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〜第十二章 メモリア・時の女神

219話❅あったかい❅

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 パリィの片目は漆黒の瞳に変わっていた、エミリィの瞳は霊体となったムエルテも確実にとらえていた、エミリィがパリィに力を貸している、ダークエルフとエルフの間にイレケイとして産まれるはずだったエミリィの瞳の力は凄まじく、パリィを支えていたのだ。


 そしてユリナは瞳を瞑り見開き弓を構える。

「パリィさん!
出来ました魔法陣から出て!」

 メトゥスが叫んだがムエルテの攻撃が凄まじくパリィにそんな余裕は無い、パリィはエミリィの魂と共に剣舞を舞い戦っている、それはギリギリの一線を繰り返していて魔法陣の外に出るなんて考えられなかった。


(ママ……)


 エミリィもパリィの心の中で、必死になって記憶を探すが、乗り越えられそうな記憶はどこにも見当たらなかった。
 ただ一つだけ輝く不思議な記憶があり、それだけは触ることも、その記憶の輝きの中を覗き見る事が出来ずにいた。

(この記憶はなんなのよ)

 エミリィはその記憶に必死その輝く記憶を触ろうとしていた。


「これじゃ……
破神の魔法陣が使えない……」

 メトゥスが表情を曇らせ見つめた時、ムエルテがパリィの僅かな遅れを見抜き、体当たりをしてパリィの姿勢を崩した。


(しまっ……)

 パリィは倒れそうになり、ムエルテが冷徹な笑みを浮かべ斬りかかったが、その瞬間ムエルテの眉間を矢が貫いた。


 一瞬ムエルテは動きを止めるが、死ぬはずが無いと解りきっていたユリナは素早く走り、更に矢を放つ、それはムエルテの胸を容赦なく射抜く、パリィはその瞬間に魔法陣から素早く出ようとしたが、ムエルテは動じずにパリィに向かい大鎌を振り逃がそうとしない。

 そしてパリィが離れようとした時に、振られた大鎌がパリィを捕らえようとした時、エミリィは思い切ってその光り輝く記憶に手を突っ込んだが、そこには何もなく何かがあったと言う不思議な感覚を覚えた。


 ムエルテの大鎌がパリィを斬り裂こうとした時、ムエルテの真横から凄まじい斬撃が放たれムエルテを斬り裂いた。


 パリィがムエルテを斬り裂き、素早くムエルテを蹴り飛ばした者を見た時、時が止まったように驚いていた。


 もう一人のパリィが現れムエルテを襲ったのだ。

「だれ……」

 パリィが呟いた。


「ピリアッ!」

 ユリナはすぐにそれがピリアだと気付いて叫んだ、古の大陸で魔族のドッペルその頂点に立った影の女王ピリアが居たことをユリナは知らなかった。


「パリィさん
大丈夫
驚かないで下さい」

 ピリアがそう言いパリィに抱きついて姿を消し、二人はオプスの後ろに現れパリィを助けてくれた、ピリアの力は変わっていない様だった。


 そしてすぐにメトゥスが魔法陣を発動させた。


 魔法陣から水色の光が輝き出し、ムエルテの力を抑え込むが、ムエルテの凄まじい抵抗を受ける、ムエルテは苦しそうに眉間の矢を抜き投げ捨てる。

「グアァ!」

 更に叫びながら胸の矢を抜き、赤黒い血が眉間と胸から勢い良く流れ出ている。

 その凄まじい姿を目の当たりにし、メトゥスは呪文を唱えながら汗を流し感じ、ピリアが来てくれたことすらも忘れさせてしまう様な凄まじさであった。


(動けるのですね
死だけで無く命の力
そしてあの戦いを生き抜いた
ムエルテ様の力……
あの時よりもお強いですね

でも……

私もあの戦いを生き抜いた神!

