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〜第十章 メモリア・セディナ〜

175話❅エミリィ・メモリア❅

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(メーテリアちゃん?)
パリィが振り向いたが、メーテリアは素早く魔法で姿を隠しそして見た。

 パリィの右目が黒い瞳をしていた、左目は何時もの空色の瞳。

(ちゃん……私の事を?
パリィ様だけど……)
メーテリアが不思議に思い隠れようとする。

(メーテリアちゃん
隠れても見えてるから遊ぼ?)

 魂のパリィがそう言いながらメーテリアに近づいて来た。


(まさかその瞳……)
メーテリアは真剣な目つきで、ふっ!と息を吹き、霧を起こした。

 その霧はパリィが起こす霧よりも更に深い、ネブラの魔法だった。

(エミリィ様!
お産れになられたら沢山遊びましょう!)
メーテリアがそう叫ぶと。

(はーい
約束だよー!)

 パリィの明るい声で聞き分けの良い返事してきたのを聞きながら、メーテリアはパリィの心の中から急いで帰って来た。


 メーテリアは魔法を解き自分の体に戻ると、パリィが自分に抱きつく様に眠っているのを見て、抱きしめてパリィの頭を撫でた。

(パリィ様……)
変な想いもなくそう心の中で呟いた。

 パリィは何百年、いや千年前から気付かずにエミリィと共に過ごして来たのだ、間違い無くあの右目の黒い輝きは、ダークエルフの瞳。

 ダークセンスと言う力を持つ瞳で、キリングはその能力を最大限に引き出して、闇夜に姿を隠した亡者さえ見抜いていた。

 メーテリアが魔法で姿を消しても、エミリィがキリングの力を受け継いでいれば、簡単に見抜かれてしまう。

 エミリィはパリィのお腹の子が女の子だった時にとパリィが考えていた名前だ、メーテリアがエミリィと呼んで返事をした。
 やはりそうなのかな、と考えてるとパリィが起きた。


「頭の中が……
もやもやするんだけど
メーテリア何かしたの?」
 パリィが虚な瞳で起き頭に手を当てながらメーテリアに言う。

 当然であるメーテリアがエミリィとの距離を取る為に、ネブラの魔法でパリィの心の世界を真っ白な濃霧にしたのだ、頭がもやもやしてもおかしく無い。

 パリィの瞳は両眼とも綺麗な空色の瞳をしていて、メーテリアはホッとした。
 パリィの魂にエミリィも居る、エミリィは霊的な存在で全く別の魂なのか、それともパリィの魂と完全に一つになっているのか解らない。
 もしくはパリィの心が生み出した、もう一人のパリィなのかも知れない。

「メーテリア?」
パリィが考えているメーテリアを呼ぶ。


「はっはい……
パリィ様の心の世界で
ネブラの魔法を一吹きしました」
メーテリアが正直に言う。


「何の為に?
私がメーテリアに何かしたの?」
パリィは汗をかきながら聞く。

 メーテリアは悩んだ、伝えるべきなのか、そっとしておくべきなのか、メーテリアが悩んでいる、珍しいと思いきっと何かあったんだとパリィは確信した。

「一つ聞くけど
絶対に今知らないといけないこと?
聞かなくてもいいことなの?……」
パリィが聞く。

「知らなくても大丈夫だと思います
今までのパリィ様でいられると思います
それにパリィ様は
生まれ変わられてまだ七百歳
エルフで言えばまだ十七歳か十八歳ほど
まだお若いので
周りの人に変に思われる事は
無いかと思います。」
メーテリアが考えながら言う。

「そう……
なら知るべき時が来たら教えてね」


「それは……あえて言いますが
近いうちか先の未来か解りませんが
パリィ様が気付かれるかも知れません。
パリィ様の夜目は
千年前も素晴らしかったですが
生まれ変わられた後は如何ですか?」
メーテリアが逆に聞いた。


「え?前みたいに見れるけど何で?」


「きっといつか
パリィ様は驚きますね」
そうメーテリアは微笑みながら言った。

 パリィは?と言う不思議そうな顔をし、気になるがその様子を見て、メーテリアはニヤッとして。

パリィに抱きつき、

「あんまり気にしてると襲っちゃいますよ~」
 メーテリアはそう言い、パリィを布団の中に引き摺り込みパリィと戯れ合うように遊んだ。

 まるで小さい子供とふざける様に、パリィもそれに付き合い、千年前と違い何故か楽しい気がした。

 幼いエミリィも楽しんでいることをメーテリアだけは解っていた。


 セクトリアではパリィがクイスに頼んで、クイスとクイスの兵はセクトリアに滞在する事になった。
 翌日、クイスの兵は農地開発を手伝ってくれる事になり、パリィは朝から祈りを捧げる為にシャナの森へ向かった。

