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〜第九章 メモリア・白き風〜
157話❅引越し❅
しおりを挟む「また国を作るとな……
自分に不向きなことを
またするのかのぉ……」
その様子を空からムエルテが見て言う。
「そう?
お姉ちゃんなら大丈夫じゃないかしら?」
ユリナがムエルテのすぐ側にいて言う。
「まぁお主よりマシだがな……
そなたらの中ではエレナだけじゃ
ユリナもカナもその器は持っておらんぞ……」
ムエルテが絶対神であるユリナに対して言う。
「そんなハッキリ言わなくても
解ってるわよ」
ユリナが顔をひくつかせながら言う。
ユリナの方が神としての格はムエルテより遥かに高いのだが、ムエルテの方が神として遥かに先輩であり、ユリナは時折ムエルテに教えてもらっているのであった。
そのこともあり、長い付き合いになり二人は友達の様な関係になっていたのだ。
「そうなれば……
パリィが産むはずだった娘に
命を与えてやらねばならないのぉ……
あの者はエレナと同じ器を持つ
血は繋がらないが
魂はしっかり繋がっておる
不思議なものよのぉ……」
ムエルテがそう微笑みながら静かに言った。
「お母さんが優しかったから……
血の繋がりなんて関係なかったよ
私とお姉ちゃんは
お母さんに育てられたんだから……」
ユリナが優しい表情で静かに言っていた。
パリィが号令をかけてから三日経ち、パリィ達はアイファスに住むことになった。
ピルトのお爺さんとお婆さんは、パリィの小屋に戻って行っていき小屋の番をしてくれている。
アイファスの街は三分の一が破壊されたが、多くの物資は残されていた。
セントクルスの街は占領後に領土としてここを治めるつもりだった様だ。
バイトが魔術により、セントリアの兵が向かっていることを素早く察知し、街の人々に素早く伝えてくれた、そのおかげで死者は少なかった大半の住民は素早く逃げていた。
護衛団もその知らせを聞いて、僅かな時間に出来るだけ傭兵を集め抵抗出来たのである。
「長、支度が整いました。」
パリィに護衛団が知らせて来た。
パリィは今、何時もの宿屋の離れに住んでいる、この離れは普通の家と変わらなく、自炊も出来る様になっている為に、不便は無いが、街の長になり護衛がついて回るのが不便を感じる、パリィが女王だった時に慣れて居たのだが……生まれ変わった為であろうか、パリィは不便に感じていた。
「解りました行きましょう。
あと
パリィさんでいいですよ
皆さんにそう伝えて下さいね」
パリィは気を使いながら優しく言う。
明日はパリィの小屋から荷物を運び出す、言わば引越しである。
パリィ達は護衛団と小型の馬車を五台を引き連れ、まだ日の登らないうちにアイファスから小屋のある森に向かった。
「パリィさん
馬車が少し多く無いですか?
そんなに荷物あったけ?」
テミアが聞いて来た。
「薪があるでしょ
一冬分あるけど半分は残して
あとはアイファスで使って貰おうって」
「薪?」
テリアが不思議そうに言う。
「うん……
アイファスで最初に足りなくなるのは
薪だと思うの
三日前にピルトの爺様達が持って来てくれた木は、家を失ってしまった人達の越冬の為だけの小屋に使ってるでしよ。
それにその人達の為にお風呂や食事を用意するのにも薪が必要だから、うちにある分でも全然足りないけど、無いよりはいいから。」
それを聞いてテミアとテリアはなるほどと言う顔をした。
そして、暫く走り昼前に護衛団と共に食事を取り急いでパリィの小屋に向かう。
昼過ぎには小屋の前の脇道に入り、暫くして小屋に着いた、パリィ達は馬車三台に薪置き場から薪を積む様に指示をだし、パリィと三人は木箱に小屋の荷物を整理して詰めていく。
外では護衛団達が、パリィのため込んだ薪の量に驚いている。
テミア達が来てからまだ一ヶ月も経って居ない、つまりほぼパリィ一人で貯めたのだ、 パリィの働き者ぶりが簡単に予想できる。
流石に護衛団は、薪を積むだけなら作業が早い、暫くして手持ちぶたさになった様だが、パリィ達が荷物を詰め込んだ木箱を今度は、馬車に積んで行く此方の方が気を使うらしかった。
そして日が暮れる前にパリィは、全員の食事の用意を始める。
二十名分の食事を一度に作るのは大変な作業だが、パリィは外でスープを作る様に焚き火を焚き料理を作り始める。
料理を作るパリィを皆は可愛く思い、意外に家庭的な面も強く持つパリィに、多くの者が惹かれて行く。
そんなことはお構いなしに忙しくパリィは料理を作り、今夜の分の薪を薪置き場から出す様に何人かに伝える頃には、護衛団は夜営の支度もほぼ終わらせていた。
そして日が暮れ、今日の作業を終え皆が焚き火を囲み、パリィがやっと出来た料理を全員に振る舞った。
「これまだ貰えますか?」
「はーいまだ沢山あるからね、いっぱい食べてねー」
明るいパリィの声が、三日ぶりに森に響く、料理の味は評判が良くみんなおかわりしてくれる。
今は伝わってない、千年前の干し肉を使ったスープがとても好評で、大分多めに作ったにも関わらず、すぐに売り切れてしまった。
だが十分だった様で、何人かが見張りをし、皆がゆっくりと休み始める。
何人かが、パリィの小屋の前後に立っているピルトのお爺様とお婆様に気付いて、気を使って木に向かい、三日前に沢山の倒木を運んで来てくれた事に礼を言って頭を下げている姿を見て、パリィは優しく微笑んでいた。
次の日には必要な物全て摘みある程度の荷物を残し昼前には小屋を出た。
帰りパリィは馬車で無く馬を走らせた。
空気が冷たくなっている、風が速く空を走っている。
明日は雪が降りそうだ、そう思いながら馬を走らせていた、何事もなくアイファスに着く。
「パリィさん!
