上 下
189 / 234
〜第十章 メモリア・セディナ〜

178話❅タ〜な〜タ〜なたなたー♪❅

しおりを挟む



 パリィはセクトリアに戻り、パリィの屋敷の庭にその実を丁寧に植えようとしたが、考え直して思いとどまる。
 この実をパリィはセディナと名付けて、魔法の指輪に再びしまった、いつかセディナを再興して元の場所に植えてあげようと思ったのだ。


 そして護衛団、カルベラ隊からの被害状況の確認を聞いてからほっとした、何故なら今日はあれだけの事があったが、それでも幸い死者は一人も出なかった。

 パリィは護衛団とカルベラの者達、そしてクイスにも明日セディナを浄化後、セディナに入り木を全て焼き払う事を指示し支度した。

 アンデット達が居たとしても、浄化すれば魂が天に帰り風化するが、ツリーフォークの多くは形が残る。
 ツリーフォークになってしまった木はまたツリーフォークや、更に凶悪なデスツリーになり易い、その為に焼き払う必要があるのだ。

 パリィがセディナの木に涙を流し叫んだのは、思い出もそうだが風化してくれたからだ、思い残す事があったのだろうか、満たされた様に穏やかな顔になり、風化してくれた。

 パリィはあのセディナの木を焼きたくはなかったのだ。

 翌日パリィは街の建設や農地開拓などを全て休ませ、護衛団、カルベラ、テリングと持てる兵力の殆どを連れて、セディナに向かった。
 周辺を常に巡回させ、異変がないかを監視させる、逃げ出す様な知性的なアンデットや、魔物が居ないかを見張らせた。

 街の入り口ではメーテリアが祈りを捧げる支度をしていた。
 浄化魔法は、単体的な相手なら基本祈りは必要としないが、範囲となれば話は変わる昨日メーテリアが使った『サンクトゥスリオミア』をこのセディナ全体に使おうと言うのだ。


 パリィも祈りを捧げる為に、巫女の衣装に着替えている、メーテリアもあの儀式をするのだ、だがメーテリアはお酒に弱い、いや飲めなくもないが飲めないとも言える。


「パリィ様
私の壺もお酒ですよね?」
メーテリアが不安そうに聞く。

「当たり前です
神様にミルクでも捧げるのですか?」
パリィは静かにメーテリアに言う。

「ミルク好きの神様だっているかも知れないじゃないですかぁ」
メーテリアは既に涙目だ。

(いったい何を話しているのじゃ……)
 ムエルテはパリィ達の前に、恐怖の女神メトゥスも連れて来ていて、メトゥスに言った。

(ムエルテ様……
メーテリアさんから
凄まじい恐怖を感じます)
 メトゥスが頬を赤くしメーテリアから放たれる恐怖を味わい、いつもなら心地よさを感じるのだが、複雑な気持ちになりながら言う。

(……)
ムエルテが言葉を失う。


 メーテリアは思い出した、千年前マルティア時代に開かれたパーティーの時に注がれた葡萄酒を常にパリィにパスしていたのを……。
 パリィも色々と思い出し、今度こそ飲ませる、と思っていた。
 不思議とムエルテが近くにいるような気がして、僅かな安心感だろうか、苦しい過去と向き合っているはずなのだが、安心感もあった。


 別にパリィはお酒が好きな訳じゃない、シンプルにズルイと思っていたのだ。
 メーテリアはクジ運も悪い、お祭りの余興でクジ引いて酒を煽る羽目になった時も、何故か二人セットの様な扱いになっていて、替わりにパリィが飲まされて居たのだ。

 おかげで千年前のパリィはお酒にだいぶ強くなった苦い様な記憶がある。
 更に思い出せば、メーテリアはこの儀式をマルティア国、建国時に一度だけやってそれ以降はしていない、それはメーテリアが回避する事に全力を尽くして居たからだ。

