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〜第十二章 メモリア・時の女神
215話❅死霊の罪❅
しおりを挟むその日の昼前に二人はセディナに向かった、とても穏やかで優しい日差しがさしていた。
セディナにつき廃墟となった街を見回しながら王宮に向かう。
パリィの表情が曇る、流石に何も思わないはずが無い、パリィにとって悲しい場所である。
ユリナは何故パリィがあの小屋に向かったのかを一つ解った気がした、セディナがすぐ見えるセクトリアに居るのが少し苦しかったようだ。
これから大きな戦が起きるかも知れない、そんな前に精神的に疲れを取りたかったのだ。
ユリナにとってはセディナの過去の栄華を全て見る事が出来る、母エレナがあの世界でセレスの首都エルドを守り切ったその気持ちが痛い程解った。
国が滅びる事、それは悲劇のほかに何も無いのだ
「パリィ……大丈夫?」
ユリナがパリィに聞いた。
「うん……平気だよ」
パリィは明らかに無理しているがその様子を見せない様にしている、程なくして王宮のある丘に登る、ここからセディナの街が一望出来る。
(ユリナさんこの街……)
オプスが聞いた。
(えぇお姉ちゃんは
太古の神々の結界を
この街全体で張っていたの……
オプス様が居ない時期の結界……)
眼下に広がる街の全体を見た時、それは知っている者なら直ぐに解る、美しくその大通りが五芒星を描かれていた、そして円形の城壁が見事に囲っている、その中心にこの丘があり、神殿を守っていたのだ。
そして中央を貫く一本の大通り、丘の背後まで続いていて、その先端に恐らく六つ目の星、闇の女神オプスが座するあたりで途切れている。
「パリィ誰がこの街を設計したの?」
ユリナが聞いた。
「え?っと……
お母さんに凄く似たエルフの人が来て
繁栄を願って書いてくれたの
確かフロースデアって人だったよ」
パリィが教えてくれた。
「‼︎……フロースデア……」
ユリナは驚いた、フロースデア家それはユリナの古の家名であり、エレナと姉のカナ、あとカイナだけが名乗る名であった。
「お母さん?どうしたの?」
パリィが深く考えているユリナに聞いた。
「ううん……
何でもない神殿に行こ」
ユリナがそう言った。
(フロースデア……って
どう言うこと?
私に似ている……フロースデア……
まさかお母さん?
記憶が戻ってたの?
そんな筈は……
でもどうやって?)
エレナが記憶を取り戻せたのなら、この街の作りを設計出来るのは簡単に説明出来る。
ユリナは瞬時にそう考えたが多くの謎が頭を埋め尽くす、気づけば王宮に入り玉座の間に来ていたが、変化に気付いた。
ユリナが以前来た時、玉座には何も無かったが、誰かが座っている命の息吹は感じない乾ききった遺体が座っていた。
黒ずみ元は白かったのだろうか、汚れきったレザーアーマーと長いマントをつけている様だ。
パリィはその遺体を見て駆け寄ろうとしたがユリナが止める、以前無かったのだアンデットか何かかと疑い叫ぶ。
「貴方は何者ですか⁈」
ユリナが聞いた。
「お母さん大丈夫……
あれはサクヤ……」
パリィがそう言い歩み寄る。
「サクヤ?」
ユリナが呟く。
「私の側近だったサクヤ
最後まで
セディナを守ろうとしてくれたんだね」
パリィは涙を流しながら歩み寄る。
(大丈夫ですユリナさん
サクヤさんも……
パリィさんに出会えて
涙を流して喜んでいます)
「じゃあなんで王冠を?」
ユリナが聞いた。
乾いた音を立てながらサクヤのミイラが立ち上がる、そして静かに歩みよって来る、コツコツと乾いた音が玉座の間に響き渡っていく。
ユリナも神の瞳で見つめる、そのサクヤからはミイラと思えない温もりのある輝きと申し訳ないと言う気持ちが溢れた魂がいた。
パリィ駆け寄ると、静かにサクヤのミイラはひざまづき、ゆっくりと女王の美しい王冠をとりパリィに差し出し聞こえて来た。
「パリィ様……
申し訳ありません
マルティアをセディナを……
わたしは守れませんでした
この王冠はパリィ様の物
お受けとり下さい」
うっすらとサクヤの生前の姿がミイラと重なり浮かび上がる、美しい人間の女性で絶え間ない涙を流している。
「なぜサクヤが……」
パリィが聞いた。
「パリィ様亡きあと
私が皆に押され女王となりましたが
セディナは落ち
マルティアは滅びてしまいました
せめてこの王冠だけは」
サクヤの想いが強いのか、口調がハッキリしている。
「サクヤ……」
パリィはそう呟き王冠を受け取る、マルティアが滅び数百年サクヤの魂はこの王宮に留まっていたのだ、そしてユリナがパリィを黄泉から救い出したのを感じたのだろう。
せめて王冠を返そうとパリィを待っていたのだ、ユリナはその姿を見て本当にマルティアと言う国が良心に溢れた国だったこと、そしてパリィの周りには信頼出来る者達が、集まっていたことを理解した。
そしてパリィはサクヤと見つめ合いながらゆっくりと、王冠をかぶるとサクヤは優しく嬉しそうに微笑んだ。
その時、玉座の間に拍手が響き渡る、死者達だ、パリィに忠誠を誓いパリィに尽くしマルティアを支えた多くの者達が死者達となりこの王宮に留まっていたのだ。
ユリナは驚いた全く気配を感じなかったのだ、時の女神であるユリナの瞳ですら見抜けなかった者達だ。
死者の魂の多くは留まろうとすれば、ムエルテに黄泉に導かれてしまう、この者達は神の目を欺く大罪を犯しながらもパリィを待っていたのだ。
それをムエルテが見逃すわけが無い、ユリナはすぐに暗黒を抜き硬い石板で埋め尽くされた床に突き刺して囁く。
「オプス様……助けてあげて……」
その直後声が響いた。
「話は済んだようじゃな……
はて……
千年とな……」
既にムエルテが大量の死霊の力を感じ、天界から直接来ていた、その瞳は瞑っている、神の瞳に集中し死者達を一人も逃さないつもりでいる、ムエルテは本気であった。
「千年も妾を謀ったのかお主らは……」
ムエルテが静かに言う、それはこの前オプスと親しくした様子は微塵も感じない、オプスは暗黒の中でムエルテが怒っている事に気づいていた。
「謀った?ムエルテ様!
