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〜第十一章 メモリア・黒い天使〜

203話❅カイナ・フロースデア❅

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 翌日、パリィが目を覚ました時には既にセルテアは帰っていた、パリィ達が目を覚ます前、早朝に僅かな手勢を率いて帰った様だ。

 それでも五百を超えるテリングの兵がカイナクルスに残った、彼らはセルテアにカイナクルスに駐留する様に命令を受けていた。

 

 パリィはガイザスにテリング王国の兵達の宿舎を建てる様に指示をだした、セルテアが兵を残したのはカイナクルスの村をパリィと同じ様に、マルティア国にとって重要な村だと感じてくれたのだ。

 そしてパリィ達と交易隊はその日のうちにテリング王国に向かい出発した、パリィはセルテアを追ってる訳ではないが道が同じなのだ途中までは、南方へ行く道を進み、四日が経ちアイファスの村が見える。

 今は誰も住んではいない寂しさを感じさせるがアイファスを再開発しようと考えた。
パリィに一つの考えが浮かんだ、そんな時にメーテリアが話しかけて来た。


「パリィ様何方に向かうのですか?」
メーテリアが聞いた。

「うーん
今の私が育った場所かな」
パリィが考えながら言う。


「えっ!どこ!どこなのですか⁈」
もちろんメーテリアは知りたがる。


「森の中の小さな古い小屋だよ」
パリィが優しく言う。

 そう話しているとパリィは明日の天気が悪い事に気付いた、そして街道の森へ入る分かれ道についた。
 パリィとメーテリアは食料を沢山積んだ荷馬車に乗り換えて、交易隊を先に行かせ交易隊と分かれた。


「パリィ様ここ……」
 メーテリアが鬱蒼とした森に入り、不思議に思った。

「メーテリアは気付いたのね」
パリィが笑顔で言う。

「まじないが……」
メーテリアが森を見ながら言う。


「テミア達が来るまで
私が一人で住んでたからね
変な人が来ても嫌でしょ」

 パリィがそう言うが、メーテリアは内心パリィを襲った相手の方が災難であると思った。

 そして二人は荷馬車に乗ってパリィが育った森の奥へ入って行った。


 パリィはとても懐かしく感じた、一年ぶりに帰って来たのだ、森を出てからまだ一年しか経ってない、小屋の中にはそっとまじないを掛けていたので、余程の事がない限り住めない状態にはなって無い、パリィは静かでとても空気の澄んでいる森の中を進んで行った。

「なんだろ……
この懐かしい感じ……」
メーテリアが呟いた。

「?」
パリィは不思議に思った。

 メーテリアがここに来た事があるとは思えなかった、そう考えながら森を進んで行くとパリィの小屋が見えたが……。

 煙突から煙が出ている、誰かが使っている様だった。

「そんな……」

 パリィは驚いた、パリィが使うまじないで小屋は身内にしか見つけられない筈だった。
だがメーテリアには懐かしい感じがした、小屋に意識を向けたパリィもなんだか懐かしく思えたが母では無いのは感じた。

