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〜第十一章 メモリア・黒い天使〜
195話❅静寂の森❅
しおりを挟む「やっと気付いたか……」
ムエルテはそう言うと、天幕の入り口の布がひとりでに開き、ムエルテがリンゴを取り出してメーテリアに投げ渡した。
「朝のリンゴは美味いぞ
食うが良い」
メーテリアは驚いてリンゴを上手く受け取れなかった。
「何をしておる
ちゃんと取らぬか」
そう言いムエルテは天幕に入り、リンゴを拾いメーテリアにちゃんと渡す。
「心配になって来てやれば
思った通りじゃ……
パリィよこの世界が生まれる前の其方は
本当に心が強かったぞ……
『水の舞姫』が聞いて呆れるのぉ……」
ムエルテはそう言い、リンゴをまた取り出してかじり始める。
「ムエルテ様は
その戦いに出られたのですか?
それと水の舞姫とは……」
パリィが聞いた。
「信じるかは其方達の自由だがの
地上と冥界を守る為に
妾も鎌を振ったぞ……
あの時の世界はの……
奇跡を信じるのではなく、目の前の真実を見つめよ、
奇跡は求めるものではなく、信じるものでもない
自ら生み出すものだから
その言葉の元で皆が戦った……
その言葉の意味をよく考えよパリィ……」
そう言うとムエルテは天幕から出てリンゴの芯を投げ捨てて言った。
「はようせい……
この新世界の未来の為に
其方はやるべき事をはようせい……
全く……
これからそちの・・・に
会いに行くところじゃが……
あやつは面倒な事を妾に
押し付けたものじゃな
また来るからの」
そう言い歩きながらムエルテは、水の舞姫には触れずに消えて行った。
「今なんて言ったのですかっ⁈」
パリィが飛び出し後を追うが、ムエルテは振り向かず手を振って消えて行ってしまった。
パリィは一瞬ムエルテが濁して言った言葉をよく聞き取れなかったが、大切な何かを言った気がした、そして水の舞姫と言う言葉が頭から離れなかった。
二人は直ぐに支度をして、東に向かったマルトの街を出て三日目の出来事であった。
決してゆっくりしている訳ではない、メーテリアもユーニが帰って来てくれたので、二人はピルピーとユーニを飛ばして走らせていた。
普通の馬の倍はある速さで走っていた……。
「パリィ様!
そろそろ聞いた森が見えてくるかと!」
パリィ達はマルトの街で、森の中の村の話を聞いたのだ。
その村は静かで人が居る気配は一切しない無人の村だが、夜になると人で溢れ活気のある村に変わる。
その村で食事や買い物をしても構わないが、泊まってはいけないらしい。
それ以外にも、満月と月の無い夜はその村どころか森に近づいてはならないらしい。
その他にも不吉な話は様々あり、人々はその森が見える範囲に近づかなくなってしまい、マルトから更に東に十日程の距離に、ガイラと言う街があるのだが、この森の影響で交流が途絶えてしまったらしいのだ。
その村を人々は黄泉の村と呼ぶ様になったと言う。
パリィとメーテリアはその村の話を聞いて、ガイラの街とマルトの街の交流を、取り戻せれば、そしてその黄泉の村で記憶の扉の事を調べられないかと思っていたのだ。
そう思って向かって行った矢先に、ムエルテに会ったのだ。
パリィはそこに行けばまたムエルテに会える気がしていた。
パリィとメーテリアは暫くして、その森を目にした、うっそうとして、森の奥は日の光も入らない様な気がした。
パリィは馬を止めて、意識を集中して森の香りを嗅ごうとするが。
風が無くて香りが運ばれて来ない、風の劔を指輪から出して、顔の前に立てて囁く。
「風よ吹け……」
優しくそよ風が吹いて来た。
パリィは風から運ばれて来た香りを確かめる。
「明日は晴れて
暖かい日差しお昼寝日和ですね
夜は雨が降るかもしれませんので
早めに宿に入りましょう」
パリィが言う。
「はいパリィ様
森の香りが運ばれて来ないのですね
でも敵意はなく
緊張する必要は無いって事ですね」
メーテリアはパリィの天気予報で読み取った、千年前女王としてでは無く普通の女の子として二人でいる時、困った時は良く天気予報を言っていた。
メーテリアはそれに付き合う様に答えてくれていた。
だが、その森は異様であった。
マルトの人々はその森を「静寂の森」と呼んでいた。
「さて……
パリィよこの森に入るのかの……」
ムエルテが姿を消し、森の奥深くから見ていた。
「なぜ風が……」
パリィは風が吹かないことに疑問に思うが、もしムエルテが居るならそれ位出来るのでは?と思い森に足を踏み入れることにした。
二人はそのまま森に近づいて行く、森の入り口につくと、腰までくらいの藪が侵入を防いでる様にはえている、そのまま森に沿って入れる場所を探している。
「パリィ様この森……」
