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〜第十二章 メモリア・時の女神
206話❅帰って来た母❅
しおりを挟むパリィは数日を小屋で過ごし時期は冬に入り始める。
北方地域の穏やかな冬は今年が最後かな?そう思いながらパリィは過ごしていた。
マルティア国にはカイナクルスから使いを送り、どの様に冬を越すか指示を出していた、指示さえ送ればバイドがいるのでそこを心配する事は無かった。
その頃遥か遠い最南のガルドルフ地域ではまだ小国が他国から援軍を得て耐えていた時、赤黒の黒い竜が現れ抵抗する国の都市を焼き払っていた。
それはただの魔物では無かった。
明らかな意志を持ち破壊し国を滅ぼし去っていく、そして更に多くの難民を生み出していた。
「ここだね……」
ユリナテンプスがセディナを探索し地下にあった石の扉を見つけて囁く。
その扉には真ん中に六芒星が刻まれ、その星の位置にかつての六大神の名が刻まれている……無論、闇の女神オプスの名もそこに刻まれているだが、文字もかつての大陸の文字が使われていた。
「誰が……こんな物を……」
オプスが暗黒の中から囁く、ユリナテンプスが時を戻した時に全ての命は体と記憶を失い魂の姿となり、ムエルテが預かった為に過去の大陸を覚えている者は限られている。
この世界の命は殆どが今は無き世界から引き継がれた命と言える、今は無き大陸の記憶を持つ者がユリナの知らない者で居るはずが無かった。
ユリナは、そっと石の扉に手を触れると、その扉が輝き静かに開きだす。
ユリナはその先に足を踏み入れ驚いた。
「こ……これは……」
あまりの事に言葉を失い周りを見渡していた。
それから数日が経ったある日、雪が本格的に降り出し北方地域に冬がやって来た。
パリィは一人で森に出て狩をしていた。
これからは動物達も今より動かなくなってしまう、少しでも保存食を作ろうとしていた、一冬を越す四人分の蓄えは無いからだ。
それでもパリィに焦りは無かった。
何百年もそこに住んでいたのだ、冬でも大体何処を探せばと言うのは知っている。
むしろ狩を楽しんでいた、女王の暮らしに不満は無い、国の為に色々考えて国を動かしていく、でもそれはパリィの知らない程昔に自分にとても親しい人、そんな人がしていた様に感じる時があった。
だがパリィにそんな人が居た記憶は無い、それを考えると再び女王となった今も不思議な感覚に陥るのだ。
パリィは風を感じながら何かを嗅ぎ取る……とても懐かしい何かだ。
「お母さん……本当に?」
パリィは直ぐにその匂いがする方に走りだした。
ユリナは馬に雪車引かせ、食料や必要そうな物を沢山載せてパリィの森に入って来た。
「ユリナさん
本当にいいのですか?」
オプスが暗黒の中から囁いている。
「いいのいいの
オディウムは必ずお姉ちゃんを狙うから
それにあの神殿へ
お姉ちゃんを導かないといけないし」
ユリナは何かを思いついたように言っている。
「でも!
パリィさんの側にはカイナも居ますし
メーテリアさんも居ます
それにパイスと言う少年もいます!
私達神々が関与してはなりません」
オプスが慌てている。
「はい
剣は黙ってて~ちゃんと言いたいなら
姿を表しなさい」
ユリナテンプスはニヤッとしながら言う。
(そう言うの昔と変わらないですね……)
オプスは小さく呟く。
「何か言った?
オディウムはもう人に関与してるんだから……
こっちもして行かないと
やられ放題されちゃうでしょ」
ユリナは鼻で笑いながら言った。
「え!そんな何処で」
オプスが驚いている。
「何日か前に私が暗黒を置いたよね?
