上 下
151 / 234
〜第七章 ファーブラ・神々の参戦〜

140話✡︎✡︎天界の反乱✡︎✡︎

しおりを挟む




「オディウム!生まれ変わったのなら、我らと共にニヒルと戦いなさい‼︎」
 メトゥスがユリナに駆け寄りオディウムに叫ぶ!

「メトゥスかどうした?
女らしく可愛くなったじゃないか、だが悪いが俺にその気は無い……

お前ら全員を相手にするのは少し分が悪いな……

だが昔のよしみだ一つだけ教えてやるぜ……

ユリナ!お前が今見たのは紛れも無い未来だ!
お前が守った未来だ……
だが守れるのか?今のお前に?」
 オディウムはそう言いながら赤黒い霧になって消えて行ってしまった。


オプスが何かを感じで呟いた。
「ニヒル……」

 それはゆっくりと森の中を歩み寄ってくる……
「オディウムは逃げたか……」
森の中から凄まじい重圧を放つ声がする。

「クッ……」
ムエルテが森を睨みながら声を漏らす。


「私が守った未来……」
ユリナが呟き、その言葉に希望を見出したそれは間違っていないと言う希望だった。

「なら何故ユリナさんを襲ったの?
オディウムは……」
メトゥスが呟きオプスが気付いた。

 それはユリナが暗黒を持っている為に、闇の性質もオディウムは得ているのでは?
もしドッペルの性質であれば、ユリナを殺してその力を奪おうとしたのでは……?オプスはそう考えた。

 オプスはそれを知り、自分の愚かさに気づいていた。
 あれはトールでは無い、十万年待ち続けた愛が実り僅か二年しか……それは幻の様な時であったが、もうそんな事は言ってられなかった。



「お喋りしてる暇は無いぞ……」
ムエルテが鎌を構えて言う。

 その瞳は殺気に満ち溢れている、そして僅かだが希望の光を宿らせていた。
 以前ユリナに見せた敗北を見つめていた瞳では無かった。


 足音を立てながらニヒルが現れる……崩壊を告げる、そう思わせる様な足音を立てて、ユリナがよろめきながら立ち上がる。

「オプス……
悪いが妾に付き合ってくれぬか?
メトゥス!ユリナを連れて逃げろ‼︎
貴様が消滅しようとも何としても逃がせ!

いいな‼︎」
 ムエルテはまだ半神半人であるユリナが戦えるとは思わなかった。
 トールの姿をしたオディウムに身も心も傷つけられ、正常な判断を欠く事を懸念していた。
 メトゥスはそれを察してユリナが力を使わないように、ユリナの顔に手を当てて気絶させ空に飛び立ちその場を離れた。


「ふっ……エルフ一人を逃してなんになるのだ?
ムエルテお前らしく無い愚かな選択をするな」
 ニヒルがそう言いオプスもムエルテも気付いた……ニヒルはまだ気付いていない事を、無の神ニヒルに対等する神、時の女神テンプスが目覚めようとしている事にまだ気付いて無いのだ。

 オプスは立ち上がりニヒルを睨んだ……カイナの死も既に数十万の命が、この地上から消えた、それはニヒルがディアボロスとしてでは無く、無の神として本性を表したからだ……
そしてトールは命を落とした、その全ての怒りをニヒルにぶつけた!


 オプスは瞳を見開きニヒルに飛びかかる!
 右腕から闇の剣を出してニヒルの首目掛けて斬りかかる、闇の街道で無の力で身を守っていた巨人族を切り裂いた剣だ。

 その背後からムエルテが素早く斬りかかるが、ニヒルは姿を消しムエルテの鎌にオプスの剣があたる。
 ニヒルは二人の横から襲い掛かるが、オプスは漆黒の霧になり躱し、ムエルテは姿を消して躱す。

 無を支配する神に、冥界を支配する神と暗黒世界を支配する神が共に挑んだ。
 オプスとムエルテ、そしてニヒルも決定的に打撃を与える術がない様に見えるが、ニヒルは二人の戦いに疑問を抱いた。

(ムエルテ……お前は我を滅ぼせぬ……
それを知っている筈……

オプス……お前の力も我に類似する……
二人とも利口な神……
無駄な事を避けるはずだが……

何故だ!

何故!その瞳に希望を宿せる‼︎)
ニヒルが初めて困惑していた。


その様子を天界の神々が見ていた。
「お母様!
何故我らを地上に遣わさないのですか?」
ウィンディアがアインに問い正す。

「お姉様がニヒルと戦っているのです。
トールを失った悲しみを押し殺して……
其れなのに……
私達は本当に神なのですか!」

 ガイアがそれに続く……母アインの怒りを最もおそれ、母想いのガイアが初めてアインに意見した。

 そこに天界の者では無い者が現れた。
 黒い影だ……ウィンディアもガイアもその者に手をかざし殺そうとする。
「何故巨人族が!ここに‼︎」
ウィンディアが怒り叫ぶ。

「やめなさい……」
アインがウィンディアとガイアを止めた!