メーテリアが何かに気付いた。
「えぇ
獣達も居ないし生者も居ません……」
パリィが応えた。
「じゃあ
黄泉の村って本当に……」
メーテリアが言う。
「メーテリア怖いの?」
パリィが様子を伺うように聞いた。
「いえ怖くないです
祈りの儀式と比べたら
全然怖くないです」
メーテリアははっきりと答える。
(本当に
アンデットよりお酒の方が怖いんだ……)
パリィはそう思いながら、見渡すと入り口の様に藪が切れている場所を見つけた、ピルピーもユーニも怯えても居なく、落ち着いている。
パリィは馬を進めて森に入って行く、何故ここまで動物が居ないのか見当もつかなかった、何故かと言えば邪気も感じず魔物がいる気配もない、浄化の必要性も感じない、そして奥に入って行けば行く程、木々に光が遮られて暗くなって行く。
パリィはピルピーから降りて、手頃な太い枝を見つけて布を巻き、油を染み込ませて松明を作り奥にピルピーに乗りまた進んでいく、空気が流れてない事にパリィは気付いた、なのに淀んでいない、全く理解できない森で、まるで時が止まっているかの様な錯覚を覚える。
不意にパリィは手をあげて止まる合図を出した、初めて音が聞こえたのだ、メーテリアは聞こえてない様だ。
前方のかなり先で何かがヒタヒタと歩いている、ギィーと扉を開ける音がする、意識を集中すると音はパッタリと止んだ。
パリィは僅かに嫌な予感がして、引き返す事にした、暫くして二人は森から出て目を丸くして驚いた。
夜になっていたのだ、昼前に森に入ったはず、そして一二時間しか入って無かったなのに夜になっていた。
二人は急いで適当に枝を沢山集め、森から少し離れて焚き火を強く焚いた、メーテリアが魔力を込めて朝まで消えない様にして、天幕を張った。
「パリィ様あの森は一体……」
メーテリアが星の位置から時間を読み取って聞いて来た。
何故かと言えば、やはり感覚通り深夜の星だったからだ、時間だけが進んでいた、パリィはふと思い矢を一本だけ出して森の木に撃った。
カンッと乾いた木の音が響いた。
「ピルピー
ユーニ見張りお願いね
もう休みます」
翌朝パリィ達は朝から森に向かった、パリィの天気予報通り良く晴れていた。
「確かこの辺のはずなんだけど」
森に入る前に二人は矢を探していた。
「パリィ様!ありました」
メーテリアが見つけてくれた、パリィは直ぐメーテリアの元に行き、矢を確かめて引き抜いた時パリィは顔をしかめた。
鏃が錆びつき使い物にならなくなっている、一晩ではあり得ないそしてこの森は時間がおかしい事を確信した。
「メーテリア
次の満月はいつですか?」
パリィが考えながら聞いた。
「確か……
三日後か四日後かと思います」
メーテリアは指を折り考えながら言う。
「その日まで待ちましょう
この森は時間が
ゆっくりしている様でしていない
昨日私達が出てきた時深夜でした
時間だけが進んでいたと思いましたが
私達にもそうだった様ですね」
パリィは深刻な顔をして答えた。
「つまり……
早くお婆ちゃんになっちゃうのですか?」
メーテリアは考えながら言う。
「そう言うことです
たぶん時間が早く進む時がありそうですね
だからマルトの人々は
泊まってはいけないって言ってたんです」
パリィが言う。
「ほう頭が良いのぉ……」
その森の中からムエルテが現れた、神々の中でも最も不死に限りなく近い存在、死の女神ムエルテが現れた。
「ムエルテ様は歳を取らないのですかっ‼︎」
メーテリアが焦りながら聞いた。
「相変わらずじゃの……
妾でも歳をとるぞ
老いたりはせぬがな……」
ムエルテがメーテリアの相手をするように応える。
「何歳なんですかっ‼︎‼︎」
メーテリアが涙を流しながら聞く。
「はて……
もう十五万年は……」
ムエルテは考えながら呟くが、生きていると言うのか、死を元に過ごしているムエルテはシンプルに考えていたが、メーテリアの相手に飽きたようだ。
「まぁ
そこまで解れば良かろう
一つ言うが新月の夜は常に時は早く流れる……
満月の夜は時が風のない
湖畔の様に穏やかに流れる」
ムエルテはそう教えていた。
「ムエルテ様この森は?」
パリィが聞いた。
「今は知る必要は無い……
いづれ解る……
今夜には無くなるからの
この森が消える様を妾と見届けるか?」
ムエルテがそう言った。
「えぇ喜んで」
パリィはそう答えた。
「えっパリィ様……
死の女神と
一晩共に過ごされるのですか⁈」
メーテリアは驚いたがパリィは静かに言う。
「えぇ……
ムエルテ様には
沢山の事を聞きたいのです」
パリィは笑みを浮かべて言った。
「ほぅ……妾にな……」
ムエルテもまた笑みを浮かべて言う。
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