セラフィムの羽

瀬楽英津子

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松岡

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  「ほら、もっと近くに寄って、よく見ろよ。繋がってるところ、見たいだろ? なんならお前も入れてみるか?」

  男の、卑猥な笑い声が、松岡吉祥の怒りのリミッターを外した。

  下衆な野郎だ。品性の欠片もない、下衆な笑い。態度も下衆なら、セックスも下衆。

  男は、亜也人を後ろから抱きかかえ、松岡に見せつけるように、腰を突き上げていた。
  男の汚れきった手が、亜也人のお尻を、指の間から肉がはみ出るほどに強く掴む。男は、衝撃が激しくなるよう、わざと亜也人から離れて立ち、自分のイチモツを、下から突き上げるように挿入した。まず、先端から根元までをずっぽりと埋め込み、全部埋めると、カリ首の位置まで抜き戻し、また根元までずっぽりと埋めて行く。そうする事で、亜也人の身体に自分のイチモツが出入りするのが丸見えになり、男はそれを見て更に興奮しているようだった。
  男が腰を突き上げるたび、亜也人の白い上半身が、ヒクヒク震えながら前後に揺れる。
  亜也人はもはや声もなく揺さぶられているだけだった。眉間を苦しそうに歪め、下唇を強く噛み締め、瞳を、開いているのか閉じているのか解らないほど薄く開き、泣き腫らした瞼を赤く染めている。

   男は、松岡が亜也人の貫かれるさまを見て欲情するのを待っているようだったが、松岡は、それよりも先に、殺意を覚えていた。

  「そいつから手を離せ、このクソ野郎!」

  殺意を覚えると同時に、頭の中に部屋の見取り図と、男と亜也人の配置図が、ザッ、と展開する。最短ルートを割り出すのに時間は掛からない。目の前で何かがパチパチと点滅し、自分の行動ルートがスローモーションで明確に浮かび上がる。
  いつの頃からか、殺意を抱くと頭の中で勝手に形成されるようになった計画図。これが、ゾーン、と呼ばれるものだと知ったのはつい最近のことだ。ゾーンに入れば、あとは、ルートにそって動くだけで良い。松岡は、自分の潜在意識が弾き出した最短ルートを通って男の懐に入り込み、一瞬の無駄なく、男のこめかみにアイスピックを突き立てた。

  「殺してやる!」

  肘を浮かせて、突き刺す狙いを定める。

  すると、

  「やめて!」

  亜也人が叫び、松岡を制止した。  

  「殺したら、金、貰えなくなるよ!」  

  クライアントの要望は、始末する事ではなく、生け捕りにする事だ。生け捕りにして百万。情報が得られれば更に百万。跡形も無く後始末して、更に百万。松岡の頭に、三百万がチラついた。
  
  「クソっ!」

   松岡は、アイスピックを下ろした。そして、力一杯、男の頬を殴った。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「来るのおせーし、すぐキレるし、ホント、使えないオッさんだよな、あんた」
  
  「だから、さっきから謝ってるだろ?」 

  「それで? 人に謝る時、ってのは、もっとしおらしくするもんでしょ、フツー」
  
  口数の多い亜也人を、「黙ってろ」と諌めて、唇を貪る。

  「んふっ。すぐ、こうやって誤魔化すんだから…。ま、あんたのキスは好きだけど」

  「いいから黙って舌出しな」

  「んあっ…」
   
  松岡の舌が亜也人の舌を絡め取り、揉みくちゃに擦り合わせる。亜也人の好きな、濃厚に舌を絡ませ、唾液をすすりながらする激しいキス。亜也人とのセックスは、いつも、このキスから始まる。

  「後ろは大丈夫なのか?」

   「ああ。馬鹿みたいにローション垂らしやがったから。それよか中出しの方がキツイ」

   「言ってくれれば後処理ぐらいしてやったのに」

  「は? 他の男の精液だぞ? あんたマゾか」

   仕事を終えた後のセックスは、労い、というより、己の欲望を吐き出す意味合いが強い。亜也人を、おとり用の男娼として働かせて早一年。亜也人が他の男に抱かれるさまを見るのにも慣れたし、抱かせることも、ビジネスだと割り切れるようにはなった。
  しかし、この、胸の奥にくすぶる、拗ねたような気持ちは何だろう。 

  嫉妬…。

  40にもなろうという男が、親子ほど年の離れた、18歳のガキに嫉妬?
  まさか、勘弁してくれ、と思う一方で、その通りだ、と認めている自分もいる。
  とくに、今日のように、アクシデントで救出が遅れた時など、亜也人が自分以外の男に股を開いているのを見るたびに、松岡は、頭がおかしくなりそうなほどの怒りに駆られる。