あの剣士が目を覚ましました!」
護衛団の一人がパリィに知らせて来た。
実はあのアイファスをセントリアが襲って来た時、パリィと互角に戦った剣士は息があったのだ。
護衛団がとどめを刺そうとした時、パリィが助ける様にとそれを止め、今まで意識が無かったのだが、目を覚ましました様だ。
いま彼は護衛館に拘束されている。
「解りました。
すぐに行きますね……」
パリィは彼がまた剣を持てるのかを心配していた。
ダークエルフもエルフと同じ位生きるが、あれだけの剣を使う者は滅多に居ない、千年前に英雄の様に謳われたパリィと互角に戦ったのだ。
彼は見たところ傭兵だ、セントリアにあれだけ腕の立つ者は居ない、もしアイファスの者になってくれるなら、話次第では、心強い仲間になってくれるかも知れない、そう考えていた。
護衛館につくとバイトが、彼の様子を見ていた、バイトはパリィに頼まれてパリィの補佐をしている。
「彼をどうするんですか?
見た所落ち着いては居ますが……」
バイドが聞く。
「それは彼次第です……」
パリィが静かに聞いた。
「私はマルティアに居ました……」
バイトがそう言うと、パリィは振り向き納得した顔でバイトを見た。
「お優しいパリィ様に多くの方が惹かれます。
ですが
それ故にパリィ様が命を落とされたのも私は知っています。
どうか私の心配を理解して下さい……」
バイトはこの時パリィを女王として見て接していた。
「やっぱり……」
パリィは、バイトが魔法道具屋としての時も、サービス精神旺盛で過剰にサービスしてくれている気がしていたが、邪な感じはしなかったので、もしやと思っていた。
「大丈夫ですよ
私の命を狙って来ても必要があれば
今度は彼の首を斬りますので……」
パリィは優しい声でそれでいて哀しい瞳をしていた。
「これを」
バイトがパリィに小さな手鏡を渡した。
「これは、あの時の鏡……」
パリィが不思議そうにその鏡を受け取る。
「その鏡には
キリング・フェルトの魂の写しが宿って居ます……
千年前のあの日
お二人の亡骸を見つけました。
降り積もる雪の中
パリィ様もキリング様も
愛し合っているのが解るように
抱き合う様に美しく
まだ生きて居るのかと思えました」
パリィはそれを聞き、二人の想いが確かなものであったのを感じ、嬉しく思い僅かに優しく微笑んだ。
「私は哀しくなりましたが
キリング様の魂だけは本当にパリィ様を愛されていたのでしょう。
ですがパリィ様を追い込んでしまった過ちに苛まれ……
まだ肉体に留まって居ました……
私はキリング様の魂を
魔術でこの手鏡に写してから
パリィ様を追う様に
パリィ様なら黄泉で話せば許して下さると
お話ししました
パリィ様は黄泉でキリング様にお会い出来ましたか?」
パリィは微笑みながら言った。
「会えたけど
もうキリングじゃなかったよ。
忘却の水を飲んじゃったみたいで
でも……
キリングの横顔見れたんだけど
キリングらしい良い顔してたの
私が言って色々と罪を感じさせない方がいいかなって
忘れた方が幸せかな?って思えて……
何時迄もキリングらしく居て欲しかったから。
心の中でお別れを言ったの
ずっと元気で居て欲しいから……」
思い出し胸が切なく苦しくなったが、それを感じさせない様にパリィは振る舞っていた。
パリィのキリングへの愛は本当に深く、とても大人びていた。
そんなパリィにバイトは。
「その鏡をお持ち下さい……
黄泉でキリング様が
忘却の水を飲まれてしまわれたのならば
その鏡はキリング様の記憶となります。
捨てるも大切にするものご自由になさって下さい……
では此方に……」
バイドはそう言うと、剣士を拘束している部屋に案内した。
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