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〜第九章 メモリア・白き風〜

155話❅森の助け❅

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 パリィは馬を走らせた、あの話を聞いて、放っておける筈がない、アイファスが戦をするかも知れないのだ。

 攻めるのか攻められるのか、あの街の様子では、攻める様な準備はしていなかった。
 だが戦の噂に敏感な傭兵は自然と集まる、そうだとしたらアイファスが攻められる可能性が高い、パリィは急いだ。

 マルティアの生き残った民の為に、パリィは必死になって急いでいた。


 深夜明かりも灯さずに、夜目を頼りに馬に鞭を入れ続ける、もう少しで森を抜け街道に出る頃……まだ先だが左手脇に大きな塊が見えた。

 先程のトロルが二匹、道に出て来ていたがパリィは既に戦士の目になっていた。

 素早く手綱を離し、魔法の指輪から弓を出し構え素早く狙いを定めて、二本同時に矢を放つ。

 その矢は凄まじく速く、二本とも奥にいたトロルの頭を一本は貫通し一本は眉間に深く刺さりトロル一匹を瞬殺する。

 そして弓を指輪にしまい、風の劔に持ち替えた、力強く時叫んだ。

「闇に去れ!」

 そう叫びながら、襲って来たもう一匹のトロルをすれ違いざまに、首を風の劔に風を乗せて斬り飛ばした!

 凄まじい速さでトロル二匹を倒し街道に出る。
 雪が積もり始めた街道をパリィはがむしゃらに馬を飛ばした。

 その時、パリィの小屋の方から凄まじい咆哮が聞こえた、ピルトのお爺様が叫んでいた。

 パリィは振り向きもせずに馬を飛ばした。


 吐く息が白い、降る雪が顔にあたり、切るように痛みが走る。

 それでもパリィは馬を走らせた……

 暫く馬を走らせ、アイファスの方から血の臭いを僅かに感じた。


 その時パリィの後方から無数の何かが追って来るのを感じた。
 狼の群れだ二百頭はいる大きな群れがパリィを追って来た、馬が疲れているせいか追いつかれるが襲っては来ない。

(まさか……ピルトのお爺様……)

 そうパリィが思った時、馬の限界に気付いた。

「ありがとう!少し休んでて!」

 パリィはそう馬に叫び、飛び降りて走り出した、馬は疲れてすぐに歩き始めるが、やはり狼は馬を襲わなかった。

パリィは思い切って狼に言った。

「半数は西へ!
敵を見つけたら背後から襲って!」

 すると半分の狼が西へ向かって行った、森の狼達が手伝いに来てくれたのだ、さっきピルトのお爺様が叫んでいた、森に呼びかけてくれたのだ。

 パリィは全力で走る、風の様に……

 アイファスの街が見えて来た、うっすらと空が白んでいるが煙が見える……
 夜襲を受けたのか、既に戦場になっていたのだ。


 パリィは買い出しに行った時に何も気づかなかった、全てこの静かな雪に気を取られていた。

 パリィはふっと息を吹き、霧を呼び起こしパリィと狼達は霧に身を隠し全力で走る、街道のある平原は既に雪原の様に白く、更に真っ白な深い霧により、街道は白の世界となった。

 敵が霧に気付いた様だが、パリィと狼には気付いていない、パリィは敵の旗を見た。

 セントリアの街、アイファスから西に一日の距離の街の旗だ。


「セントリアの者を追い払え‼︎」
パリィが叫び狼達はペースが上げた。


 セントリアの見張りだろうか、アイファスの入り口に二十人程敵がいる。
 勝ちが見えてるのか暇そうにしていた時にパリィの深い霧がアイファスに到達した。


「ひでぇ霧だな
何もウアァァァァァ!」
 狼達が霧に紛れセントリアの兵に一気に襲い掛かった。

 手前の数名は瞬時に喉を噛み切られ即死し残った者が戦おうとした時に、すれ違い様にパリィが素早く五人を切り倒した。

 セントリアの見張りは慌てて仲間を呼ぶが、狼達が次々と襲い掛かっていく。

「アイファスの者を助けよ!」
 パリィが狼達にそう指示を出し走り出す。二十頭程の狼がパリィについて来てくれる。


(護衛館に急がないと……
あそこが落ちたら
取り返しがつかないっ!)