  こんな了見の狭い男が、亜也人を、自分仕様に作り変える、などと聞いて呆れる。
  むしろ、自分の方が作り変えられているような気がする。

  「ちゃんと俺に集中しろよ。エッチの最中に他ごと考えるとか、それ、別れる寸前のカップルがすることだぞ?」

  亜也人が、汗ばんだ腕を首に巻き付け、唇を突き出す。
  この、ねだるような視線に松岡は弱い。意図的なのか偶然か、亜也人は、松岡が弱っている時や寂しさを感じている時、いつも、狙ったかのように、上目遣いの甘えた目で松岡を見る。この目に見つめられると、松岡は、あんたがいないと困る、と言われているようで、どうしようもなく、くすぐったい、気分になる。それは、依存性の強い毒のように、松岡の胸の内側に甘美な疼きをもたらした。
   
  「ぼんやりしてないて、早くしようよ。疲れてんのなら、俺が、上、乗るし…」

  「年寄り扱いするな」 

  胸元に顔を埋め、片手を腿の内側に伸ばす。そのまま内股をさすり上げ、さらに上に伸ばして下腹部を握り込むと、亜也人が、「ああんっ」と声を上げて、身体をしならせた。
  まるで麻薬だ。
  いつかとり殺されるかも知れない。思いながらも、松岡は、喜んで溺れる自分を可笑しく思った。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


  シマを荒らすガキどもへの見せしめとして行われる公開レイプは、男の尊厳を根底から揺るがすマウント行為であり、どんな暴力よりも破壊力がある。
  
  松岡吉祥にとって寺田亜也人も、もとは、単なる見せしめレイプのターゲットだった。

  松岡吉祥。38歳。金のためならどんな仕事でも引き受ける、闇社会のよろず請負人。松岡にとって、生意気なガキを捕まえてレイプする事など、赤子の手をひねるようなものだった。

  松岡が、私立北一高校、通称“北高”の生徒によるレイプドラックの横流しを知ったのは、つい一週間前の事だった。

  北高は、松岡とも縁の深い、指定暴力団石破組の領内にあり、その不良グループは当然ながら石破組とも密接に繋がっている。とくに、大麻や合法ドラックを売り捌く現場において、不良たちの情報量の多さとフットワークの軽さは、石破組におおきな利益をもたらした。
  しかしその一方で、頭の悪いガキ供が図に乗り始めたのもまた事実だった。石破組という大きな後ろ盾を得たのをいいことに、石破組の名を語り、自分たちの力をここぞとばかりにひけらかし始めたのだ。
  もっとも最初は、ガキのする事だから、と、石破組も相手にはしなかった。しかし、身の丈に合わない力を手にした子供ほどタチの悪いものは無い。最初は相手をビビらせる程度の可愛い脅しだったのが、次第に、金銭の巻き上げや、恐喝にまで石破組の名前を出すようになった。このままでは石破組の評判はもちろん、品位まで落としかねない。石破組としては、ここらで、不良どもに、身の程を思い知らせる必要があった。

  ドラッグの横流しが発覚したのは、その矢先だった。

  ほどなくして、松岡は、石破組の若頭、内藤に、『ガキを一人捕まえて欲しい』と頼まれ、取引き場所であるクラブへ出向いたのだった。

  客を装い、メールでのやり取りの後、受取り場所に指定したクラブの裏口に向かった。待っていた男に背後から近づき、スタンガンで気絶させてから、頭に布を被せて車に押し込んだ。

  あとは、一旦、事務所兼自宅に運んで、若頭の内藤に連絡を入れる。公開レイプは、その筋の厳つい男を2、3人雇い入れ、そいつらに、動画を撮りながら嵌めさせ、生配信させれば良い。これで96万。レイプ要員への日当と口止め料などの必要経費は別途請求。仕事としては、十分美味しい部類に入る。

  ところが、事態は、松岡の思惑りには運ばなかなった。

  原因は、他でも無い、松岡本人。

  男を部屋に運び、ソファーに横たえた時、いや、その前から、何となく予感めいたものはあった。抱き上げた時の軽さ。男にしては狭い肩幅、細い腕。
  そして、頭に被せた布を取り払った瞬間、松岡の予感は的中した。

   欲情したのだ。

  まさか、俺が、こんな、たった今、顔を見たばかりの若造に。

  しかし、それは確かに欲情だった。
 
  目の前に現れた、男の白い顔。男と言うより、少年、と言ったほうがしっくりくる、亜也人の、若く瑞々しい肌、漆黒の髪、長い睫毛に縁取られた大きな目。形の良い鼻。少し先のめくれた生意気そうな唇、その全てが松岡を魅了する。
  気を失ったふりをしていたのだろう、松岡が頬を撫でると、いきなり目を開けて胸ぐらに掴みかかってきた、気の強そうな瞳も気に入った。
 
