上 下
204 / 234
〜第十一章 メモリア・黒い天使〜

193話❅三人の女神❅

しおりを挟む





「…………」

 ムエルテの声が聞こえてないように、ユリナは光を放ち何かに集中している。


「やはり
そうなのかも知れぬな」


 ムエルテの声はユリナに届いてはいない、だがムエルテは時の力を調べ続けいる、それはフローディアに頼み、絶対神の一人、無の神ニヒルから時の神を記した、巻物と書物を一つづつ借りてきてもらったのだ。


 あの戦いのことがあり、ムエルテからニヒルの元に行く気は無かった、ニヒルを考えるとどうしても、あのオプスがニヒルに殺されてしまったあの一瞬を思い出してしまうのだ。

 そして調べ続け疑問を感じていたのだ、その疑問がまだ朧げにしか見えていない、だが少しづつ輪郭が見えそうであった。


「ユリナ……
そちは……なぜそこまでして……
いや気付かなかったのだろう」

 ムエルテは呟き、美しく光り輝き力を放ち続けるユリナを見つめ、もしそうであったらと様々なことを考えていた。


 暫くしてユリナがムエルテに気付いたが、集中し続け力を放ち続ける……。


「おぬし……
時折り居なくなるが……

こうしておったのか?」

 ムエルテはユリナが気付いたのに気付いて、静かに聞いた。

 ユリナは静かに頷いた……。

 ムエルテはそれを見て、静かに座り美しいユリナを見つめていた。


 ムエルテは思い出していた、ユリナからオディウムが生まれ、オディウムがユリナを襲っていた時のことを……。



 過去の世界で……。


 ユリナがオディウムに蹴り飛ばされ、オディウムがユリナにとどめを刺そうと、更に襲い掛かった時、ムエルテがオディウムに襲い掛かった。

 ムエルテの鎌はオディウムに僅かに届いた……。
「妾が相手ならどうじゃ?
オディウムよ……」

「ムエルテか……
お前相手にするのは面倒だな」


 オディウムが退いた。

「オディウム!
生まれ変わったのなら
我らと共にニヒルと戦いなさい‼︎」
 メトゥスがユリナに駆け寄りオディウムに叫ぶ。

「メトゥスかどうした?
女らしく可愛くなったじゃないか
だが悪いが俺にその気は無い……

お前ら全員を相手にするのは
少し分が悪いな……

だが昔のよしみだ一つだけ教えてやるぜ

ユリナ!
お前が今見たのは紛れも無い未来だ!
お前が守った未来だ……

だが守れるのか?今のお前に?」

 オディウムはそう言いながら赤黒い霧になって消えて行ってしまった。



 ムエルテはその過去の世界での、オディウムの言葉を思い出しながら、顔をしかめながらユリナを見つめていた。


(なぜ……
オディウムは知っていたのじゃ
紛れもない未来だと
なぜ……
解ったのじゃ……)

 ムエルテはそこに疑問を持った、そして深く考える。


(待て……あの時……
オディウムにとっても
ニヒルは敵であったはず……

なぜユリナを襲った

ユリナはあの時
我らの希望であった
それをなぜ……)


 ムエルテは深く深く考えて行く、そしてムエルテは知らなかった、その答えの鍵に闇の女神オプスが気付きかけたことを、ムエルテが知るはずは無かった。

(解らぬ……
オディウムはニヒルとの戦いを避けた

それはオディウムが
ニヒルに敵わないから


やつがそれを知っていても当然じゃ
一度食われておるからな

いや……
あの時に戦えば再び殺されると
知っていたとしたらどうじゃ

それなら話が早い

もしそうだとしたら……
オディウムが
我らに手を貸さなくても)


 ムエルテがそこまで考え、謎がだいぶ見えて来た、気づかないうちにムエルテはぶつぶつと言いながら考えていた。


 ムエルテは今までエレナに言われ、時の力を使うための代価が必要なのかを、調べていた、だがニヒルからフローディアが借りて来てくれた、巻物と書物を読みあさってもそれらしい記述は見当たらない。

 幾ら読んでもニヒルと同等に、ありとあらゆることが可能で、代価的なものが必要なことは書かれていないのだ。


「ムエルテ様
どうされました?」

 カイナが姿を表しムエルテに声をかけて来た、ユリナを見つめながら深く悩んでいる事が気になったようだ。

(カイナさん
元気そうで良かったです)

