は逢坂の顔の上で指を動かした。唇を指で撫でられた。
自分の雄の匂いを嗅いでしまう。逢坂は唇を噛んだ。胃からせり上がる苦みを堪えた。
「精液はまだ無理か」
梶は、指を銜えた。逢坂の欲望から溢れたものを指で掬い、繰り返し舐めた。
目が離せなかった。自分の鼓動が聞こえる。梶と目が合った。
キスが降ってくる。口をこじ開けられ舌を絡め取られる。
互いの唾液と自分の粘液を、逢坂は味わった。喉を伝い、混ざり合った水が躯の底に落ちていった。唇を離すと梶は、逢坂に自分の指を含ませた。
「こうやって、ふたりで練習しましたよね」
逢坂は頷いた。昔教えてもらった通り、関節に舌を這わせた。
両手で梶の手を掴み、目を見て銜えた。
何もかも捨て、梶の瞳だけを見つめた。
従えば、梶はいつも誉めてくれた。快感に素直になれと言われ、応えていた。
「上手いですよ。僕が教えたことをまだ覚えていたんですね」
梶は、逢坂の吐き出した白濁を指に絡めた。何度も逢坂に舐めさせる。逢坂が銜える度に、髪を撫でた。
時折、唇を重ねて自らの唾液も送り込んだ。
「ん、ん……」
声を漏らしながら逢坂は嚥下した。口から零れた液体が溢れ、顎を濡らす。飲み干せなかった分は梶が舐め取った。
やっと気づいた。
淫らに振る舞えば苦しみが消えていく。
楽になるには、求めるままに躯を動かせと教え込まれていた。今だけでも心が軽くなると言われていた。
梶に全身で応えられる。それだけを逢坂は考えた。
舌の裏や口腔の粘膜に精液を塗り込められた。梶の囁きが聞こえてくる。
「これは媚薬です。あなたはもっと乱れる」
突き上げられ、逢坂の躯がぶれる。
「くっ――あ、ん、ああ」
梶は笑っているだろう。見たくないから、逢坂は目を瞑った。

机の上に身を投げ出す逢坂の服を、梶は無言で整えていった。抱えられ、梶が運転する車の助手席に乗った。逢坂の鞄も紙袋も、梶が運んだ。
シートベルトを締められるとき、逢坂は身を震わせた。静かなエンジン音が腹の底に響いてきた。
「しばらく眠ってください」
言われるがまま、逢坂は目を閉じた。
梶と付き合っていた頃、梶のアパートで毎日のように同じ布団で寝ていた。
キスの練習をしようと言われ、一晩中唇を重ねていたこともあった。その夜、キスは体中にするものだと知った。
どうして恋人同士は躯を重ねるのだろうと、呟いたことがある。
ふたりで寝て、初めて怖くなり涙を零した夜だった。
忘れるためだと梶は答えた。日常のいやなことを振り払い、快楽だけを貪る瞬間だと言った。
朝には元の生活に戻る。忘れることはできない、と逢坂は返した。
梶は笑って、逢坂の髪を梳いた。
『そんなことを考えているうちは、誰に抱かれてもいけないですよ。いつか、何も考えずに心から相手を欲しくなるときが来ます。それまでは誰にも躯を許さないでください』
逢坂の体をパジャマの上から指で辿り、梶は静かに話した。梶の腕の中で逢坂は頷いた。梶を欲しくなる日が来るのだろうかと考えて、眠りについた。
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