あの時
時間を止めて見に行ったんだけど
あいつ竜になって街を焼いてたのよ
でも逃げられちゃったのよ
オディウムからこっちに来てくれない限り
捕まえられない気がしたから
こっちから来そうな場所に行くのよ」
ユリナは考えていたことをオプスに話した。
「それで……」
オプスが呟いた、ユリナはかつての世界で神々が余りにも何もしなかった事、それも罪であると思っていた。
裁かれない事をいいことに傲慢であると、ユリナはムエルテの様に積極的に触れていく事を決めていた。
もし無の神ニヒルがそれに何かを言えば、今は話し合う道もある、時の女神ユリナテンプスがニヒルと同等の力を手にした為に考えられる手段である。
「おかーさーん!」
遠くからパリィの声がした。
「なんか複雑……」
ユリナが少し困った顔をして呟いた。
パリィはユリナの姿を見て、更に速く走り駆け寄って来た。
「パリィ!」
ユリナがパリィを呼ぶが、パリィからしたら久しぶりの再会であった。
「お母さん?剣って使えるの?」
パリィが聞いて来た。
「え?」
ユリナはあっと思った、以前旅立つ前にパリィに暗黒は見せた事が無かったのだ。
暗黒の力は持ち主以外が持つと石に変えてしまう、オプスにお願いしてその力を無くしてもらう事も出来たのだが、ユリナはそこまで気が回らず、神の涙と言う宝石にしまっていたのだ。
「うん昔からね
でもパリィには危ないからしまってたのよ」
ユリナはそう話しそれからパリィはユリナと話しながら小屋に向かった。
小屋では外でメーテリアとカイナがパイスと雪遊びをしていて、とても微笑ましい光景が遠くからでも見て取れる。
「ただいま」
パリィがみんなに声をかける。
「パリィ様
狩はどうでしたか……
そちらの方は?」
メーテリアが聞くが、カイナはユリナの姿を見て急にかしこまった態度をした。
「テン……」
カイナがユリナを呼ぼうとした時、遮るように声が頭に響いた。
(カイナ久しぶりだけど
知らないふりしてね)
ユリナの囁きがカイナの心に響いた。
(そんな無茶な)
カイナは汗をかきながら心で呟く確かに無茶がある。
かつて自分を斬った相手とは言え手厚く葬ってくれ、世界を救い最高位の女神となった相手だ、普通に接しろと言うのが無理な話に感じるが、カイナはユリナが背負っている暗黒に気づき安心感を覚える。
「みんな紹介するね
私のお母さん帰って来てくれたの」
パリィが嬉しそうに言った。
「いつもパリィがお世話になっています
これからも宜しくお願いしますね」
ユリナは凄まじくぎこちなく挨拶をしている。
「あの……
ユリナさんってパラドールの街を……
えっ……
パリィ様の…お母様だったのですか?」
メーテリアは以前、パラドールの村が襲われた時に、ユリナに助けられたことを思い出していた。
「メーテリア
お母さんを知ってるの?」
パリィが聞いた。
「はいパリィ様
パラドールの街が
グラム達に襲われた時
ユリナ様が私を助けて下さったんです
それから南に逃げてあの林で
パリィ様にお会い出来まして」
メーテリアはあの時のいきさつをパリィに話した。
「えっじゃぁ
お母さんはそんなに近くにいたの?」
パリィはユリナに聞いた。
「えぇ……
ちょうど帰ろうと思って
あの辺りまで来てたのよ」
ユリナは凄まじく焦りながら言う、この展開を予想していなかったのだ。
(だから慎重に動くべきなんですよ)
オプスはそう暗黒の中で呟き、スッと手を振った、するとパリィの中でそのことよりユリナが帰って来てくれた喜びが大きくなり、パリィは優しく言った。
「そうっ
じゃぁまた後で話してね」
するとメーテリアがユリナに嬉しそうに言った。
「ユリナ様に言われたように
このメーテリアは
パリィ様のおそばから生涯離れません
お母様これからも宜しくお願いします」
メーテリアはユリナが言った。
(メーテリアッあなたはパリィに必要なのっ!