 闇の女神オプスが、闇の神剣暗黒の中からカイナを見つめて微笑んでいると……。


「そう言えばカイナ……
そちはオプスの天使になって
オプスからユリナのことを
何か聞いておらぬか?」

ムエルテがカイナに聞いた。

 オプスは、ムエルテが頭の中で考えていることを知らなかった。

「私はなにも……」

 カイナがそう言い、暗黒を背負いながら、美しく輝きを放つユリナを見つめそう答えた。

「いやの……
ちと気になっての……」

 ムエルテがそう言い、カイナと共にユリナを見つめていた。


(ムエルテ……
あなたは……

何を考えているのです
何を悩んでいるのですか……)


 闇の女神オプスが、その悩みを解こうとするムエルテの瞳に気付いた、そして姿を現しムエルテに聞こうと思ったが、それをする訳にはいかなかった。


 それは闇の神剣暗黒が、オプスの半身であることを知っているのは、この世界でユリナだけである。
 その秘密はオディウムを倒す術の一つとして、オプスが考え二人で隠し通していた。


 ユリナよりも弱いが僅かにでも時を操るオディウム、そのオディウムをユリナは見つけることも出来ないでいた。

 そしてオディウムの剣は、ユリナの師であるトールの剣そのものであった、ユリナの剣はオディウムに届かないのをオプスは感じていた。

 闇の女神オプスは無をニヒル程ではないが操る、そのオプスと共に、二神一体としている事をオディウムは知らない。


 オプスはその瞳に宿る無の力が、オディウムを追い詰めると考えていたのだ。
 

(ダメ
いま姿を現したら

オディウムに気付かれたら

ムエルテ
ごめんなさい)


 オプスはとても辛く感じていた、本当はムエルテと話したかったのだ、誰よりもオプスはムエルテを大切な友達だと思っていた。

 それはオプスの孤独を、秘密を死の女神ムエルテが初めて受け止めてくれたのだ。



 古の大陸でのことを、オプスが思い出し始めていた。



「ムエルテ……
私の瞳はニヒルの瞳なんです……」


 闇の女神オプスがムエルテに秘密を伝えた時を思い出していた。


(こわかった
わたしはこわかった……)


 オプスは思い出して心で呟いている、あの時の気持ちを、あの日までの自分自身を、そしてムエルテのあの時の言葉が頭に鮮明に浮かんでくる。


「オプス……
何を震えている……

妾は其方が好きじゃ
妾は死から生まれた……

誰もが恐れる死から生まれたのじゃ……
天界から追い出されたら……

妾と共に生きれば良い……

あんな世界は天界とは呼べぬがな……」



 オプスはその言葉を思い出し、あの時と同じように瞳から涙を溢れさせていた。


(あなたは……
わたしの手をにぎってくれました

弱いわたしを
ひっぱってくれました)


 オプスが闇の神剣暗黒の中でそう感じ、また呟いたとき、更に強い、ムエルテの言葉が頭の中を走り抜けるように、響いて行く。



「オプスよ!

その瞳を見開け!

それは其方の瞳じゃ!
誰のものでも無い!

奴を倒した後でっ!
其方が愛した地上の美しさを
その瞳で存分に楽しむが良い‼︎


お前が愛したトールが幾度も守った!
地上世界を‼︎
存分にその瞳に焼き付けるが良い‼︎」

 ムエルテの叫びがオプスの心に染み渡る……。

 そしてまるで、その時に戻った様に鮮明に、その時に見たもの、感じたこと、そしてその時の二人の動きが頭の中に、瞳の中に映し出された様に全てが甦る。


 オプスの孤独や寂しさ、それは自らが招いたことであると、オプスは、いま、初めて感じた。


 だがそれにムエルテは気付いてくれた。

世界で初めて気付いてくれた。

兄弟の六大神ではなく。

母でも父でも無い。

一番親しい弟の光神ルーメンでもなく……。

最も愛してくれた、闇のレジェンド・トールでもない……。


 誰もが忌み嫌う。死を司る女神ムエルテが気付いてくれたのだ。
 


(ムエルテ……
あなたならきっと……)