「そう言う事だ……
ウィンディア、ガイアよニヒル様は地上を滅ぼす事を見守れば、天界には手を出さぬと約束された。
新しき世界を作る為に力を貸すと言われた……」
影が言う。

「そんな……お母様!
それを信じると言うのですか‼︎」
ウィンディアが激怒した。

 アインは自分の息子と娘を考えそう判断した……それはニヒルの力が強大すぎる為に天界が関与しても無意味と思ったのだ。
ウィンディアとガイアはそれをその瞳で見た……。

ガイアは素早く黒い影に岩の槍を突き刺す!
「そんなの間違っている!
私達が守る命達をまた見捨てるなんて!」
ガイアが怒り、ニヒルの使者を殺すがそれをアインが止めようとしたが、黒い影が数多く現れた……

「アイン、其方は手を出さなくて良い。
意に背く者は我らが止めよう」
 影がそう言い、次々とガイアに襲い掛かるが大地の女神ガイアの抵抗は凄まじく次々とガイアの手で殺されていく。
「六大神に貴方が敵うと思っているのですか⁈‼︎」
 ガイアが叫ぶが、闇の祝福を過信しているのか巨人族は怯まないで向かってくる。



「ウィンディア!ガイアを止めなさい、天界の者でいたければ、ガイアを止めなさい!」
アインが叫ぶ……
「ウィンディア!地上に行って‼︎」
ガイアが叫ぶ。
 美しい天界に巨人族の血が流れ汚されていく、ウィンディアは悩まなかった。



そしてガイアに向けて手をかざした。



力を込めて風を操ろうとする。
「ウィンディア!」
 ガイアは驚き戸惑うが、ガイアの後ろから襲おうとした巨人族を、カマイタチの様な真空が斬り裂いて叫んだ。
「お母様は間違っています!
もうここは天界じゃない‼︎」
 そう叫んでウィンディアは地上に向かって行った。
 それを止めようと巨人族がその行手を阻むが、紅蓮の炎が焼き尽くした。
「行け……母上は俺が止める……」
屈強な戦士を思わせる男神が現れる。

「イグニス……」
 ウィンディアが驚きその者を呼んだ、沈黙を守る炎神イグニスが動いたのだ。

「俺の種族オークの為だ気にするな……」
 イグニスは戦士の魂の源、何もしない天界に嫌気がさしていた、その上に天界が地上を見捨てる事、ニヒルに屈する事に怒りを爆発させたのだ……

「天使達よ、母アインを捕らえなさい。
ニヒルの言葉を信じる事が何を意味するか考えれば解るはずです……」
水の女神エヴァが透き通った声で言う。


 天界に残る六大神全てが、アインに背いた……六大神は六人揃ってもアインに敵うかわからない……それでも背いたのだ……
「みんな……」
「行け!兄上と姉上を助けよ‼︎」
イグニスが言う。

 ウィンディアは頷き走り出した!全ての崩壊から抵抗する地上に向かって。


「貴方達!私に逆らうのですか⁈」
アインは怒り叫ぶが!
 ガイアもイグニスもエヴァも神として恐れなかった……


 そして天界で神々の戦いが幕を開けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

さようなら、家族の皆さま~不要だと捨てられた妻は、精霊王の愛し子でした~

みなと
ファンタジー
目が覚めた私は、ぼんやりする頭で考えた。 生まれた息子は乳母と義母、父親である夫には懐いている。私のことは、無関心。むしろ馬鹿にする対象でしかない。 夫は、私の実家の資産にしか興味は無い。 なら、私は何に興味を持てばいいのかしら。 きっと、私が生きているのが邪魔な人がいるんでしょうね。 お生憎様、死んでやるつもりなんてないの。 やっと、私は『私』をやり直せる。 死の淵から舞い戻った私は、遅ればせながら『自分』をやり直して楽しく生きていきましょう。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

お母さん冒険者、ログインボーナスでスキル【主婦】に目覚めました。週一貰えるチラシで冒険者生活頑張ります!

林優子
ファンタジー
二人の子持ち27歳のカチュア(主婦)は家計を助けるためダンジョンの荷物運びの仕事(パート)をしている。危険が少なく手軽なため、迷宮都市ロアでは若者や主婦には人気の仕事だ。 夢は100万ゴールドの貯金。それだけあれば三人揃って国境警備の任務についているパパに会いに行けるのだ。 そんなカチュアがダンジョン内の女神像から百回ログインボーナスで貰ったのは、オシャレながま口とポイントカード、そして一枚のチラシ? 「モンスターポイント三倍デーって何?」 「4の付く日は薬草デー?」 「お肉の日とお魚の日があるのねー」 神様からスキル【主婦/主夫】を授かった最弱の冒険者ママ、カチュアさんがワンオペ育児と冒険者生活頑張る話。 ※他サイトにも投稿してます

異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow
ファンタジー
 主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。  そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。  転生した先は侯爵家の子息。  妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。  女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。  ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。  理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。  メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。  しかしそう簡単な話ではない。  女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。  2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・  多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。  しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。  信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。  いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。  孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。  また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。  果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

処理中です...