178 / 234
〜第十章 メモリア・セディナ〜
167話❅走る二人❅
しおりを挟む「あーっ‼︎
どうやってお父さんを
お母さんとくっつければいいのよっ‼︎」
ユリナが椅子に座りどうしようもない事を悩んでいる、机には紅茶のセットが二人分用意されている。
ここはセクトリアの外れに立てられた小さな家で、ユリナはパリィの民に紛れ込んでパリィを見守っていた。
机には銀の皿に水がはってあり、その水面にパリィの姿が写っている。
(ユリナさん
難しいと思いますよ)
オプスが闇の神剣暗黒の中で言う。
(この世界は前の世界と違います
エレナさんが創造した世界です
過去の記憶は殆どが流され
みんな新しい人生を歩んでいます
それに最高神のエレナさんと、結婚するようにセルテアさんに
神の啓示を示したところで……
人間として
新しい人生を送ってるセルテアさんは
戸惑うと思いますし
エレナさんにユリナさんが絶対神として示したとしても……
エレナさんはなんで人間と?
と思うでしょうし……
エレナさんの記憶が戻らないと難しいですよ)
オプスが微笑んで言い姿を表しユリナの向かいに座る。
「ちょっと何か方法を知ってるの?」
ユリナが聞く。
「はい……
考えがあります
ですからそっと
見守ってあげて下さい」
闇の女神オプスが言い紅茶を一口くちにし、ユリナが何かあるのか聞こうとした時、それを遮るように更に聞いた。
「それよりユリナさん
オディウムは探さなくていいのですか?」
「えぇ……
あいつは必ずお姉ちゃんの所に来るわ
オルトロスが地上で勝てないのは
お姉ちゃんだけ……
だからオディウムはお姉ちゃんを必ず倒しに来る……」
ユリナはそう言い水鏡に写るパリィを見守っていた。
春になったが雪はかなり残っている、流石極北地域である、北方地域はだいぶ雪溶けが進んでいる頃なのだが、春の日は高くなっているも、まだまだ残雪が残っている。
パリィの家もようやく出来た、みんな村の人達と同じ様に質素な家で良いと言ったのだが、村の人々とバイトが来客時に困ると言い、小さくも屋敷と言える家を建てくれた、中にも応接用の部屋まで作ってくれている。
(うーん……
あと何年?十年?かは
誰も来ないと思うんだけどなぁ……)
そう思いながらパリィは新しい家を見回していた。
何故かと言えば、まだこの周辺を調べてはないが、パリィの記憶では村や街は無い、近くて二日の距離に村があるはずだが、それも千年前の記憶で今もあるかは解らない、そう考えて周辺を調べようと思っていた。
そして、護衛団十名一組で二組編成して三日分の食料を持たせ周辺の探索をしてもらうことにした。
食料は確かに不足し始めているが、村や街を見つけ交流を持てれば、パリィが持って来たお金で買い付ければいい、そうとも考えていた。
「パリィさん
ちょっと思ったんだけど……」
「なに?テミア」
「私達が来た東の街道って
ずっと使われて無かったよね?
でもアイファスには
極北からの物がたまに流れて来てたけど……
何処から来るの?」
テミアが聞いている。
「山を登って
尾根を通って来る道があるんだけど
猟師しか使わないかな……」
そうパリィはいい、ふと思った。
カルパシアの村はまだありそうな気がした。
カルパシアの村はグラキエス山脈にある、カルパシア山の中腹にあり、猟で生計を立ててる村だ、アイファスの街でカルパシアの名産をたまに見ていたのだ。
此処からだと十一日程かかる。
パリィは暖かくなり、雪が減ってから行こうと考えた、まだ山の方は雪深く、雪溶けが始まると雪崩の危険性も高い、とても危険である。
そう思いながら外を眺めていると、遠くをセドが走っていた。
何をしているのかとパリィは目を点にして見ていた。
「セド大丈夫?
熱でもあるのかしら……」
少しパリィは心配したが、元気そうな為に変わったものを見るような視線で暫く眺めていた。
そして気付いた……
雪が溶けかけて重くなっている、その中をセドは足を取られずに走っている、かなり前傾姿勢だが、雪の中として見れば速いのが解る。
えっ、とパリィは目を疑う、あの速さであの中をパリィは走れる気がしなかった、パリィは外に飛び出して、同じように道の無い深く重い雪の中で走ろうとした。
この前グラキエス山脈で雪を投げ合った時の様に動けない、パリィは走ろうとするが、やはり速く走れない、そのパリィに気付いたのかセドが走って来た、息を多少切らしているが、さほど疲れてはいない様だ。
セドの努力を目の当たりにした。
「やってみるか?」
パリィはそう言われて頷いて、走り始めるがズボ!ズボ!と足を取られる。
「違う違うちょっと見てな」
そう言いセドが走り始める、さっきと同じ速さを最初から出している、よく見るとセドの足は沈み切っていない。
深く重い雪に完全に足が沈むと、足を取られるのだ、それを無理に足を速く前に出そうとする為に前傾姿勢になる、悪く言えば倒れかけている姿勢を倒れる前に足を出しているのだ。
パリィは理解したが、出来る気がしなかった、剣を振った時に様々な姿勢になるので、理屈で解ったがあの姿勢を保つには相当な腹筋が必要なのが想像出来た。
セドが戻って来て言った。
「パリィなら出来ると思うぜ
元々速いんだろ?