「パリィ様
お待ちしてました」
グラム達が既に待っていた。

 グラムも名をパリィから頂いたせいか、似合わない言葉遣いをしているのがパリィは気になって言う。

「いつも通りで良いですよ
少し荒っぽい方が
グラムさんには似合ってますから」
パリィは微笑みながらそう言うとグラムは小さく笑った。

 護衛団はグラム達を僅かに警戒する、仕方ないかも知れないが共に作業をして打ち解けてくれる事をパリィは期待した。

 護衛団達はお祈りの支度をして、パリィはお祈りを始め、無事に何事もなく祈りを捧げ終え木を切り出して行った、そのついでにパリィは苗木用に木の実を集める。

 平穏な一日が過ぎて行く。

 だが時折セディナから吹く風がやはりパリィには気になった。

 乾いた死肉の臭い、パリィだけが感じ取れる程の僅かな僅かな臭い。

 パリィは護衛団に集めた木の実を預けて、暗くなる前に戻ると伝え、一人でセディナに向かった。

 ピルピーもパリィだけと出かけるのは久しぶりだったせいか、何時もより元気な気がした、だがセディナに近づくにつれてピルピーが気を使い始めるように走り始める。
 パリィはセディナの近くまで来て、ピルピーを歩かせながら遠目でセディナの様子を伺う。


 かつて栄華を誇った北方地域、極北地域最大の都市は人気の無い不気味な廃墟と化している。
 そしてまたセディナから風が吹きパリィは確信した。
 獣や鳥すら居ない、異常だと言う事をパリィは確信した。


 パリィは考えた。


一つは浄化が必要だと言う事。
一つは魔物が住み着いている事。
一つは放って置けば災いを齎す。


 このまま行くか引き返すか。

 ピルピーはケルピーで強力な水の魔物でもある。

パリィに懐いて一緒に戦ってくれる、セディナを悲しく厳しい目つきで見つめるパリィにセディナから強い風が吹き、白い髪を靡かせている。
 パリィは相手の魔物にもよる事を考えて、引き返す事にした。

 セディナに住み着いてる魔物は、まだセクトリアとカルベラには気付いていない、いや気付いていてもセディナから出れないのかも知れない
 パリィは多くを考えながら、セクトリアに帰った。


 大分長い間セディナを見つめていたようで日が沈みかけている。
 夕暮れ時の美しいオレンジ色の光を悲しみに染める様な、セディナからの風が嫌な臭いを運び吹いていた。


 パリィはその晩、護衛団にセディナ方面の監視を怠らない様に指示を出した。


「メーテリア!
明朝セディナに行きましょう
魔物が住み着いています……」
パリィがメーテリアに言う。

「セディナに?
隊は連れて行きますか?」
 メーテリアは、これだけ近くで魔物がいて襲って来ない、それが不思議に思えた。


「護衛団二百を集めて下さい
セディナ内部には
私とメーテリアだけで行きます
護衛団はセディナ外部で待機させます」
 パリィは自宅にいるメーテリアにそう言うと、バイトに知らせに行きバイトと共にクイスの所に向かった。

 クイスは驚き、デリングの兵も送ると言ってくれたが、パリィは街の守りをお願いした、もし何かあってクイスの兵に死者を出させたくなかった。


 翌日朝早くから、魔物討伐の支度を進め明るくなってからセクトリアを出た。
 僅か二百ほどの護衛団がマルティアの旗を掲げる、念の為に大量の油を用意した。

 最悪の場合セディナを焼き払う気持ちでいた。

 千年前、パリィが守れず廃墟となり魔物の巣窟と化してしまったとしたら、アンデットの可能性が極めて高い。
 つまりマルティアの民がアンデットになってしまったとしたら、彼らを焼き払わなければならない、パリィは極めて複雑な想いでいた。


「セディナにゆくか
まぁ良い
そなたの罪……
目の当たりにするが良い

妾が許さぬと言った訳を
その目に焼き付けるが良い……」

 ムエルテがセクトリアに建てられた教会の屋根からパリィ達を見つめていた。
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