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〜第九章 メモリア・白き風〜

165話❅帰還❅

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 二日後グラキエス山脈をもう暫くすれば越える地点まで来ると、目の前には一面に雪原と真っ白に雪をかぶった森を見下ろせる場所に出た。


 極北地域だ。


 ここから北東にある森を七日程進めば、平原にでる、すると目の前に千年前のマルティアの首都セディナが見える。

 パリィはセディナを目指した……

 この森はシャナの森と言って、冬でも豊かな恵みを得られる極北地域で最も南にある森である。

 森に入り雪馬車の通れるルートを探りながら進む、千年前は森を抜ける道があったが、使われなくなったのだろう。
 痕跡はあるが雪馬車が通れる程の広さは無い。


 パリィは深呼吸をしてある物の匂いを探る、それがある為に千年前に首都セディナの位置を決めた。

 その匂いは心地よくパリィの肺を満たして行く、パリィは向かう位置を決め進んでいく。
 千年前と変わらず、雪の積もっているシャナの森は静かで、鳥の鳴き声が安らぎを与えてくれる。


 五日後シャナの森を大分奥深く進む、雪解けも進み始めている、春がゆっくりと訪れようとしているのが良く解った。

「パリィ
あのキノコは食べれるのか?」
セドが聞く。

「あれはサキダケ
毒消のキノコで食べれるけど
薬にするキノコで凄く苦いの
食べてみる?」
パリィが楽しそうに言う。

「やめとく……」

 あれからセドはパリィと話す様になった、セドが見つけたキノコでもパリィは収穫して行く。

 パリィはその為に馬に乗らずに歩いてるのだ、こうやって採取しながら森を進んで行く、セディナに着いたら、すぐに村づくりをしなければならない、その為に倒木を見つけては資材に使えるかも確認しながら進んでいる。その為に雪馬車は常に薪で一杯である。

 シャナの森とセディナの間は馬を走らせて半日程の距離がある、パリィは悩んでいた、セディナがあった場所に村を作るか、それとも手前にするか……。


 セディナもベルス帝国に落とされてしまった時に多くの命が奪われたのは予想が出来る、今どうなっているのか想像ができない、その為にパリィは悩んでいた。


 そしてシャナの森を抜け、目の前に雪原が広がる、遠くにセディナが見える。

 パリィの目には様子がよく見えた、廃墟の屋根が城壁の向こうに見える。

 かつての賑わいを予想出来ない程、セディナは静かな廃墟となっていた。

女王の帰りを迎える者達は居ない、いや、居るかも知れないが命ある者達では無いだろう、そう思わせるには十分な程に荒れていた。


「帰って来ましたね……」

バイドが声を掛けて来た。

 バイトはこのシャナの森での七日間、パリィが三日に一回夢に魘されていたのをテミアから聞いていた、シャナの森も千年前の古戦場が転々とあったのだ。

「えぇ帰って来ましたね……」

 パリィは疲れを見せながら言う、夢を見る度にその苦しみを受け止めて来た、今、セディナに行くのはどうなのだろうか少し不安を感じていた、とは言え決めなければならない、食料も考えなければならない、出来るだけ早く村を作り簡素でも、農地を作らなければならない。
 この地域で育つ作物を出来れば少しでも収穫はしておきたい、それを考えれば時間はあまり無いパリィは悩んでいる。

「新しく作るんだろ?
セディナは落ち着いてから見にいけば良いんじゃないのか?」
セドはパリィの疲れを感じてそう言ってくれた。

「パリィ様
セドの言う通りです。
パリィ様が倒れられては皆が心配します。
一度セクトリアに村を築き
休まれてからでも遅くは無いかと……」

 バイドもそれに応じる様にセクトリアを進めて来た。


 確かにセクトリアならここから暫く進めば着く、そしてグラキエス山脈から流れる川に面している土地で、農地にも適している。

 パリィは悩んだがシャナの森から東に沿って進み、セクトリアに向かった。




 その頃南方のテリング国のセルテアの元に、パリィ達が旅立った知らせが入った。

「そうか……
パリィ殿は極北に入ってる頃か……
クイス!
北方地域までの道を整備させよ」
セルテアは大臣に命じた。

 その大臣はアイファスにセルテアと共に使者として行った、セルテアに支える中心であった。

「かしこまりました
パリィ様が今どちらに居るか
あの地図で見当が着きますので
使者を送りますか?」
クイスが言う。

「あぁ頼む……
手土産に食料
麦などを多めに持って行ってやってくれ
その他はクイスに任せる」


「解りました
直ぐに手配を致します。」
クイスは喜びながらその場を立ち去る。

 クイスもセルテアがパリィに想いを寄せている事を知っている、陰ながらセルテアの想いを応援していた。


 テリング国からアイファスまでの道は整備されていない、南方の国々は北方地域に関心があまり無いのだ。
 その為に、密偵や使者を送っても情報を掴むのにも時間がかかる、セルテアはそれに不満を感じた。


 もし千年前のマルティア国が再建し、当時と同じ規模に成長した場合。

 今の時代にはベルス帝国の様な強大な国が存在しない為に、大陸最大の国になる。
 千年前のマルティア国とベルス帝国の戦いは大陸の命運を左右する戦いでもあった。
 

 帝国主義のベルス帝国に侵略されて行く国々、ベルス帝国の軍事力の前に戦う前から平伏す国もあった。

その中で、マルティア国は大陸でベルス帝国よりも僅かに国土が劣る程度で、平和主義であった。
 更にパリィが国を守る戦で多くの勝利を重ね、国を守り続けていた。
『白き風』の名は北国から大陸に広まっていた。

 南方のベルス帝国を恐れた国々は、ベルス帝国がマルティア国に侵攻する事を知り、『白き風』に希望を寄せていたのだ。

 だが、パリィはベルス帝国と戦う事なく自ら命を絶ってしまい、結果マルティア国は滅亡、大陸全土に絶望が走ったのだ。
 それからベルス帝国が完全に消滅するまでの二百年間は暗黒時代と言われた。

 セルテアはその歴史を良く学んでいた。

 そしてパリィと出会い、かつて大陸全土の希望を集めた者が再び立ち上がろうとしている、大陸南部では国々が未だに争っている。

 いつ秀でた者が現れ、勢力を拡大していくか解らない、その者達がもしパリィがマルティアの女王、本人である事を知れば利用しようとする者や驚異に思う者も居るだろう。

「守らねば……」
セルテアは静かにそう呟いた。

 そして、王位継承の意思を国王に話し、国王は喜び三カ月後に、王位を継承する事になった。


 パリィ達はセクトリアに着きすぐに村づくりが始まり、七日が経った。
 既に簡素な家が建ち始めている、テミア姉妹がドワーフの力を見せるかの様に、指示を出している。
 護衛団はシャナの森に使える倒木を探しに行く、そんな中でパリィは綺麗な儀式用の衣に着替え、上着を羽織り護衛団に着いて行く。

そして供物も用意している……

 ここまでの間に使える倒木を探しながら来たが、直ぐに使える物はわりと少なかった、村を作るのに木が倒れ、倒木になるのを待ってはいられないので、仕方なく木を切る事にしたのだ。

 ピルトのお爺さんとお婆さんが居れば容易な事だが、アイファスの東の林に木を植える為に今はいないので、森の精霊と神々に祈りを捧げるのだ……が……

 パリィは内心ヒヤヒヤしていた。
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