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〜第十一章 メモリア・黒い天使〜
201話❅千年前の勝利❅
しおりを挟むその晩、セルテアはカイナクルスの村を巻き込んで祝いの宴を催した、村は活気と喜びに溢れ『白き風の女王』の再来に沸いた。
カイナクルスの村長はあの時、極北地域に旅立った一行にいたパリィが本当に女王になり、また来てくれた事を喜び村人も酔い踊りその騒ぎは遠くまで聞こえる程であった。
そんな中、ガイザス率いるカルベラ隊は真面目に警備をおこたならかった。
あり得ない話だが、もしいま盗賊達が襲って来たら大混乱に陥るのは目に見えていた、そして自らも盗賊としていた経験が、皆と騒ぐ事を許さなかった。
「へー貴方も真面目だね」
メーテリアが、そんなガイザスを見つけて声をかけた。
「メーテリア様
宴には出られないのですか?」
ガイザスは顔を赤くし一瞬で緊張した。
メーテリアがガイザスの様子を見に来たのだ、昔もこう言った時にメーテリアは警備や周辺を見回ってる者達に気を使っていた。
パリィもメーテリアと同じ様に見回っていたのだが、ここのところパリィを主役とした宴ばかりでパリィが見回れないので、メーテリアだけで見回っていたのだ。
「メーテリア様
その……」
ガイザスはお礼を言おうとしたが、すぐに言葉が浮かばなかった。
(おっ?ガイザスって
うぶいところあるじゃん)
メーテリアが微笑む。
「お礼はいいよ
私がそうしたかったから助けたんだから」
メーテリアもガイザスが言いたい事を理解していた、あれから満足に話す機会が無かった。だがメーテリアがガイザスに興味ある訳ではない、でも不思議と二人は心地よい時を感じて、最近のことを話し合っていた。
ガイザスの部下もそれに気づき、自らの判断で警戒を続けてくれていた。
一方パリィは、セルテアとセルテアの天幕でベルス国の話をしていた。
ベルス国は隣国を更に一つ攻め落として勢力範囲を拡大していた、かつての様な非道な噂も僅かに囁かれ始めてはいるが、マルティアの建国宣言に南方地域は勇気づけられ、凄まじい抵抗を見せている様だった、その為にベルス側は優勢ではあるが、攻めあぐねている様子らしい。
ベルス帝国の侵攻がかつてより遅いのだ……。
「千年前……
パリィ殿はどのような国を
作られたのですか」
セルテアがそうパリィに聞いた。
「えっ……」
パリィは急にそう聞かれて少し困ってしまった。
「千年前……
マルティア国はグラキエスの戦い前まで
五分と五分の戦いを繰り広げたとあります
そしてグラキエスの戦いで敗れ……
私は正直……
マルティア国が各国を勇気づける事は想像できました
ですが……ここまでとは……」
セルテアは正直マルティア国の再興がこれ程、各国をまとめ抵抗させるとは考えていなかったのだ。
「なんだろう……
私はただ……最高神様をお招きしても
恥ずかしくない国を作ろうとしただけです」
パリィは静かに言った。
「最高神……
アインズクロノス様ですか?」
セルテアが聞いた。
「はい」
パリィは優しい笑顔で返事をした。
「そうですか……」
セルテアが優しい顔で言う。
「はい……
大切な戦は
私が指揮をしました
私が見れない戦場は
家臣に任せました
そちらも良く戦ってくれてました」
パリィはグラキエスの前の事を話した、それはパリィの前世、最後の秋、北方地域と南方地域の境界でのことを思い出していた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それは千年前、北方地域が冬になり、大自然の守護と言える厳しい冬の前にベルス帝国が攻め寄せて来た時のことである。
ベルス帝国は八万を超える大軍で攻め寄せ、パリィは冬支度のあるマルティア国を考え三万ほどしか動員しなかった。
「みなさん……
覚えていますか?
この戦いは十年前から始まり……
我らはこの境界を
守り続けて参りました
ですがこれ以上我らを
彼らが脅かすのであれば
この戦いに我らが勝利した後
春を待ち南へと軍を差し向けます
我らの北の風を大陸に吹かせるのです‼︎
長い戦いになるでしょう
多くの悲しみが生まれるでしょう
ですが……
百年先五百年先……
私達の子が
今までのように暮らすため
我らは血の代償を捧げ
勝ち取らねばなりません……
皆よっ剣を抜けっ‼︎‼︎
そして未来にかかる闇をっ‼︎
その光り輝く剣で斬り裂きなさいっ‼︎‼︎」
パリィは全力で叫び号令をかけ、15回目の境界防衛戦が幕を開けた、最初に一軍をパリィ自ら率い、ベルス帝国の第一陣を切り裂いた、そして息を合わせるようにカルベラ隊がぶつかり激しい攻防が繰り広げられた。
その戦いは四日後に大きく動いた。
マルティア軍は冬を前にした戦いで、早く終わらせる必要があった、北方地域と南方地域の境より北に川があった、パリィは全軍の三分の一を使い境界線付近で戦い続けていた、開戦から四日後にマルティア軍は一斉に引いた。
マルティア軍は今まで14回一度も背を見せなかった、そのマルティア軍が初めて背を見せた、ベルス帝国は一気に追撃し、退却するマルティア軍に襲いかかった。
ベルス帝国軍は数で劣るマルティア軍が、敗走すると誰もが疑わなかった。