 パリィは急いだ、アイファスの街の奥に向かって全力で走り抜けて行く、何人か犠牲になった街の人々が倒れているのが目に入り、パリィは気付いた。

 犠牲が少ないことに、多くの人が逃げられた様だ。


 馬を見かけ飛び乗り鞭を入れ走り出した。

 弓を使う為だ、そして瞬時に斜め右に弓を構え矢を放つ逃げ遅れた人がまだ居たのだ。

 そして襲われてる人々を見かける度に、一矢で敵を射抜きながら護衛館に向かって馬を飛ばした。


「白き風だ……
パリィさんはやっぱり
白き風だったんだ!」
 パリィが助けたエルフの若者がそう叫び隠れていた街の人々がそれを聞いた。

「白き風のパリィ……
北の英雄パリィ様か‼︎」
隠れていた多くの街の人々が希望を見出していた。


 少しして護衛館が見えて来た、街の大通りをセントリアの兵が封鎖しているが、パリィは退かない、そのまま叫んだ。


「私に続け!押し通る‼︎」


 パリィに迷いは無かった、敵を幾ら殺そうとも救うと心に決めていた。


(ふっ……
良い目をしておるのぉ……
だが程々にしてほしいのぉ)

 ムエルテが様子を見ながら心で呟く。

 ムエルテは死の女神だが、命の女神でもある、ムエルテはユリナに頼まれ過去の世界から多くの命を預かり、この世界に導いて来たのだ……、戦と言えどもアイファスが攻められたと言えども、命は命でありムエルテはそれを気にしていた。


 パリィは弓を横に構え矢を二本放つ、その矢は幾つかに分裂し、何人かを倒したが狙いが合わなかったのか、敵の剣や盾に大分防がれてしまっている。
 もうそんなに距離がない、パリィは剣に変え、馬を飛び降り走り出してそのまま、叫び斬り込んだ。


「ウアァァ!」


 パリィの矢を受けた、盾が脆く斬り裂かれた、そのまま身を守ろうとした者を斬り倒していく。

 そのパリィの斬撃は速くセントリアの兵は反応できずに斬られる者さえいる。
 そのまま突っ切り、護衛館の中へ斬り込んでいく、既に日はだいぶ登っていた。

 護衛館では護衛兵達が奮闘し、何とか持ち堪えてくれていた。
 パリィはギリギリで間に合った気がした。


「パリィさん
ここでもやってくれるんですか⁉︎」
まだ元気そうな者が声を掛けて来た。

「えぇ
喧嘩じゃないから後片付けはよろしくね!」

「よし!生きて帰れるぞ
お前ら‼︎」

 護衛兵達が士気を取り戻した。

「仕方ない伝えるかの……」
アイファスの空高い上空でムエルテが呟く。


 パリィは目を鋭くし中の敵を次々斬り倒して行く。 
 そして護衛館に入ろうとする、敵の応援に気を付けながら、素早く剣と弓を持ち替え矢を放ち牽制する。

 そしてムエルテは護衛館の中で戦うパリィ目掛け、スッと指差した。


 パリィは一人の敵兵を斬った時、一瞬だがその者の家族だろうか、暖かい家庭の様子が脳裏を過ぎった。

「あなたっ!
家族はいるのっ⁈⁈」
 パリィはとどめを刺そうとしたが、急に強くその兵に聞き、風の劔を寸止めする。

「いる……」
観念したのかその者は小さく呟く。

「あんたねっ!
アイファスのみんなにも家族がいるのよっ!
それを……
もう武器を持たないで
そこに居なさいっ‼︎」

 パリィはそう叫んだ、護衛館の中にいるセントリアの兵達はそれを聞き劣勢を感じていた者が命欲しさに武器を捨て始める、アイファスの兵達はパリィの優しさを改めて感じていた。