 オプスがそう心で呟き、古の戦いの記憶は鮮明にオプスの頭に、そして瞳の中で流れて行く。


 そしてムエルテの寛容さが気に入らなかったのであろう、ニヒルが現れムエルテを襲い始める。
 素早くオプスがニヒルの背後に周り斬りかかる、再びニヒルが消え、オプスの剣をムエルテの鎌が抑え二人は瞳と瞳が合った。


 一瞬、時が止まったように二人は感じた、ムエルテとオプスは互いの瞳の奥を見ていた……。


「やはり……
そちの瞳は美しい……」

 ムエルテが微笑みながら呟き、オプスは確かにその言葉を聞いて微笑んで応える。

「貴方こそ……」

 ムエルテも微笑み、再び現れたニヒルに二人は襲い掛かかった。


 二人の絆が確かに結ばれた一瞬であった。


 闇の女神オプスは、ムエルテと話したい気持ちで溢れていた、それはただ仲良く話すことも、ユリナの大切なことも話したかったが、今は耐えるしかなく全ての想いを込めて囁くように言った。


(ムエルテ……
あなたならきっと……
わたしが気付いた

ユリナさんの……
取り戻さなければならないことに
気付いてくれるはず……

わたしの……
わたしに気付いてくれたように……)


 オプスは気付いていた、ユリナが女神として欠けていることに、そしてなぜ欠けているのかも知っていた……。

 オプスはユリナに悟られないように心を閉じ、それでいても強く強く、死と命の女神ムエルテに祈りを捧げた。


 それはこの新世界で初めてのことだと言うことに、オプスは気付かなかった、神が神に心から祈る……。

 それが初めてのことだとユリナは知っていたが、オプスが心を閉じているので、そっと見守ることにし、更に意識を集中しそして唱え始めた。


「うつろいし森よ……
悠久の時を経て時の流れに帰らん……

うつろいし時よ
悠久の時を経て時の流れに帰らん……」

 ユリナの輝きが黄金色の風を巻き起こし始めている。


(ムエルテ……お願いします……)

 オプスがそう祈っていると、その祈りはユリナが放つ時の風に気付かないうちに乗り、その思いのはムエルテの耳に入った……。


「今のは……
いや、そんなはずはない……」

ムエルテが呟いた。

「ムエルテさま?」
カイナが不思議そうに聞いた。


 ムエルテは困惑し目を見開き頭を押さえる、確かにオプスの願いが聞こえたのだ。

 ムエルテはオプスが生きていることを知らない、だがその声が聞こえたのだ。


「ふっ……
ふははははっ!
ははははははははははははっ」


 ムエルテがふいに高い声で笑い始めた、その様子にオプスが少し驚いたが、ユリナは同じ詠唱を唱え続けている。


「オプスよ
闇の女神オプスよ……
そちの声……
そなたの声を妾は
妾は忘れはせぬ……」


 ムエルテが頭を抑えながら、目を見開いてオプスと接した全ての記憶を思い出し、そして静かに言い始めた。


「妾はそちの願い
必ず叶えてやる……

オプスよ……

また会えたなら
妾の話を
嫌と言うほどに聞いて貰うかの……」


 オプスの祈りは全てムエルテに届いていたようであった、それはユリナが内容は解らなくても、そっとオプスの祈りを時の風に乗せムエルテに送ってあげたのだ。

 そのムエルテの声を聞いて、ユリナは詠唱を続けながら微笑んでいた。


(はい……
その時が来たら
いくらでもお聞きします……)

 オプスは優しくそう呟いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢
ファンタジー
ある朝、ギルドが崩壊していた。 ギルド戦での敗北から3日、アドラーの所属するギルドは崩壊した。 ごたごたの中で団長に就任したアドラーは、ギルドの再建を団の守り神から頼まれる。 団長になったアドラーは自分の力に気付く。 彼のスキルの本質は『指揮下の者だけ能力を倍増させる』ものだった。 守り神の猫娘、居場所のない混血エルフ、引きこもりの魔女、生まれたての竜姫、加勢するかつての仲間。 変わり者ばかりが集まるギルドは、何時しか大陸最強の戦闘集団になる。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

