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〜第九章 メモリア・白き風〜

148話❅生まれ変わり❅

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 それから千年後、滅亡したマルティア国からかなり南の森に弓を構える白い髪の若いエルフがいた。
 まだ暖かく動物達も多く見かける。

「ごめんね
でもそこに居ると危ないからね」

 そう言い矢を放つ、狙った先には若い鹿が居たが、その鹿の脇の木に高い音をたてて矢が刺さり、鹿は驚いて逃げて行く……
距離は相当ある、普通の人間では見えない程の距離だ……

 少しして人間の猟師二人がその近くを通り矢を見つけて言う。
「帰るぞ
『白き風』が居るこれじゃ猟にならん」
そう言い猟師達は帰って行く。

『白き風のパリィ』
それは伝説になっていた……


 彼女は少しだけ猟師を追い、本当に帰ったかを確認してから引き返し、打った矢を引き抜きまだ使えるか見てしばらく歩き、彼女は小さな小屋に入り弓と矢を置く、どうやら彼女の家の様だ。
 その小屋の前と後ろには、ピルトの巨木が立っている。
 パリィの小屋はその巨木の間に建ち小屋の中は綺麗に整えられている。
 女性の家らしく花や可愛らしい木彫りのウサギなどが置いてある。



「千年か……」


 彼女はパリィ・メモリアの生まれ変わりであった。
 生まれ変わったのは七百年前、物心ついた時に母は姿を消してしまってそれ以来一人で暮らしている。

 その母は、伝説になっているパリィの様になって欲しいと願い、運命の悪戯かパリィの生まれ変わりにパリィと名付けた。
 パリィはそれに喜ぶより、なはは……と生まれたばかりの時に困った様に笑ったのを覚えている。


 ここから北に一日歩けば、街がありそこで必要な物を買っている、馬車なら半日で着く。
母が居なくなってから自分で弓を作り矢も鏃だけ買って作っている。
全て前世でしていた事が役だっている。

「薬草積みに行かないと……」
そう言いながらふと死後を思い出した。




 死んだ直後パリィは薄暗い洞窟にいた。
 真っ白なドレスを着ていた、それは思い出深いドレスだった。
 無意識のうちに歩き、次第に喉が痛い程に乾いて行く、しばらくすると水がいっぱいに満たされた瓶がありその脇に老婆が居た。

「すみません……
水を分けて貰えませんか?」
パリィはその老婆に聞く。

「お前さんには分けられん」
老婆は意地悪にそう言う。

「死にそうなくらい喉が乾いてるんです、
お願いします。」
パリィは深く礼をして老婆に頼むが……
「何を言っておる
お前さんは既に死んでいる」

そう老婆に言われパリィは思い出した……

その瞬間!

 腹部から血が流れたかの様に白いドレスが赤くそまり、斬り裂いた自らの首の傷口が開くが、血が噴き出さず、ドプドプと流れ落ちる。

パリィはそれに僅かに動揺するが、意識を持ち直し取り乱さなかった……
そして老婆に聞いた。

「この喉の渇きは……
子殺しの罰なのですか?」

「ほう取り乱さないとは大したもんだの……流石に多くの者を率い戦い多くの死を見てきた者は違うのぉ」
老婆は穏やかに微笑みそして伝える。

「違う……
子殺しの罪はその様に優しくは無い


そなたは生まれ変われ、何百年かの後に……生まれ変われ。

そなたは子を殺した、大陸を平和に導く女王になる者を、母でありながら殺した。
なぜ殺したかなどはどうでもいい
全て知っている」
そう老婆は言い遠くを見た。

 パリィがその視線を追った先にはキリングがいた、パリィはキリングを呼ぼうとした。

「彼はそなたの知っている者ではない
この水を飲み全ての記憶を失った」
そう老婆が言うと、パリィは理解した……老婆が水を飲ませない理由を。

 そして心の中でキリングに別れを告げた。

「お老婆さん
生まれ変わって私は何をすればいいの?
この子のために何をすれば良いの?」

老婆は微笑み言う。
「そなたが考えれば良い」

 そう言いながら老婆はその水が満たされた瓶ごと消えていった……



パリィ暫くぼーっとしていた。
気づいたら既に夕方になっていて、空が美しくオレンジ色に染まっていた。
翌日に薬草を摘みに行く事にして、夕食の支度を始める。
お金を貯めているのだ。