なら沈む前に足を出す事を考えてやってみな」
そう言われてとりあえずやってみる事にした、最初の一歩から全力で。
サッ……
(えっ……)
意外と走れた自然と前傾姿勢になる、思ったより腹筋は使わない、セド程では無いが、走れていると考えた瞬間。
足を取られた。
「うわぁ!」
パリィは可愛い悲鳴をあげて、前傾姿勢のまま雪に突っ込んだ、はたから見れば無様な姿でおかしな突っ込みかたをしていた。
(なにやってるの……)
ユリナが不思議なものを見るように水鏡に写るパリィを見てそう思っていた。
「はははっ!
俺もそれやったぜ!」
セドが思いっきり笑っている。
パリィは顔を赤くして雪を払いながら立ち上がる。
「今余計なこと考えただろ!
走れたとかさ
慣れてないのにそんな事を考えるから足が沈むんだぜ
最初は集中して無心でやりな」
「もう、最初から言ってよ!」
パリィは半分怒っている。
「でもやっぱり凄いなパリィは
俺はその転び方するのに
五十年かかったんだよ……
走れた時に嬉しくてさ
パリィと違って喜んでたら今みたいに顔から突っ込んだぜ……
それを見ただけでやったんだからな」
セドがそう言った。
別に転び方を教わった訳じゃないが、何となく褒められた気がした。
「さっ後は練習練習!
集中しろよ!」
セドがそう言い二人は走り始めた。
気づけば暖かい日差しの中、キラキラと光り輝く深い雪原の中を、二人はいつまでも走っていた
パリィの気持ちの疲れも気づけばすっかり取れていた。
その日の晩……。
「この中を走ってたのお姉ちゃん……」
ユリナが試しに走ろうとしているが、女神でなく、エルフとして走ろうとするが、足を取られ顔面から転ぶこともできず、ズボズボと足が沈む。
そして雪の下にある何かにつまずき、身体全体で倒れ雪に埋まる……。
「さすがお姉ちゃん……」
ユリナが呟き深雪の中でもがいている。
その様子を天界から恐怖の女神メトゥスが見ていた。
「ユリナさん……
何してるのかしら……」
そう呟やく。
「見るでない
阿呆がうつる……」
ムエルテが呆れながら現れる。
「助けなくて良いのですか?」
メトゥスが心配して言う。
「あやつは阿呆じゃ
いやっ
紛れもない馬鹿かも知れぬ
あんな暗黒などを背負い
あんな場所を走れるエルフがどこにいる?
神剣かも知れぬが
斬馬刀であるぞ
その重みで雪に埋まっておるではないか?
そのうち諦めて
女神として立ち上がるであろう?
ほうっておくがよい」
ムエルテは呆れ散々に言う。
「ユ……ユリナさん……」
恐怖の女神ではあるが恐怖を一切感じさせないメトゥスが、ユリナを心配してくれおどおどしながら見守っていた。
「あとこの事は
他の神々に言うでないぞ
絶対神のテンプスが
雪に埋れていたなんぞ
口が裂けても言うでないぞ……」
ムエルテはそう言いながら、メトゥスの首に大鎌の刃を当てていた……。
「はっはいっ‼︎」
メトゥスが怯えて返事をする。
(私より怖いんですけど……)
メトゥスは心からそう思っていた。
「それで良い……
妾はエレナにようがあるのじゃ
せいぜいテンプスを見守ってやるが良い」
ムエルテはそう言い天界にあるエレナの屋敷に向かって行った。
その後ユリナが諦め、女神として立ち上がるまでメトゥスは心配しながら見守っていた……。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
マーラッシュ
ファンタジー
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。
左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!
武蔵野純平
ファンタジー
大手企業に勤める平凡なアラフォー会社員の米櫃亮二は、セクハラ上司に諫言し左遷されてしまう。左遷先の仕事は、移動販売スーパーの運転手だった。ある日、事故が起きてしまい米櫃亮二は、移動販売車ごと異世界に転生してしまう。転生すると亮二と移動販売車に不思議な力が与えられていた。亮二は転生先で出会った孤児たちを救おうと、貧乏孤児院を宿屋に改装し旅館経営を始める。
欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう!
そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね!
なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!?
欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!?
え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。
※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません
なろう日間週間月間1位
カクヨムブクマ14000
カクヨム週間3位
他サイトにも掲載
拾って下さい。
織月せつな
ファンタジー
あの、大変申し訳ないのですが、私にも理解出来るように噛み砕いた形で説明して下さい。
異世界転移もの。
神さまの出現もなく、死んだのかどうかも分からない状態で、どうやら異世界にいるらしいと理解した主人公が、自分の居場所を求める物語。
異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!
明衣令央
ファンタジー
糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。
一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。
だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。
そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。
この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。
2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。
異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜
KeyBow
ファンタジー
主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。
そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。
転生した先は侯爵家の子息。
妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。
女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。
ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。
理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。
メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。
しかしそう簡単な話ではない。
女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。
2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・
多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。
しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。
信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。
いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。
孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。
また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。
果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる