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〜第九章 メモリア・白き風〜
151話❅名工のひ孫❅
しおりを挟む翌日パリィは床で目を覚ます。
昨日山賊から逃げてた二人ベッドを貸してあげたのだ。
テミアとテリア二人なら使えるが、パリィも入ると窮屈になってしまう。
幾ら女の子同士と言っても、それは疲れが取れない気がする、ベッドを広げるか新しく作る必要があると感じた一晩であった。
パリィが朝食の支度をしてると、二人は起きて来た。
「ごめんねベッド取っちゃって
でもおかげでゆっくり休めました」
テミアが礼を言ってくれる。
「気にしないでね。
一緒に暮らすんだから
いちいち気にしてたら疲れちゃうよ」
テミアとテリアは笑顔になりパリィに抱きついて言った。
「本当にありがとう
パリィさんに助けてもらって本当に良かった……
本当にありがとうございます」
パリィは微笑みながら、二人の頭を撫で朝食を机に並べ、三人は食事をとる。
昨日の二人は少し遠慮していた様だが、一晩経ち自然に食べてくれる。
そして身支度を整えて、馬車を出して朝からアイファスに向かった。
テミアもテリアも馬車は扱える様だ。
二人に馬車を走らせて貰い、パリィは母が居なくなってから始めて、ゆっくりとアイファスに向かった。
途中で馬車を止めて簡単にお昼を食べる、朝食を作ってる時にパンと干し肉を用意して置いたのだ。
二人もそれには気付いて無かった様で、驚いて居た、少し休んでから馬車をまた走らせる。
パリィは考えていた。
(この冬の間も頑張って貯めれば、春になった頃にはマルティア地域に行けるかな……)
「テミアとテリアは寒いの苦手?」
「寒いのは苦手ですけど……
慣れて行かないといけませんね
ここは北方地域ですからね」
テミアが言いテリアはそれに続いて頷いた。
パリィは二人のことを考えて今回の冬の様子で決める事にした、夕方前にいつも通りにアイファスに着く。
最初に行ったのは服屋だ、テミアとテリアの冬物の服と下着類も買い集める。
二人は戦ったりはしない様だが、二人の家は元々ハンターの家らしく、鍛治もしていたらしい。
父親が槍を使い、魔物を倒しその牙や皮などを持ち帰り武器や防具を作って居たらしい、鍛冶屋の技術は父から教わり、それなりに剣を鍛えることが出来るらしいが……
「まだまだ」
と父に言われた様だ。
パリィは何処かで聞いた事がある話だと思い……ふと聞いて見た。
「お父さんの名前はなんて言うの?」
「父はビルバルです。
人間の戦に巻き込まれて死んでしまいましたが……凄腕の鍛冶屋でもありました」
(ビルバル?……あれ?)
パリィは思い出したが、ビルドの息子はビルバリスだったはず……似ている名前だったのでさらに聞いて見た。
「お爺さんは?」
「ビルバリスと言いますが何か?」
それを聞いて、パリィは微笑んだ。
二人はビルドのひ孫だった。
(なるほど……親しみを感じる訳だ……)
パリィは一人で納得していた。
そう思いながら、次は武器屋に行き今回は鏃と矢を買い、適当な武器を二人に選ばせた。
冬になる……それに、ビルドのひ孫なら狩や身を守る術を教えてあげないと、いつか自分で素材を取りに行きたくなるかも知れない。
そうパリィは考えていた。
二人は槍を選んだ、何故かドワーフは槍と鈍器を好む種族のせいだろうか、それを少しだけパリィは不思議思えた。
食糧も買い足す必要がある、パリィ達は忙しくアイファスの街を行ったり来たりした。
そしてあっという間に夜になり、何時もより遅くに宿屋に着き遅い夕食を取り、部屋に入るとテリアが話しかけ出来た。
「パリィさん
今日はだいぶお金使ったと思うんですけど……」
テリアが気にかけて聞いてきた。
「気にしないで
帰ったら薬草摘みや薪集めを沢山手伝ってもらうし
森での生活と寒さに慣れてくれれば
それでいいよ。
あと鍛冶も出来るようにいつかしてあげるから、沢山いい物作ってね」
そう笑顔で言うと二人は目を輝かせた。
やはりビルドの血を引く二人は鍛冶屋の仕事は好きらしい。
「さっ明日は早く帰って
ベッド広げるからもう休もう」
「わかりました!」
二人は声を揃えて元気に言ってくれた。
その晩パリィは夢を見た。
深々と降る雪の中……
兵士達の声と多くの人々の悲鳴が聞こえる、そして剣と剣が交わる音が響く戦場に居た……
「くそっ!女王様がご存命なら……」
指揮官の一人が絶望を抱えながらそう言った……。
パリィ亡き後、反乱はキリングの死により失敗に終わる。
パリィは女王様不在でも、国が国としての役割を果たせる様に心を砕いて国造りをした結果、パリィの死で国が滅びはしなかったが、女王の戦死は南方に早く広まり、雪解けを待たずに、ベルス帝国が攻めて来たのだ。
マルティアの兵達は必死になり守ろうと戦っているが、女王を失い間もないマルティア軍は統率を失っているのが目に見える。
パリィが作り上げた物が全て破壊されて行く……。
街は焼き払われ男達は殺され、女達は南方に連れて行かれる。
パリィは夢の中で涙を流し剣を抜き、斬りかかるが、敵を斬れない。
何も無かったかの様に、すり抜けてしまう。
「皆んな逃げて!
逃げてぇぇぇーーーーー‼︎」
パリィは心から叫んでいたが聞こえてる様子は、無情にも無い。
「パリィさん!パリィさん‼︎」
テミアの声でパリィはハッと起こされる……。
テミアとテリアが心配そうにしている。
「パリィさん
凄いうなされてましたよ。
大丈夫ですか?」
「えぇ……
冬を越したら極北地域に行きましょう」
パリィの口調が違う、優しい声だが大人らしく静かに言った。
「極北地域に?
どうしたんですか……」
テリアが聞いて来てパリィは自分が生まれ変わりだと言うことを伝えずに、マルティア国の事を話した。
「行ってみたいです……
マルティア国は
ひい爺様が女王様に仕えた国……
どんな所なのか見てみたいです。」
テミアが言ってくれた。
どうやら名工ビルドを二人は誇りに思っている様だ。
その言葉を聞き、パリィは微笑み三人は再び休むことにした。
そしてパリィはまた夢を見る……。
今度は死後に出会った老婆が現れ老婆は言った……。
「良く考えるがいい……
お前さんがしなければならない事を……」
「お老婆さん
まだ……はっきりと解りませんが……」
パリィは涙を流しながら、それでいて表情を変えずに言うが言葉が詰まってしまう……
パリィは気付けば、また死んだ時の姿になって居た。
老婆はパリィを見て微笑み静かに消えて行く……。
パリィは先程見た夢で気付いた、最後に女王では無く、女として生涯を閉じてしまった事に、その為にパリィを信じてくれた、マルティア国の多くの民が犠牲になった事に気付いたのだ。
パリィは知らなければならない。
その後あの極北地域がどうなってしまったのか、パリィ亡き後のマルティア国の記憶を知らなければならない。
そう深く深く心に刻んだ……。
パリィはまだ夢の中で呆然としていた、すると声が聞こえる。
「そちの魂の母は英雄であったのぉ……」
パリィはその声がした方を見る。
死神の様なローブを着て、大きな骨で出来た釜を持っている少女がいた。
「あなたは……?死神?」
パリィは聞いた。
「妾は死の女神ムエルテじゃ
そちは数多の死を生み出した
そちの魂の母ならせぬ過ちを犯した」
「真の母?」
パリィが聞こうとするがムエルテは言う。
「そちの母は真の英雄であったな
だが……そちの妹はそれを超えおった……」
ムエルテが何かを言いたそうに語っている。
「私に妹が?」
パリィは不思議に思っているとムエルテが言う。
「あぁ……
そなたが居たから
あやつは未来を掴み取ったのだ
そなたが居たから……」
ムエルテはそう言うと、少しづつ透明になっていく。
「待ってっ‼︎‼︎
誰なのっ⁈⁈
私のお母さんって誰なの⁈⁈
妹ってどこにいるのっ⁈⁉︎⁈」
パリィは夢の中で叫び、ムエルテの姿は見えなくなってしまったが声が聞こえた。
「妹にはじきにあえようっ!」
翌朝……パリィは目が覚めてから頭の中の記憶を整理していくが、それらしい人が思い当たらない……だが死の女神が言った言葉が脳裏から離れないでいた。
パリィは宿の主人に伝え、宿の裏に行き魔法の指輪から風の劔を取り出し、鞘を腰に刺し劔を抜いた。
朝日がうっすらと空を染め始める、外はまだ寒く吐く息が白い……。
パリィは剣を振り始める、心の中に敵を描きそれと戦い美しく剣を振る。
(お母さんって
ユリナじゃないの?
どう言うことなの……)
パリィは剣を振りながら心から悩む、どう考えても記憶にはユリナしか見当たらない。
(まさか……
私を捨てた人のことなの?)
パリィは女王になった前世、その時は捨て子で母を知らない、その産みの母かと思い始めた。
パリィの剣技は美しく、舞う様に剣を振っている、千年前、彼女の剣は『白き風』と言う名と共に南方まで広く知れ渡っていた、その剣技は生まれ変わった今も衰えてはいなかった。
やがて朝日が上りその光が剣にあたり、キラッキラッと輝く、そして心の敵を全て斬ったのか、剣を振り終えた時、テミアとテリアが起きて来た。
昇る朝日がパリィを美しく照らし、程よくかいた汗がキラキラとパリィを輝かせる。
「パリィさん……
剣がすごい上手ですね。」
テミアが言う。
「おはよう
久しぶり剣を振ってみたんだ
懐かしいなこの感覚……」
いつものパリィの口調だが不思議と悲しそうにも懐かしそうにも聞こえた。
三人は支度をして、馬を一頭買い馬車の荷物を確認し、朝早くアイファスを出発し小屋に帰って行った。
パリィは馬車で無く一人で馬に乗り馬車に併せて馬を走らせていた、昨日のことがあった為に考えていた、ちゃんと伝えるべきだと、やがて街道から小屋までの道に入り、小屋に着いた時はまだ日が高かった。
夕方までまだ時間がある……
パリィは決めていた、昨日うなされて起こしてくれた時にテミアが言ってくれた。
行って見たいと言ってくれた。
出会ってまだ数日も経ってないが二人は、ビルドのひ孫である、ビルドの血を信じて伝えようと心に決めていた。
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