  抱きたい。

  まるで、本能に突き動かされるように、松岡は、亜也人の頬を両手で挟んで引き寄せ、唇にむしゃぶりついていた。
  亜也人は、予期せぬ事態に一瞬たじろぎ、しかし、すぐに、激しく抵抗し始めた。
  気が動転しているのだろう。仔猫が、不審者の腕の中から必死で逃げようとするように、四肢を突っ張り、身体をくねらせて松岡から逃げようと抵抗する。
  その、がむしゃらに向かってくる手を、手首を掴んで阻み、力任せに、ソファーから引きずり降ろした。 

   「離せっ! クソッ!」

  手首を後ろ手にひねり上げ、床にうつ伏せにして、太ももを両脚で挟むようにどっかりと腰を据える。ズボンのポケットから、常備している拘束用の結束バンドを取り出し、もう片方の手首と一緒に、限界まで高くひねり上げて、キツく縛った。
  この位置で縛られたら、そう簡単には解けない。
  さて、どうしてやろう。
   松岡の瞳がギラリと光る。獲物は既に手の中にある。
  この美しい獲物を、じっくりいたぶるように抱き潰すか、欲望のまま、乱暴に貫き倒すか。どちらにせよ、ドロドロぐちゃぐちゃの愛液まみれにしてやるのは間違いない。よがり狂わせ、喘ぎ泣かせてやる。女の身体もまともに知らない少年が、男に抱かれて戸惑うさまが見てみたい。 
  想像するだけで、松岡のイチモツは張ち切れんばかりに熱り勃っていく。

  まったく、とんでもねぇガキだ。

  心の中で吐き捨て、腰を掴んでズボンに手をかけ、下着もろとも引き下ろした。亜也人が、「ひっ」と泣く。膝まで下ろして横を向かせ、背後から抱きかかえて股間に手を伸ばした。

「や、なにするっ…んあっ!」 

  まだ芯をもたない竿を、手のひらに握り込んで激しく扱き立てながら、背中にぴったりと貼り付き、首筋から耳の後ろを舐め上げた。
  声を殺して喘ぐのが皮膚越しに伝わる。ヒクヒクと動く喉が、声を出して喘ぐより何倍もエロく男を煽る。
なんだこいつは。
  眉間にしわを寄せて喘ぐ横顔の、この、悩ましさ。 
  いたぶり弄ぶつもりが、逆に、松岡の方が追い立てられている。小細工をしている余裕は無くなった。亜也人の身体を仰向けに返し、硬くなり始めたイチモツを口に含んで、舌を絡ませ、絞り取るようにしゃぶり上げた。

「んやっ!やめっ、なんでこんな…俺が、一体、なにしたっ…あんっ」

  トロトロと溢れ出す先走り液を舐め取り、後ろの孔につけて、舌の先で舐めほぐす。腰を引き寄せ、お尻を抱えて頭の方へひっくり返し、マングリ返しの姿勢をとらせて、割れ目を拡げて人差し指を埋めて行く。

   「ああっ、やめっ! 入れんなっ!」

  指に絡みつく肉壁が、迎え入れるのを知っているかのように、うねる。
  これだけの器量に、この色気。高校生とは言え、石破組のヤクを横流しできるほどのコネのある奴だ。誰かの情夫になっている可能性は十分考えられる。それを裏付けるように、人差し指を入れてそう経たないうちに、亜也人が一際大きな喘ぎ声を上げた。 

「ああんっ、そこ、ダメっ! あっ、あ、さわる…なっ!…んっ、あっ」

  気に入らねぇ。
 
  指を増やし、めちゃくちゃに中を搔き回す。途端に、亜也人が、あああ、と切なく喘ぎながら腰をくねらせる。その、折れそうに薄い華奢な腰を、乱暴に掴んで膝の上に引き寄せ、お尻を下から抱えるように持ち上げた。

   「嫌だ、何するっ…」  
   
   「ンなこと、言われなくても解るだろう? 」

  「解んねぇよ! あっ、嫌…なんでこんな…あっ」

  暴れる脚を太ももを掴んで大人しくさせ、左右に開いて、後孔に先っぽを当てる。そのまま、ズブズブとイチモツを埋め込むと、亜也人が、あああああ、と頭が痺れるような色っぽい声を上げた。

「いやぁ、ダメっ!やめ…んあっ、やっ」

  聞いてるだけでイキそうになる声だ。それに、中に埋めた感じ。入り口はキツく、奥はふんわり柔らかい。それでいて、熱くねっとりとした肉壁が、いきり勃ったイチモツをきゅうきゅう締め付ける。 

  「んあっ、あ…ぁああ、あんっ、ああ…」

  「クソッ!」

  これ以上声を上げられたら、こっちが先にイッちまう。喘ぎ声を我慢させるなど初めての経験だ。コイツはヤバイ。一時の情事で済ますには惜しい相手だ。いっそ、このまま自分のモノにしてしまいたい。 
   思いながら、松岡は、激しく腰を打ち付けた。








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