(パリィさん……
ここに来てくれたのですね……
って……なんで?)
カイナが小屋にいたのだ。

(キリングはまだ神話の世界から帰っては居ない……なら一体誰が……)
パリィは心からそう思っていた。

(でも……私……
カナちゃんと戦ったこと無いよね
ちょっと遊んでみようかな)
カイナは久しぶりにそう思えた。


 そしてパリィが小屋の近くに着いて、馬車から降りて小屋に近づくと、いきなり屋根から黒いローブを纏った少女が槍を使い襲い掛かって来た。

 パリィはとっさに避けて風の劔を抜く、そしてその少女は凄まじい速さで、突進して骨の槍で突き刺そうとして来た。

 パリィは素早く躱してその槍を掴む、その少女は驚く事に片腕だけで、その右腕だけで槍を見事に使っていた。


「へぇ~
流石だねでも……
コレならどお?」
 カイナはそう言い、左腕が現れたが其れは驚く事に骨の腕だった。

 少女はその骨の腕をパリィに素早く振ると、骨の牙が瞬時に現れ、パリィに向かって飛ばしてきた。

 パリィは槍を離して其れを躱し距離を取るが、その牙はパリィを追って来る、瞬時に凄まじい速さでパリィはそれを正確に切り落とす。

 だがそれと同時に少女は距離を詰めていた、素早い連続の突きを繰り出して来た時、パリィは前に出てそのまま、懐に入り風の劔の柄で少女の溝落ちに重い一撃を入れた。

 少女は僅かに飛ばされたが着地する。


「カハッ」
カイナが息を詰まらせた。

(流石……
本当に強いですね……)
カイナはそう感じていた。

 だいぶ効いた様で、僅かに声を出して膝をついた。

 少女は槍を杖にし立ち上がる。

 その様子を見ていたメーテリアは、相手を知っている様で、そうで無い様な不思議な感覚を覚えていた。


「ふふっ」
息を整えてカイナが小さく笑った。


(もうちょっと本気で行こっかな)
 カイナはそう心で言い、槍に魔力を強く込めた。


「そこまでじゃ」


 ムエルテが夕暮れの日差しに照らされて現れた、死の女神としての黒いローブが夕暮れに照らされ、また怪しげな輝きを放つ、そしてゆっくりと舞い降りて来た。


「ムエルテ様」

 少女はひざまづくムエルテはカイナに近づき、冷ややかに言う。


「黒い天使カイナよ
其方の闇の翼を使ってもパリィには勝てぬ
解っておろう…て

必ずテンプスが助けに来る
其れで良いのか
そうなれば
流石にテンプスは
そちでも許さないだろう」

 ムエルテはカイナとユリナの関係を良く知っていて、それを突いて冷ややかな目をしてカイナを見つめた。


「いや、そ、それは……そのぉ……」
(ムエルテ様っ
ちょっと遊んだだけですよっ!)

 カイナは焦る、今は無い世界とは言え、カイナはユリナに斬られたが、死者としては返せない程の恩があるのだ。


「ムエルテ様
お知り合いなのですか?」
パリィが聞いた。


「あぁこやつは妾の友
闇の女神オプスの使いでな
今は妾のそばにおる

カイナ・フロースデアじゃ

そもそもカイナよ
パリィはマルティア国の女王じゃぞ
襲ってどうする!」

 ムエルテはカイナが抱える恩を前に出して話した、カイナがいたずらにパリィを襲ったことに軽く軽くお灸を据えている。


「ってムエルテさま
その名前はっ‼︎」

 カイナは慌てる、カイナにはカイナと言う名しかなかったが、古の大陸でユリナの一族の名をユリナから貰っていたのだ。

 パリィはその大陸では、フロースデア・カナと言い、そのユリナの大切な姉である、ムエルテはそれを突いているのだ。


「解っておるな?
もうパリィに手を出すでないぞ
パリィから稽古の申し出があれば別だがの」

 ムエルテはあえてそう言った、パリィもまだ剣を磨く必要があるとさっきの動きで感じていた。


「フロースデア……」
パリィはその名にとてつも無く懐かしさを覚えた、知らない名だが大切な気がしてならなかった。


「案ずるな
そちが目指す世界を作り出せば
そなたは全てを取り戻す……」
ムエルテはそう言った。

(間違いない……
この失われし記憶……
鍵を握るのはあやつじゃ

だがどうやって見つける……)

 ムエルテはやっと、この記憶を戻す方法の鍵に気付いたのだ、だがまだエレナにも伝えないでいた、まだ確認の取りようがなくムエルテが考えていたからだ。


「私が目指す世界?」
パリィが聞いてきた。

「そうじゃ
そなたはそなたの夢を目指すが良い
それと二人とも仲良くせい!
良いな……」

ムエルテがそう微笑んで言った。



「はいパリィ様!
先程の無礼をお許しください……」
カイナがそう丁寧に謝ってくれた。

「あのカイナさんって……」
メーテリアが聞いた。


(メーテリア……久しぶり……
この世界でちゃんと
自分らしく生きてるんだね)

 カイナはそう思いながら、この新しい世界を深く感じ、かつての世界でのメーテリア、アヤを深く思い出していた。


「元気そうだね!」
カイナがメーテリアに元気に言った。

「えっ?
私のこと知ってるんですか?」
メーテリアがカイナに聞いた。

「ううん知らないよ」

 カイナは笑顔で昔の様に話かけながら、知らない様に振る舞った。
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