ムエルテ様を抑えて見せます‼︎)

 メトゥスの想いはユリナもオプスも感じていたが、ムエルテが静かに瞳を閉じ、瞳を見開き恐ろしい微笑みを見せ大鎌を魔法陣に突き刺し力を爆発させた。


「なっ!」

 メトゥス即座に呪文を変えようとしたが、既に遅かった、ムエルテはメトゥスに大鎌で斬りかかったが何かが庇った。


「……オプス!」


 思わずメトゥスは声を出した、過去の世界で最も恐怖メトゥスと争った関係であり、記憶を忘れてないメトゥスからしたら信じられなかった。


 オプスは背中から深く斬り裂かれ紫の血が噴き出し、その血がムエルテにも大量にかかり、ムエルテの瞳が一瞬色を変わったように見えた、オプスは深すぎる傷を顧みず振り返って無防備に手を広げる。


「オプス様!何を!」


 サクヤが叫ぶ、そしてピリアは素早くオプスの魂に触れた時、オプスのムエルテへの友情の様な優しさだけを感じた、その斬り裂かれた痛みや苦痛を抑え込み、そしてムエルテがオプスを受け入れたように、オプスもムエルテの全てを受け入れようとしていたのだ。



「ムエルテ……
私をこれ以上切れますか?」



 とどめを刺すつもりだろうか、ムエルテは剣に持ち替え斬りかかるが明らかに動きが遅くなっている、オプスは避けられる斬撃をそのまま受け、顔を歪めずにムエルテを抱きしめる。



「私達の仲は……」



その声はムエルテの頭に響いた。

「あの時
私の死を断ってくれたのは
嘘だったのですか?」

 ムエルテに少しづつ僅かに僅かに表情が戻り始めていた、オプスの傷は深すぎて神だからこそまだ話せていた。


「あんなに……あんなに……
失いたく無いって
言ってくれたのは……」


 だが力尽きようとしていた、声も弱々しく今にもこと切れそうな優しい声でムエルテに聞いていた。

「嘘では無い……」

 ムエルテが正気を取り戻し今にも手を離してしまいそうなオプスを、剣を持っていない腕で抱きしめようとしたが、その手は、腕は、オプスの紫の血にまみれムエルテは思わず自ら剣を見て驚愕した。


 白い骨の様なムエルテの剣は紫のオプスの血が滴り、ムエルテが何をしたのかを静かに語っている。


「妾は……
何と言う事を……
妾はまさか……」

 ムエルテは自らの行いに気づき、何よりも大切に思っていたオプスをその手で斬り裂いてしまった現実、それをどう受け止めていいのか解らなかった。

「えぇ……
狂神になっていたのです

でも良かったぁ

優しい貴女に戻ってくれて……」

 オプスは優しく力無く言い、立って居られなくなり、膝をついて倒れ込んでしまう。

 ムエルテはオプスの背中の傷も見てどうして良いのか解らなくなってしまうが、直ぐに膝をつきオプスを再び抱きしめると、ムエルテのローブが純白になり輝き出す。

 そのムエルテの行いを見たユリナは静かに頷いた、ユリナが預けた古からの命達の力、それを使いムエルテはオプスを救おうとしたのだ。

 ムエルテは命の女神の力を使い、オプスの傷をそのまま癒しはじめる、過去の戦いでムエルテはオプスを救えなかったが、今は救えると解っていたのだ。

 優しい神々しい命の輝きが二人を包む。



「あったかい……」



オプスが優しく微笑みながら呟いた。


「すまぬ……
誠にすまぬことをした……
妾はもう其方の近くにおれぬな

許しを乞うつもりはない
本当にすまぬことを……」

 ムエルテの瞳から涙が溢れている、その申し訳なさそうな顔に悲しみの色が溢れ、その瞳からは孤独を覚悟した寂しそうな輝きが溢れていた。


「うん?何処かに行ったら……
本当に許しませんよ」


 オプスは何も無かった様に可愛く言うが、それがムエルテの涙を誘った。


 その様子を天界からエレナは心配しながら見守っていたが、安心したようにその場から離れた。


「みんな……
あっちにいこう」

 ユリナがそう言い、気を使い二人だけにする様に少し離れ始めた。


「ユリナ……
ムエルテ様とオプス様って
どんな仲なの?」

パリィが聞いた。

「あの神殿にも
描かれてるから
今から見に行こうよ」

ユリナが微笑んで言った。


「そんな壁画あったかな……」

 パリィが考えながら

 四人は再び神殿に向かい、メトゥスも驚いていた天界にいたメトゥスも、この神殿を知らなかったのだ。四人は奥に進み、ユリナがオプスとムエルテがニヒルに立ち向かう壁画まで案内し四人はその壁画に見入っていた。