紅き龍棲の玉座

五月雨輝
ファンタジー
天空を飛ぶ龍を巧みに操り、龍騎兵戦術を得意とする大陸北東の国家、ローヤン帝国。 天才的戦術家であり、人智を超えた能力、天法術の使い手でもある第一皇子リューシスは、玉座への意思が無いにも関わらず、常にその優れた器量を異母弟であり皇太子のバルタザールの一派に警戒されていた。 そしてついにある日、リューシスは皇太子派の中心人物である宰相マクシムによる陰謀にかかり、皇帝暗殺未遂の大罪人として追われてしまう。 数少ない仲間たちと共に辺境の地まで逃亡するリューシスを、マクシムら皇太子派は執拗に追い続ける。 だがまた、そのようなローヤン帝国の騒乱を好機と見て、帝国を狙う数々の敵が現れる。 強大な隣国の侵攻、かつて大陸を統治していた国の末裔の決起、政治に不満を持つ民衆の蜂起、そしてリューシスを憎悪し、帝国そのものを破壊しようとする謎の天法士の暗躍。 皇子から大罪人へと転落したリューシスは、数々の難敵に対処しながら、自らを陥れた宰相らへ戦いを挑む。 紅い玉座を巡る熾烈な戦いが始まる。 タイトルは紅き(あかき)龍棲(りゅうせい)の玉座、と読みます。

追放から始まる新婚生活 【追放された2人が出会って結婚したら大陸有数の有名人夫婦になっていきました】

眼鏡の似合う女性の眼鏡が好きなんです
ファンタジー
 役に立たないと言われて、血盟を追放された男性アベル。 同じく役に立たないと言われて、血盟を解雇された女性ルナ。  そんな2人が出会って結婚をする。 【2024年9月9日~9月15日】まで、ホットランキング1位に居座ってしまった作者もビックリの作品。  結婚した事で、役に立たないスキルだと思っていた、家事手伝いと、錬金術師。 実は、トンデモなく便利なスキルでした。  最底辺、大陸商業組合ライセンス所持者から。 一転して、大陸有数の有名人に。 これは、不幸な2人が出会って幸せになっていく物語。 極度の、ざまぁ展開はありません。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ

阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
 どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。  心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。  「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。  「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉

転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい

高木コン
ファンタジー
第一巻が発売されました! レンタル実装されました。 初めて読もうとしてくれている方、読み返そうとしてくれている方、大変お待たせ致しました。 書籍化にあたり、内容に一部齟齬が生じておりますことをご了承ください。 改題で〝で〟が取れたとお知らせしましたが、さらに改題となりました。 〝で〟は抜かれたまま、〝お詫びチートで〟と〝転生幼女は〟が入れ替わっております。 初期:【お詫びチートで転生幼女は異世界でごーいんぐまいうぇい】 ↓ 旧:【お詫びチートで転生幼女は異世界ごーいんぐまいうぇい】 ↓ 最新:【転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい】 読者の皆様、混乱させてしまい大変申し訳ありません。 ✂︎- - - - - - - -キリトリ- - - - - - - - - - - ――神様達の見栄の張り合いに巻き込まれて異世界へ  どっちが仕事出来るとかどうでもいい!  お詫びにいっぱいチートを貰ってオタクの夢溢れる異世界で楽しむことに。  グータラ三十路干物女から幼女へ転生。  だが目覚めた時状況がおかしい!。  神に会ったなんて記憶はないし、場所は……「森!?」  記憶を取り戻しチート使いつつ権力は拒否!(希望)  過保護な周りに見守られ、お世話されたりしてあげたり……  自ら面倒事に突っ込んでいったり、巻き込まれたり、流されたりといろいろやらかしつつも我が道をひた走る!  異世界で好きに生きていいと神様達から言質ももらい、冒険者を楽しみながらごーいんぐまいうぇい! ____________________ 1/6 hotに取り上げて頂きました! ありがとうございます! *お知らせは近況ボードにて。 *第一部完結済み。 異世界あるあるのよく有るチート物です。 携帯で書いていて、作者も携帯でヨコ読みで見ているため、改行など読みやすくするために頻繁に使っています。 逆に読みにくかったらごめんなさい。 ストーリーはゆっくりめです。 温かい目で見守っていただけると嬉しいです。

処理中です...