 何故かと言えば、この儀式に使う酒は基本的に『ターナ』と言うお酒で相当強いのだ。


 そして儀式の支度が整い、祈りを捧げる為に白布で覆われた祭壇に入る。
 二人とも、儀式用の衣装でかなり薄く、大人の色に艶を帯びている。

 そして祈りを捧げ終え瞳をあけると、何時もの様に神様に贈る側の盃は飲み干されていた。

(この儀式は
来てみるとなかなか面白い
よく神と向き合おうと考えたものじゃ

そしてパリィの振る舞いもなかなかじゃ
流石天使と言えよう)

 ムエルテがそう言いながら、パリィの前に姿を消して座り、ふとメーテリアの前に座っているメトゥスを見ると、メトゥスが困り果てていた。


 パリィとメーテリアの盃に酒が注がれ、メーテリアはゴクリと唾を飲み、目を見開き凝視している。

(ムエルテ様……
メーテリアさんから
この世の終末を思わせる恐怖が
溢れています)

 メトゥスが静かに言う、恐怖の女神であるメトゥスは恐怖を力とする感情神であるが、まさかこの様な場面でそれを味わえるとは思ってもいなかったので、どうしていいのか解らなくなっていた。


 パリィは自分の盃を手に取り瞳を瞑り、美しく綺麗に飲み干す、僅かに一筋口から溢れた気がしたが、品良く拭い盃を置き瞳を開いた瞬間……。

(なぜ……)
パリィは心で呟いた。

 さっきまで普通に置かれていた、神様側の盃が伏せて置いてあった、溢すなと言う意味である。
 ムエルテが盃を伏せたのだ。

(相方が困っておろう……
自分だけさっさと済ますでない)
ムエルテが笑みを溢しながら呟く。



 パリィは確かに溢した、確実な記憶がある、そしてメーテリアをチラ見したが、メーテリアは依然として凝視して固まっている。


 その一瞬でパリィの盃には酒が注がれていた、ムエルテが素知らぬ顔をしている。

(まさか
メーテリアが飲むまで続く?)
パリィはそう考えた。

「メーテリア?大丈夫?」
声を掛けたが反応がない。

 パリィは神様に小さく礼をして、メーテリアをツンツンと突っつく。


 反応が無いお酒を凝視したまま気絶しているようだ。


(この子って……
お酒がアンデットより怖いの?)
 パリィはそう思い汗を流している。

(死ぬことより怖いみたいです……)
 メトゥスがメーテリアの恐怖の対象に戸惑いを超え、何故か絶望感を感じている。


 そしてパリィはメーテリアの頬を軽く叩いた、メーテリアがハッと起きて、パリィに相当な恐怖を訴えた瞳でパリィに頷いた。

 そしてパリィは席に戻り、先にパリィがお酒を一気に飲む。

(いい飲みっぷりじゃのぉ……)
ムエルテが見ている。


「かみしゃまぁぁぁぁ……」
メーテリアが情けない声で呟き、盃を口に運ぶ。

(はよ飲まぬか……)
ムエルテが呆れている。

「む……無理しなくていいですよ……」
メトゥスが思わず小声で呟く。


「っ!パリィ様
たった今
無理しなくていいと
神様のお告げがありました」

 メーテリアは地獄耳の様にメトゥスの声を聞き取った。

(メトゥス……)
ムエルテが呟きメトゥスを睨む。

(申し訳ありませんっ!)
メトゥスは心で叫ぶように詫びている。


「そんなお告げ聞いたことありません」
パリィはメーテリアを見ながらあっさり否定する、自分だけ二杯も飲み、メーテリアだけ逃げようとしているとしか思えなかったが……その一瞬でムエルテがまたお酒を注いだ。


「なっ‼︎」


 メーテリアがしぶしぶ一気に飲み干し、それは起きた……。


「タ~ナ~タ~ナ~タナタナタ~ナ~」


 メーテリアが歌い出し壊れた。


 パリィはまたお酒を一気に飲もうしたが、それを聞いて思わず吹き出してしまう、もう溢すどころでは無い。

 パリィが吹き出したお酒をムエルテはあっさり躱す。

「キャハハッ
パリィ様汚いですよっ!

