そして彼は魔王となった

葉月

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三、ダンケル=ハイト

11.

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 この時のレムは、髪が長くて真っ黒で、肌も浅黒い感じだった。
 日焼けじゃなくて元々そんな肌の色だったみたいだね。
 丸みのある赤褐色の大きな瞳はとても優しげで、肌の色とあいまって一度見たら忘れないほど印象的だった。
 7歳だったらしいから、随分小さかったけど、10歳のパルマも背は同じくらいだったかな。
 パルマの印象は…。
 薄いんだよなぁ。

 赤毛の巻き毛でお下げの子だったね。うん。
 お婆ちゃんになってからの方が印象強いんだ。

 さて、それから何日も経たないうちに、みんなで夜逃げさ。
 この集落には、ほとんど魔法を使ったものは無かったんだけど、集落の真ん中に一つだけ、前の王様がつけてくれた街灯があったんだ。

 不思議な光る石が埋め込まれた、火を使わない安全なもので、たった一つで集落全体を照らしてくれてた。
 それは引っこ抜いて、運ぶことにしたみたい。

「もうそろそろ休もうか」

 日差しが強く先頭を歩いていたおじちゃんがみんなに声をかけた。
 前におでこにタオルを巻いてたおじちゃんで、名前はセナさん。
 その隣にはセナさんと同世代っぽいおじちゃんで、皮の腰巻きを巻いたザドさん。

 大体この二人が普段から集落の村長的な役割を持っていて、大移動の大まかな指揮をとってた。

 オイラはダンさんと一緒に大移動の中列あたりにいた。
 その辺りにはパルマやレムたちみたいな小さな子どもが多くて、レムがダンさんと一緒がいいと譲らなかったのもあって、子どもたちの護衛役ってことになった。

「あとどれくらい歩くのー?」
 パルマが疲れた顔で近くの岩に腰掛けたタルカじいさんに尋ねた。

 オイラは歩くの慣れてるけど、子どもにはいつ終わるかわからない旅はしんどいんだろうなぁ。

「わしが若いときなら2日くらいじゃったのぅ」
「若いときって、何年くらい前?」
「1000年くらいじゃの」
「えー。おじいちゃん何歳なの?」
「1800歳くらいじゃったかのぅ。パルマは今8歳じゃったな」
「違うよ! 10歳だよ!」

 ぷりぷり怒るパルマ。

「レムは7歳だよ。パルマの方が随分お姉さんだね!」

 レムが話に加わってきた。
「レムってハーフエルフなの?」

 オイラちょっと気になって聞いてみた。

「うん。パパがエルフで、ママがネルフだったよ」
「ふーん。タルカじいさんは? エルフ?」

 1800歳って、随分高齢だったから聞いてみた。

 え? ネルフって何だ? だって?
 ネルフってのは、要は人間のことだよ。
元はエルフじゃないって意味だったらしいけど、確かに今は使わない言い方だねー。

「わしか? わしはエルフのハーフじゃが、四分の一はドワーフが混じっておるのぅ」

 タルカじいさんが答えてくれた。

 色々混じりすぎて種族不明となった者の総称がネルフっていう説と、短命でそれぞれの種族の特徴の平均的な感じの人たちをネルフって呼ぶようになったって説があるけど、オイラはぶっちゃけ違いがわかんない。

 寿命は確かに混じるほど短くなるっぽくはあるみたいだね。

「俺は…自分が何者かわからない」

 静かに聞いていたダンさんが口を開いた。
 それを聞いたレムが、一言聞いた。

「ダンさんって、もう一個名前あるんだっけ?」
「え?」
「何の話だ?」

 オイラもダンさんも思いがけないレムの言葉に驚いた。

「レシェスさまって、リト君言ってたよね?」

「あー! あー! あー!」
「リト君うるさいよー」
 パルマに怒られた。

「ごめん。でも思い出した! ダンさんはレシェス様だ! レシェス=ヴァゴラスって名前だよ!」
「うっ……」

 ダンさんもといレシェス様は眉間に皺を寄せながら、おでこを押さえてた。

「すまない。思い出せない」

「そっかぁ。じゃあしばらくはこれまで通り、ダンさんだねー」
「レムはレレって呼んでもいい? レムとおんなじ、レから始まるからレレ」
「ああ、好きに呼ぶといい」

 ダンさんはにっこりしてレムの頭を撫でた。
 こんな笑顔初めて見たよ。

 それを見ていたタルカじいさんたちも、ニコニコしながら見てたね。

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