 だいぶ溜まっているがまだ足りない、このマルティアの地にまた国を作ろうと考えていた。


 マルティア国が滅び、ベルス帝国はその百年後に南北に分裂し、その五十年後に滅亡、それ以降マルティア地域を含む広大な北方地域は都市単位の自治自衛する様になっている。
 理由は冬が厳し過ぎる為に、南部の国が侵攻して来ないのだ。

 マルティア国はそれでも国として、あの当時は長く続き勢力を誇った、あれ以降短期間であれば小国は生まれてはいるが長続きはしていなかった……


 次の日はよく晴れ暖かい日であった。
 パリィは支度を整える、予め幾つもの皮の袋を持って行く。

 小屋の裏にある馬小屋に行き二頭の馬に餌をあげて、馬小屋の中にある小さな幌付き馬車を見て異常が無いかを見てから薬草を積みに出かけた。
 薬草によっては翌日に売りに行った方がいい物もあるからだ。

 当然弓と矢筒も持って行く、賞金稼ぎはもうしていない、キリングとの出会いがそうであたからだ……
 思い出せば、前世で負けたのは一度だけ……キリングに負けた一度だけだった、正直本気で戦ってはいなかったが、勝ちを譲ったのだ。

 そう言えば二日も過去を、思い出しながら過ごすのは久しぶりに思えた時、黄色い傘のキノコを見かけた。

 タマゴダケだ、体力の回復を早めたり元気が出るキノコを見つけ、それを摘み取り革の袋に入れる、そんなに高くないキノコだが、収穫は収穫だ。

 その時風が吹き、何かの香りをパリィは感じた……

「これは……星見草……」
パリィはその香りを辿った。

 星見草の花はこの時期に咲く貴重な薬草だ、集中力を高める効果が非常に高く、夜に使えば、小さな星も見逃さないと言われている。

 パリィは鼻が利く、エルフは元々風の香りで嵐や雨を読むが、弓を使うエルフは香りだけで無く、風の強さや暖かさ冷たさを繊細に感じ風の流れさえ読む。

 パリィは前世から集中した時だけ異常な嗅覚を更に発揮させていた。
そして草や獣さえ見抜いて行く。

 暫く歩くと、遠くに白い花が見えた、美しく五つの花びらを開き、可憐に咲いている……星見草だ、しかも二輪咲いている。


 パリィは慎重に弓を持ち、周りを良く見渡しながら近づく、実は星見草の花はそのまま食べても、とても甘くて、熊の大好物でもある。

 パリィは星見草を根ごと綺麗に摘み、皮の袋に入れそして更に二重に袋に入れた、星見草は匂いが強いからだ。

 そして背後の森から何かが歩いて来るのを感じた。
「この足音は……やっぱり……」

 そう呟きながら、パリィはゆっくり振り向くと、熊だ……かなり大きい、星見草の匂いに風下から寄って来ていたのだ。


パリィは即座に二つ考えた……

一つは逃げる……
一つは狩る……

 狩ろうと思って狩れない相手では無いが、狩るならその命を無駄にしたくは無い、熊の肝は干せばかなり高く売れる、肉もいい値がつくが!

 あいにく日暮までの時間を考えれば、今手持ちのナイフでは時間がかかり過ぎる。

そう考えた結果……

「お、お邪魔しました。」
 そう小声でいいながらソロリソロリと去ろうとした時。

「グオォー」
熊は襲って来た!

パリィは走りだした。

 風の様に速く木々の合間を縫う様に素早く走る、熊も相当速い、普通の人間ならばすぐに追いつかれてしまう。

「なはは、熊さんも頑張るね。
でも逃げてるんだから逃してねっ」
 パリィは本気で走ってはいない、十分撒ける自信があった。

『白き風』とはパリィの速さから呼ばれた字名だ、その速さで靡く髪と、パリィの美しい白い肌が白い風の様に見えるらしいが、それは本当の理由では無い。

 パリィは本気を出すと水の力を利用して深い霧を生み出す事も出来る、その霧を纏いながら風と共に疾走すると、正に白い風が走り抜けて行く様に見えるのだ。


 熊は必死に走るがエルフの持久力に敵う筈がない、暫くすると諦めたか追うのを辞めて匂いを追い始めた。

 パリィもそれに気づき、走りながら小瓶を取り出して、少しづつ中の液体を撒いていく……ピルトの香油と言う強力な獣除けの香油だ。

 パリィはそのまま走り去り、あっさりと熊を撒いた。

「熊さん残念!
でも命が助かったと思って許してね」

 本来明るい性格だが、前世よりも明るくなっているのに、パリィはこの時はまだ気付かなかった。
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