だがその川をパリィの軍が渡り、ベルス帝国軍が川に入った時、ベルス帝国軍は次々といきなり姿を消した。
川の中にパリィは三日かけて特殊な落とし穴を掘らせていた、難工事であるが軍の大半を導入し素早く作らせていた、それでも多くのベルス兵が川を渡って来た。
「やりなさいっ‼︎」
パリィが叫んだ。
そして凄まじい勢いで川の流れが激しくなり、渡りきれない敵兵は押し流されて行く、
川の上流を堰き止めていたのだ、そしてパリィは渡り切った敵兵を見渡していた。
「パリィ様……
上手くいきましたね……
でも
だいぶお金もかかりましたよ」
メーテリアが言う、普段お金のことで何も言わないメーテリアが珍しく言ったことで、凄まじい金額がかかったと、パリィは解っていた、だが川の落とし穴で倒せるとは一切考えてなかった、その程度と敵に思わせる為に作らせていたのだ。
「いえ……
安くつきましたよ
我らの兵の命……
あの大軍をこの土地で
相手にすれば……
それと私達……
マルティアの未来……」
パリィはメーテリアにそう言い、メーテリアは優しい顔をした。
その顔を見たパリィはまた厳しい顔になり、ベルス兵を見つめていた。
「これで敵は半分……
そして数で油断していた敵は
追い込まれれば弱いものです……
この戦い……
彼らがベルスに光を見ていれば
まだ解りません
ですから……
最後まで全力で……」
パリィはそう言い剣をベルス兵に向けて叫んだ。
「全軍突撃し
一兵残らず殲滅せよっ‼︎‼︎
死力を持って
北の力を示せっ‼︎‼︎」
その瞬間マルティア軍、全軍が襲いかかった、ベルス帝国軍は荒れ狂う川に追い込まれれ殲滅されて行く、川を渡らなかった帝国軍、渡れなかった帝国軍もその光景を見て恐怖を覚え始める、対岸にいた帝国軍は何度か援軍を送ろうとし川を渡ろうとするが、激流に阻まれ渡ることが出来ずにいた。
そこに氷と炎の雨が振り、対岸のベルス帝国軍を襲った。
「弓隊……放てっ!
敵をこれ以上
川を渡らせてはなりませんっ‼︎
パラドール家の兵を後方に置いて頂いた
その使命を果たしなさいっ‼︎」
メーテリアが指揮を取り再び川を渡ろうとするベルス軍を抑えていた。
川の流れは時が経てば穏やかになってしまう、それまでにパリィが率いた軍は敵を殲滅しなければならない。
(パリィ様……
大丈夫です
私の勝手でグラキエスに兵を
集結させております
ですからご心配なく剣を振って下さい‼︎)
メーテリアはそう思って声を上げ指示を出していた、最初からメーテリアは心配していた、パリィは敵が八万を超えると知り僅か三万しか集めなかった。
それを知った日のこと……。
「パリィ様っ‼︎
敵は八万もの大軍ですよっ‼︎
それを解っていて
たった三万で……」
メーテリアがパリィに訴える。
「大丈夫よメーテリア
北方地域で私が負けたことある?」
パリィは微笑んで言う。
「ですが……」
パリィはメーテリアの肩を叩き優しく言った。
「大丈夫勝てるよ」
メーテリアはパリィがそう言ったが、心配で秘密裏にグラキエス山脈に、マルティア国内から五万を超える大軍を集結させていた。
メーテリアと同じようにパリィを心配した家臣達が多く、兵はすぐに集まってくれたのだ。
それでもその兵を呼ばずに、メーテリアはパリィを支えた。
これはパリィの戦である。
『白き風の女王』の戦でありメーテリアは汚したくなかった。
そして川の流れが穏やかになったころ、パリィは川を渡った敵を殲滅することに成功した。
「敵ながら立派でした……
安らかに……」
パリィは切り倒した敵兵にそう魔力を込めて言っていた、その声は戦場に響いてマルティア軍に命を奪われた全ての敵兵に向けてパリィは言っていた。
パリィのその声は戦場にいた者だけで無く、天界にまで届いていた。
天界ではエレナをはじめとする、多くの神々がマルティアの戦いを見守り、パリィの態度を見て静かに優しく見守っていた。
パリィは静かに川の対岸にいる敵に剣を向けて大きな声で言った。
「この戦まだ続けると言うなら
わたくしパリィ・メモリア
全力でお相手いたします
『白き風の女王』として
この剣に未来をかけて……
さぁっ‼︎」
パリィがそこまで言った時に、マルティア軍がまた武器を構え、突撃する姿勢を見せる。
パリィの罠にはまったベルス軍は、既に半数以上を失った、全て戦死した訳ではない逃走した敵兵も数多く、敵の戦意は僅かに残る程度であった。
「ベルスの兵達よっ
生き延びたければ退きなさいっ‼︎‼︎」
パリィがそう叫ぶが、敵は退かなかった……。
「愚かな……」
天界では無く空から見ていたムエルテが冷たい瞳でベルスの兵達を見つめ呟いた、その退かなかったベルス兵の多くに取り返しがつかない程の死相が現れたのだ、それはマルティア軍の兵にすら多くは無いが僅かな兵に現れていた。
「……」
パリィは退こうとしないベルス軍を見て涙を一筋流して叫んだ。
「全軍突撃せよっ!
ただしっ!
深追いはなりませんっ‼︎‼︎
抵抗せぬ者は……
斬ってはなりませんっ‼︎‼︎」
パリィは指示を出した、溢れる悲しみを抑え叫んでいた。
それから一日をかけ、ベルス帝国軍を北方地域から全て退けた。
それがパリィの前世、マルティア国最後の勝利であった……。
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