この者達は私を待って居たのです!
サクヤ達は悪くはありません!」
パリィがサクヤ達を庇おうとしている。
「パリィよ
済まぬがこれは罪じゃ
死を預かる妾としては
許せぬ罪じゃ」
ムエルテはパリィを見ずに静かに言う。
ムエルテがそう言う、ユリナはムエルテに死と命を預けている為に口を出せない、ムエルテの判断に任せるしか無いのである。
「ムエルテ様!
マルティアの守護神であれば
御慈悲を!
どうか許して下さいっ!」
パリィはサクヤの前に出て庇おうとするが、サクヤが前に出てムエルテに言う。
「死の女神様
私達はこうしてパリィ様を
お迎え出来たのです
私達の願いは叶いました
それが罪と言うならば
喜んでお受け致します
我らに神罰を恐れる者は
一人とて居ません
我らは希望を集め……
それに応えられなかった者達
世界を救えなかった者達
それ以上の罪がありましょうか?
喜んでその罰お受け致します」
サクヤは罪を恐れず全てを認めた、その言葉がパリィの胸に突き刺さる。
「良い覚悟じゃ
では黄泉に参るかの……」
ムエルテはそれを聞いてうっすらと笑みを浮かべる。
「喜んで……」
サクヤがそう言い呟いた。
「ちょっと待って下さい
ムエルテ様!
世界を救えなかったのは
私も同じ事!
サクヤ達を連れて行かれるのなら
私もお連れ下さい!」
パリィが身を挺して庇おうとするが、ムエルテは聞いているが、心苦しくもそれを見せずに黄泉の国へ導こうとしている。
「それなら……」
サクヤ達を連れて行こうとするムエルテの前に闇の女神オプスが美しく現れた。
「オプス様……」
パリィが呟く。
「サクヤさん達は
この闇の女神オプスが預かります
私の闇は死霊も見れます
ムエルテ?
それで問題は無いですよね?」
オプスは冷静に話の流れを見て、ムエルテをどう説得するか考えていたのだ。
「オプスよ……
妾は千年も愚弄されてたのだぞ……
死を預かるこの妾がっ!
千年も謀られたのだぞ
それを許せと言うのかっ‼︎」
「そうかも知れませんが
私達神々から見れば
たかが千年じゃないですか
それに私の元に居て悪霊となれば
その時はムエルテが裁けば良いのでは?
一度見逃したにも関わらず
そうなるなら私も何も言いませんから
ここは私とムエルテの仲でお願いします」
オプスが可愛らしい笑顔でムエルテにお願いする。
「いくらそちの頼みでも
それは聞けぬっ!
妾は死と命を預かるのじゃっ!
この地に何度も足を運んだにも関わらず
気付かなかった
妾の失態でもあるっ‼︎」
それはムエルテの真面目さを感じられる言葉だった、パリィとサクヤ達は静かに、神と神のやりとりを見守るしかなかった。
「それはなぜ聞けないのですか?」
オプスが微笑んで聞いた。
「それはっ!
何を言うか知れたことを‼︎
それは妾が死と命を預かる……」
ムエルテがそこまで言ってとどまった。
「それは誰が預けてくれたのですか?」
オプスが微笑んで言う。
それは他ならぬ絶対神ユリナである、それを考えればパリィがここまで庇おうとした者達を、無理矢理連れて行くのをユリナがどう思うかムエルテは考えはじめた。
(まさか……
ユリナが妾に遠慮しているのか?