「どうしようかなぁ」

 オプスが可愛らしく呟いた、オプスの傷は綺麗に癒えたがまだ神としての力は弱っていた、二人は並んで仲良く地面によこになり空を見上げていた。


「なんじゃ……
なにを悩むのじゃ
許せるはずがなかろう」

 ムエルテは諦めていたが、寂しさも悲しさも孤独も全てを隠していた、オプスとの最後の時を噛み締めようと大切にしようとしていたのだ。


「許してあげますけど
一つ条件があります
聞いてくれますか?」

 オプスは優しくニッコリと可愛く微笑んで言った。


「なんじゃ!
何でも言ってくれ!
妾に出来ることなら……
いや出来ぬことでも
何でも言ってくれ!」

 ムエルテはそう言い、空を見上げて横になっているオプスに慌てて上から覗き込む。

 オプスはムエルテのその態度をみてにっこりと微笑んで言った。


「そうですね……
今度地上で遊びましょう」

 オプスが考えるような仕草を見せながら言う、ムエルテは困惑するがオプスは優しく続けて言う。


「ムエルテは神々の中で
一番忙しい神です
人の死と人が産まれる為の命……
その全てを見ているのです。

ベルスが動き出して
今はもっと忙しいはず……」


 ユリナはオプスとムエルテのやり取りを、暗黒が映し出してそれをみんなで聞いていた、悪く言えば盗み聞きの様だがムエルテを心配していたのだ。


「その上に
マルティアの守護神まで引き受けて……
二十四時間休みなく動いてますよね?
黄泉まで管理して
私でもそんな事出来ませんよ?

と言うか普通なら
嫌になっちゃいますよ」

オプスが友達に言う様に話している、ムエルテは少し困った顔を素直に見せていた。


「疲れや悩みが溜まってるんです
私のお母様も
一度狂神になりましたよね?」

オプスが昔を思い出しながら言う。


「アインが巨人族を罰した時か?」

ムエルテが思い出しながら聞き返す。

「はいっ
お母様は創造だけだったので……

と言うよりも
何もされてなかったので
他の神々の声を聞く事が出来ました」

オプスがそう説明した。


「そうじゃの……
あやつは何もしてなかったの」

ムエルテがやっと少し微笑んだ。

 オプスは一生懸命に、ムエルテを優しく明るい気持ちにしようと話している。


「でもムエルテは死と命と言う役目を
二つも持っているので
怒りは倍ですよね?

そのほかにも
守護神や色々調べたりして
悪い死霊も暇を見ては捕まえて
黄泉の国まで管理していて……


そんな生活が……
毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日っ‼︎
一年間365日寝ずに休まずに
働いてるじゃないですかっ‼︎」

 オプスは可愛く明るくオーバーに言う、ムエルテの気持ちを明るくしてあげようと頑張っているのだ。

 ユリナもオプスのその態度は、今までいつも一緒にいるが、見たことが無くピリアでさえ初めて見ていた。


 それはまるで、古の大陸では闇の女神としていたが多くを恐れ、今まで出来なかった何かをしようとしている様にも見えたが、ユリナはすぐに気付いた。


(友達と遊びたいのね……)

 ユリナはそう微笑みながら心でそう呟いた。

「そうですっ!」

オプスがまるでユリナに答えるように言い、話を続けた。


「だからわたしに付き合って
少しだけ
役目を忘れて休みましょう



ムエルテは真面目ですから
忙しすぎてサクヤさん達のことだって

悪いことは悪いっ!
ダメなものはダメっ!
忙しいから話も聞く暇はないっ!

それでピッ‼︎ってしちゃうんですっ‼︎

まるでただのお役所仕事じゃないですか

神様なんだから
そうじゃないと思います
ですから息抜きは必要なんです」

オプスが楽しそうにムエルテに伝えている。


「そっそうかの
じゃが妾には……」

ムエルテが珍しくたじたじになっている。


「ダメです
そんなんじゃ私の方が
もう会ってあげませんよ

わたしが我慢出来るのは
10万年のことだけですっ!」

オプスはそこだけはムスッとした。

「そっそれは……」

ムエルテはそれだけは嫌なようだ。


「でしたら私に付き合いなさい
良いですね?」

オプスはムスッとしたままで言った。

「解った其方に付き合おう……
何よりも妾は其方が……」

ムエルテが困りながらも優しく言った。


「私が?」

オプスが興味ありげに聞いた。


「…………」

 ムエルテが小さく小さく口ずさんで、オプスは可愛く微笑んでいた。
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