 少しして護衛館の中はあらかた片付いていくが……。

 パリィの鼻を一瞬だが油の臭いがかすめる、包囲していた敵が火矢を用意していたのだ。

「えっ……
こっちには捕虜もいるのに
焼き払うつもりなのっ⁈⁈」
 パリィはその敵の様子に驚いたが、それと同時にかなりの速さで無数の狼達が向かって来る臭いも嗅ぎ取った。

「おりこうさん達……」

 パリィはそう言うと、ふっと息を吹いた、霧が包囲してる者達を包み込んでいく。


「まさか奴は森の白き風なのか?」

 セントリアの指揮官が気付いた様だが、もう遅い、西に向かった狼達が霧の中から飛び出し一斉に襲いかかる

 そしてパリィもそれに合わせて斬り込んでいく。

 すぐに包囲は混乱していき、その様子を見て近くで戦っていた、アイファスの護衛兵達もセントリアの兵に襲いかかり、形勢が逆転していく。


 だがその中で、見事に戦う一人のセントリアの兵が居た、ローブにフードをかぶっていて顔が見えないが、パリィはその者に斬りかかった。

 敵の最も強い戦士を倒し戦意を挫こうと思ったのだ。

 パリィはすれ違い様に、腹部を狙ったがその者は綺麗に止めて、パリィの足を蹴り払った。


 パリィは転倒した所を素早く上から、その者が刺してくるが、それを転がりながらパリィは避ける、狼がその者に飛び掛かり、狼はあっさり斬り殺されその隙に、パリィは起きて弓を構え至近距離から放つ。

 その者は避けれないと判断し、焦らずその矢を掴み取った……

(コイツ……強い……)

 二人とも不思議と全く同じことを思っていた。

 パリィは高速で、右手で逆手に劔を持ち変え右からなぎ払い、躱されるがそのまま回転し、蹴りを入れ其れがやっと決まったように思えたが、相手はパリィの首を狙い紙一重で避け斬り合いになる。

 凄まじい速さで命のやり取りをする二人の姿は周囲の目を奪った。

「なんだ
あいつパリィさんとやり合ってやがる」
アイファスの者が言う。

 パリィも生まれ変わってから初めてであった、自分と対等に戦う相手は。


「ウアァァ!」

 パリィが気迫を込めて斬りかかり、その剣は相手のフードにかかり顔が見えるダークエルフの青年だった。

(剣が軽い……これなら……)

 一瞬キリングかと思ったが別人である、ダークエルフの剣士が、横からなぎ払う様に斬りかかって来た時、パリィは後ろに下がり避けた後、相手の首を狙い剣を振ったが、その瞬間パリィは右上からダークエルフの剣士の肩から深く斬っていた。

 その斬撃に誰もが目を疑った……。

 だがパリィは出来ると思っていた、風の劔が今の戦いの中で羽の様に軽くなっていたのだ。


(お姉ちゃん
私の技、偽りの剣を使えたねっ)

 ユリナがアイファスの西側で、セントリアの援軍を竜巻を起こし防ぎながら、風を読み感じ取っていた。


「クッ……」

 その剣士は僅かに声を出し倒れ、風の劔は元の重さに戻っていた、必要を感じたのか劔自身が自然と軽くなってくれていたのだ。

そして勝負がついた。


パリィは包囲していたセントリアの者達に言った……

「まだ戦うなら
わたくし白き風
パリィ・メモリアが相手になります

立ち去るなら去りなさい……
わたくしは追いませんので……」


 パリィの言葉は敵味方なく多くの者に届いていた。


 セントリアの者達は今の戦いを見て、パリィに挑む者など居るはずが無かった、そして白き風を恐れてくれ撤退していった。


 敵でも命を奪わずに済むなら出来ればそうしたいと思っていた、戦いには慣れているが好きで斬っている訳では無い、パリィは戦いながら敵を退かせる手段を考えていたのだ。
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