最後まで諦めないでっ‼︎‼︎)
この部分だけを鮮明に思い出し、ムフっと言う顔になっていて、その姿にパリィ達はなんて言っていいのか解らなかった。
(わたし言うこと間違えたかな……)
ユリナは汗をかきながら微笑む。
(絶対に間違えましたね
アヤさんの生まれ変わりってのを
忘れてましたね……)
闇の女神オプスも汗をかきながら呟いていた。
そして暫く談話しながらユリナはパリィの様子が気になり、神の瞳でパリィの心を見て微笑んだ。
「パリィ様どうされました?」
メーテリアが聞くとパリィは少し困った様に言った。
「そう言えば
ムエルテ様はリンゴが好きだから
リンゴの木を植える様に考えてだんだけど
バイドに渡した指示に書いてなかったなって……
それに食料の確保も
今のマルティアなら出来るから
冬でも集める様に指示を出さないと……
雪解けと一緒に難民が極北地域に来るのは解ってるから……」
パリィはカイナ達と出会って直ぐにセクトリアに帰るべきだったと感じていた。
だがセルテアの事が気になって留まったのだ、ここからなら三日もあればテリング王国まで行ける。
パリィの足なら二日とかからない、セルテアが危機に陥っても、ギリギリで間に合うかも知れない距離なのだ。
ユリナはパリィの心内を見て微笑みながら話しかける。
「パリィ?魔法を教えてあげようか?」
「え?」
パリィが不思議な顔をした。
「こうやって……」
ユリナは魔法で文字を書き始める、その文字は水色に輝き、幻想的な美しさを見せ書き終えると、ユリナは頭の中でパリィをイメージした。
すると文字は一つに纏まり水の小鳥になってパリィの肩に乗った。
「可愛い……」
パリィがその小鳥を指に乗せると、小鳥は羊皮紙になり手紙へと変わった。
驚きながらその羊皮紙を読むとこう書かれていた。
「大切な大切なパリィ」
パリィはそれを読み嬉しくなってユリナに飛びついた。
ユリナは確信した、ユリナがパリィを黄泉の国から助けた事も忘れていると。
「どうやったのお母さん?
これ凄い魔法だよ!」
パリィが言うが確かにそうだ、それは古の大陸の魔法であった。
バイトも似た様な魔法を使う、メーテリアもだ、だが質が違うことをメーテリアは今のを見て見抜いていた。
明らかに魔力では無くて水の精霊を使っていたのだ。
(ユリナ様はいったい……)
メーテリアが疑問を抱いた、メーテリア程上級な魔導師は大陸に数人しか居ない、そのメーテリアが知らない魔法をユリナは普通に使ったのだ。
ユリナがパリィに魔法を教え始める、メーテリアも話を良く聞いて試してみる、パリィもメーテリアも上手に小鳥を生み出す事が出来た。
(流石お姉ちゃん
アヤもハーフエルフだったから
簡単に出来たね)
ユリナは微笑みながらパリィとメーテリアを見ていた。
カイナが歩み寄って囁く。
「ユリナ様
古の魔法を宜しいのですか?」
「え?だめなの?
私が教えちゃいけない?」
ユリナが聞いた。
「いや、その……」
カイナが困る、最高神のユリナに文句を言えるのはニヒルしか居ない、とは言えニヒルがこの程度の事で怒るはずが無い、そもそもニヒルも、ユリナの影響で本来の役目に戻り、太古の穏やかな性格に戻っている。
「その魔法は古の魔法……
どうやって知ったのじゃ?」
たまたまムエルテが来た、またまたと言うより南方地域の事を、パリィに伝えに来たのだが、水の鳥の魔法をパリィが使ってる事に疑問を抱いた。
ユリナが笑顔でムエルテに手を振る。
(テンプス‼︎ユリナ
何故ここに……
オディウムを探すのは良いのか?)
ムエルテが驚いた。
(えぇちょっとね
ムエルテ
黒龍の話はまだしないでね)
ユリナが心でそうムエルテに言った、その黒龍をパリィがどう思うか解らなかったのだ。
ムエルテは水の鳥を知る者を追求するつもりだったが、相手がユリナで追求を諦める、今となってはユリナは絶対神であり、最高神を超える存在、魔法の一つは目を瞑ることにした。
「ムエルテ様
私のお母様が教えてくれました
古の魔法ってどう言う事ですか?」
パリィがそれを知らずにムエルテに話す。
(お母様?……そちの姉だぞ……)
ムエルテはそれよりも、今のパリィとユリナの関係に興味を持った。
(ムエルテ
仕方ないでしょ
私だって複雑なんだから
気にしないでよ)
ユリナはただ困りながらそう答えた。
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