ってムエルテ様いらしてたんですか?」
メーテリアがムエルテを指差して言った。

(なっ!こやつ妾が見えるのかっ‼︎)
ムエルテが驚いた。


「えっ……
ムエルテ様……って盃を伏せたのは
ムエルテ様なのですか」
パリィが戸惑いながら言う、ムエルテがそういうことをする神には思えなかったからだ。

「こっちの神様はだれなんですかぁ?」

 メーテリアが恐怖の女神メトゥスに抱きつこうとしてムエルテに聞いた、既にただの酔っ払いである。

(ちょっちょっとっ‼︎)
メトゥスはスルリと避ける。

「えっ……
他にも神様がいるの?」
 パリィがメーテリアが抱きついてると思われる、メーテリアの腕の中を見る。


「楽しませてもらった
祈りは聞き入れるゆえ好きにするが良い」
ムエルテがそう言いその場を去ろうとする。

「ムエルテ様っ」
メトゥスが姿を表し、慌ててムエルテを追って去って行った。


「また来て下さいねー‼︎
タ~ナータ~なーたなたなたーな~」
メーテリアがそう言い歌いながら倒れた。


「ちょっお待ち下さいっ!
お話がっ‼︎」
パリィが呼び止めようとしたが。


「タ~な~タ~なたなたー♪」

 歌いながらメーテリアが抱きついて来た、完全なる酔っ払いである。

「パリィしゃま~
まだ飲めてないんでしゅか~」

 パリィは思い出した千二百年前、マルティア建国の時にメーテリアが、儀式の布の中で倒れて寝ていたのを……。

 あの時は忙しくて、何故かは調べなかった、この前クイスが白獅子の話をした時も酒を断っていた。


 パリィはいつのまにか注がれていた盃を仕方なく急いで煽り、盃を置いた。

「パリィしゃま溢しちゃいましたね。
お酒はこうやって飲むのですよぉ~」
 メーテリアはそう言い、自らの盃に手酌して一気に飲み干し、そのまま倒れて寝始めた


 生まれ変わって千年前より、お酒に弱くなっている自分に気付く、だがそれは仕方ない。
 あの時のパリィは三千歳は超えていて、立派な大人の女性だった。
 今はまだ七百歳のパリィ、エルフで言えば十七、八と言った所だ、神聖な儀式やクイスの様に他国の高官に進められた時にしか口にしないが、やはりかなり辛いようだ。

 それでも、少しふらつきながら立とうとしたとき、パリィの前の石碑にムエルテと彫られてパリィはホッとしたが、複雑な気分になる。
 そしてメーテリアとこの儀式は二度としないと心に誓ったのは言うまでも無い。


 だがセディナに千年ぶりに、明るい歌声が響き渡った。
 まるで新しい喜びが生まれるかの様に……。


「タ~な~タ~なたなたー♪」


 メーテリアが寝たまま歌っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

さようなら、家族の皆さま~不要だと捨てられた妻は、精霊王の愛し子でした~

みなと
ファンタジー
目が覚めた私は、ぼんやりする頭で考えた。 生まれた息子は乳母と義母、父親である夫には懐いている。私のことは、無関心。むしろ馬鹿にする対象でしかない。 夫は、私の実家の資産にしか興味は無い。 なら、私は何に興味を持てばいいのかしら。 きっと、私が生きているのが邪魔な人がいるんでしょうね。 お生憎様、死んでやるつもりなんてないの。 やっと、私は『私』をやり直せる。 死の淵から舞い戻った私は、遅ればせながら『自分』をやり直して楽しく生きていきましょう。

転生したら死にそうな孤児だった

佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。 保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。 やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。 悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。 世界は、意外と優しいのです。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。 【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】 地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。 同じ状況の少女と共に。 そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!? 怯える少女と睨みつける私。 オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。 だったら『勝手にする』から放っておいて! 同時公開 ☆カクヨム さん ✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉 タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。 そして番外編もはじめました。 相変わらず不定期です。 皆さんのおかげです。 本当にありがとうございます🙇💕 これからもよろしくお願いします。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

処理中です...