もしこの場でユリナが言えば
妾はそれを譲る……
あの時……
ユリナは妾を選んでくれた
あの時の流れで
妾を消すことも出来たはず
だがユリナは妾を選んでくれた
その恩は幾らでも返すっ‼︎
だがそれをせぬと言うことは……
妾を考えてのことか……)
ムエルテは様々な事を考えしばしの沈黙が訪れていた、やがてあそこまで言った手前があり、簡単には引き下がれないムエルテの立場に気付いた。
その頃合いを見て、オプスはユリナの荷物からリンゴを一つ取り出してムエルテに手渡した。
「これでも食べて落ち着いて下さい」
「……」
ムエルテはこの状況が全てムエルテを立てるために、いまオプスが現れているのに気付いた。
「全くそちの頼みは
調子が狂うのぉ
リンゴ一個とは……
今度茶でも付き合わぬか?」
ムエルテはそれを受け取り、そう言いリンゴを一口かじる、オプスが手を差し伸べてくれた、その手を素直に握ったのだ。
「はい喜んで
時間を作りますね」
オプスはそれを見て笑顔で答える。
「まぁ良かろう……
罪を認める事は中々出来ぬことじゃ」
ムエルテがリンゴを食べながら言う。
「えぇ神々ですら
中々出来無いことです」
オプスはムエルテの性格も知り尽くしている様に答えている。
「仕方ないのぉ
妾が折れてやろう
今回だけじゃぞ……
だが罰は与えるのだぞ
妾の面目が潰れてしまうからのぉ」
そう言いながらムエルテはリンゴをかじりながら、玉座の間から去ろうと歩き出す。
いかにムエルテとオプスが仲が良いか、良く解るやり取りであった。
「ムエルテ様!
本当にありがとうございます!」
パリィがムエルテの前に行き、ひざまづきお礼を言っている、サクヤも他の死者達も深く頭を下げていた、無論、ユリナも下げていた。
(慈悲か……)
ムエルテはそう思いながら、ユリナを見てまた歩み始めパリィを見ずに言った。
「礼は闇の女神オプスに言うが良い
妾の親友にな……」
そう言いムエルテは去って行った。
「ムエルテも相変わらず
素直じゃないですね」
オプスは微笑みながらムエルテの後ろ姿を見ていた。
「オプス様
サクヤ達を……
みんなを救ってくれて
本当にありがとう……」
パリィがオプスにお礼を言うが、どう言葉にしていいのか解らずに、思ったことしか言えなかった。
「パリィさん良いのですよ
私はサクヤさん達に
神罰を与えますから」
オプスは静かに言った。
「神罰……」
パリィは呟いたが、その目は希望を讃えていた、あの優しいオプスが無慈悲な罰を与えるはずがないと、そう信じていた。
だがそれを知らないサクヤ達は、厳しい表情で顔を上げオプスを見つめていた。
オプスが囁く様に言う。
「サクヤさん……
マルティアの守護霊達よ……」
「守護霊……」
死者達が思わずそう言う、神罰を与える相手に言う言葉ではないからだ。
「貴方達に神罰を与えます
このセディナの地下には
古の神殿があります
貴方達はこのセディナを
害する者から守りなさい……
幾百幾千年経とうとも
この地を守り抜きなさい
良いですね」
オプスは静かに微笑んで伝えた。
「セッ…セディナを守る?」
サクヤが聞き返す。
「はい……」
オプスが笑顔で言う。
「あ…あっ…
ありがとうございます
私達にセディナの守護を
任せて頂けるとはっ
本当に……」
サクヤは死霊でありながら、感謝に溢れ最後まで涙が溢れ息が詰まるようになり、その気持ちを言えなかった。
そのサクヤを見てオプスはサクヤの額に手を当てて祈り始める。
「深淵なる闇の底より
全てを輝かせり
混沌より生まれし光よ
悲しみより生まれし喜びよ
絶望より生まれし希望よ
深淵なる闇は全てを輝かせり……」
オプスの手が輝き始める、それと同時にサクヤはミイラと化した体に、千年ぶりに精気が注がれて行くのを感じ、そして魂の姿に変貌して行くのが解った。
「これは……」
サクヤが戸惑いながら呟く。
「サクヤさんの遺体を
生前の姿に戻しました
死霊でも生前の肉体を維持出来る者は
昔いた魔族に引けをとりません
サクヤさんのマルティアへの想い
私がしっかり受けとりましたので
そのご褒美です
その力を使って
セディナを守って下さいね」
サクヤは力を抜いて自らの肉体の姿を表す、その姿はパリィの知るサクヤの姿そのままであった。
ユリナは荷物から小さな鏡を取り出してパリィに渡すと、パリィはそれを持ちサクヤに駆け寄りサクヤに手渡す。
サクヤは鏡を見て涙を流す、命はなく温もりの無い肉体ではあるが、サクヤの魂の輝きでその肉体は維持されている、アンデットでは無く生きているが命はない、魔族に近く神族にも近い存在となっていた。
「ですが一つ約束をして下さい
私の許しなく
セディナを離れてはなりません……
それはだけはお願いしますね」
オプスは優しく微笑みそう言った。
「はいっ!
オプス様!」
サクヤと死霊達が声を合わせて言っていた。
その様子を見てユリナもほっとしていた。
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